はじめに
「シリアルアントレプレナー」「連続起業家」——この言葉を耳にする機会が増えています。イーロン・マスク、ピーター・ティール、ジャック・ドーシー。アメリカのスタートアップエコシステムの中心には、連続起業家と呼ばれる人たちが確かにいます。そして日本でも、2010年代に一度起業した経験を持つ起業家たちが、2020年前後に再び大型の資金調達を行うケースが増えています。
5〜6年にわたってスタートアップ関連のメディアを運営してきたファーストライト・キャピタルのチーフアナリスト早船には、一つの確信があります。「スタートアップエコシステムの厚みは、連続起業家の厚みなんじゃないか」。
今回はその確信を軸に、岩澤との対話を通じて「連続起業家とは何者か」「なぜ成功しやすいと言われるのか」「そこに潜む不都合な真実とは何か」を掘り下げます。
※この記事は、ポッドキャスト「VIVA VC」シーズン3第9回をもとに作成しました。番組では、連続起業家とスタートアップエコシステムの関係についてさらに詳しく語っています。ぜひお聴きください。
日本でも増える連続起業家——投資家はほぼ全案件を検討する [04:12-09:40]
シリアルアントレプレナーの代表格として、アメリカではPayPalマフィアと呼ばれるイーロン・マスクやピーター・ティールの名がすぐに浮かびます。PayPalから生まれた起業家たちは今やアメリカの政治経済にまで影響力を持つほどです。Twitterの創業者ジャック・ドーシーもその一人に数えられます。
日本でも連続起業家の存在感は着実に増しています。ジョーシス創業者の松本氏、LayerXの福島氏(シリーズBで150億円という日本のスタートアップ史でも前代未聞の調達額)、SmartHRの宮田氏、そしてユーザーベース出身の梅田氏がソーラーパネルとHEMSの一体型システムを提供するモノクロームを立ち上げ全く違う領域で再起業するケースなど、枚挙にいとまがありません。
投資家側から見ると、連続起業家が新しい事業を立ち上げて資金調達するとなると「ほぼ全案件を検討する」と言っても過言ではないほどの動きが生まれます。バリュエーションは高くても、クイックに調達が完了するケースが多い。その背景には、以前に縁のあったキャピタリストからピンポイントで声がけがあるというルートが機能している実態があります。
「二回目だから成功確率が高い」は本当か——不都合な真実 [09:41-12:14]
しかし岩澤はここで一つの「不都合な真実」を指摘します。「連続起業家だったら誰でもいい」という風潮が一部に生まれていると感じているということです。
二回目・三回目の起業家に対して、「前回の経験があるから成功確率が高い」というピッチが行われ、VCもそこに引き寄せられていく。しかし早船が名前を挙げた連続起業家の方たちをよく見ると、単に二回目・三回目の打席に立っているのではなく、一回目の時にすでに成功しているという点が共通しています。
ハーバード大学が2010年に発表した論文によれば、過去にIPOした起業家が次に起業した際の成功確率は30%。一方、初めて起業した起業家の成功確率は21%。差としては約1.5倍です。20社に投資してそのうち20%がIPOすれば良いという世界観の中では、二割バッターと三割バッターの差は極めて大きい。しかしそれは「IPOまで経験した起業家」という前提があってこそであり、単に起業経験があるというだけでは別の話です。
連続起業家への注目が高まる今だからこそ、その数字の背景にある「成功経験があるかどうか」というポイントを冷静に見極める必要があります。
それでもなぜ、また起業するのか——天性のイノベーターの動機 [12:53-16:18]
IPOを経験し、数億円の資産を形成した起業家が、なぜまたゼロから仲間を集めてプロダクトを作る茨の道を選ぶのか。岩澤は担当させてもらっているシリアルアントレプレナーの方たちを見て、改めて感じるのは「刺激」だと言います。
起業する、社会課題に立ち向かうために、またゼロから仲間を集めてプロダクトを作る——そのプロセスを一回経験してしまうと、引退しない限り、普通の仕事ではその欲求を満たすことがもうできなくなってしまう。「起業が一番楽しい人生」だと言い切る人たちが、連続起業家には多いのです。
さらに事業がスケールフェーズに入ると、自分でプロダクトを立ち上げるよりも千人・二千人の組織をマネジメントするとか、資本市場とIRで対話していくといった役割に変わっていきます。そこに面白みを感じられず、ゼロイチをもう一度やりたい、顧客に向き合いたいという人がシリアルに動いていく——これが連続起業家の本質的な動機だという見立てです。
人によっては、起業だけでは満足できなくなって生きるか死ぬかの挑戦をし始めるケースもあります。岩澤の言葉を借りれば、「どんどんみんなエクストリームになっていく」という状態です。
一周目と何が違うのか——チームビルディング・市場選び・課題の解き方 [16:44-20:41]
では具体的に、連続起業家はなぜ成功確率が高いのか。岩澤は3つの違いを挙げます。チームビルディング、市場選び、そして課題の解き方です。
中でも特徴的なのが「課題の解き方」の違いです。一回目の起業家は自前主義でやるケースが多い。VCから資金調達をして、自前でプロダクトを作り、自前で売上を積み上げていくというステップを踏みます。しかし二回目・三回目の起業家は、初速のところから外部パートナーを積極的に活用して速度を上げに行く傾向が強いといいます。自前でやった時の速度感を知っているからこそ、どこに外部のレバレッジをかければ変化を速くできるかが見えているのです。
具体的な例として、モノクロームの梅田氏は創業前からダイキンとパートナーシップを組んで出資も絡めながら立ち上げることを最初から描いていました。PeopleXの橘氏は弁護士ドットコムでクラウドサインの基幹的な部分を立ち上げた経験を持ちながら、外部パートナーをフルに活用してAI面接を立ち上げるというアプローチを取っています。
そして梅田氏がユーザーベース時代と最も違うポイントは、チームビルディングです。最初からCEOができる可能性があるメンバーを採用する。4〜5人のCXOクラスのメンバーを登用し、結果が出たら上げるという段階的なやり方ではなく、最初からこのメンバーなら経営を託せるというチーム経営を最初からデザインしているというのです。
資金集めの面だけが表層的に注目されがちな連続起業家ですが、実はこうした人脈面・組織作りの面でも、すでに信用を得てレバレッジが効いた状態でスタートできるという特徴があります。
一周目の自分の起業家としての限界値を知っていて、そこをどう変えるかにフォーカスする——それが必然的に事業の初速を速くし、資金調達の巧みさにもつながっていきます。「失敗からうまく学べる起業家かどうかが、究極の問い」という岩澤の言葉は、連続起業家の本質を突いています。
おわりに
連続起業家の存在がスタートアップエコシステムにとって重要なのは、彼らが単に成功しやすいからではありません。その経験と知見が、一周目の起業家へと渡っていくことで、エコシステム全体の厚みが増していくからです。
連続起業家が増えること、そしてVCがそのノウハウを一周目の起業家にも共有していくこと——この循環が機能するほど、日本のスタートアップエコシステムは次のステージへと近づいていきます。「連続起業家の厚みがエコシステムの厚みだ」という早船の確信は、こうした視点から読むとより深い意味を持ちます。
※この記事は、ポッドキャスト「VIVA VC」シーズン3第9回をもとに作成しました。番組では、連続起業家の成功要因とスタートアップエコシステムへの影響についてさらに詳しく語っています。ぜひお聴きください。
執筆 : 岩澤 脩 | ファーストライト・キャピタル 代表取締役・マネージングパートナー
編集 : ファーストライト・キャピタル | リサーチ・チーム
2026.6.11
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