はじめに
ポッドキャスト「VIVA VC」が書籍化され、2026年5月22日に「だからベンチャーキャピタルはやめられない 投資家だけが知っている企業とお金のリアル」が発売された。
今回は書籍発売記念の特別回。普段は制作の裏方を務めるポッドキャストスタジオChronicleの野村プロデューサーが番組に初登場し、ファーストライトキャピタルの岩澤とともに、書籍化の経緯から執筆の苦労、装丁をめぐる試行錯誤まで、「本作りのリアル」を語り合った。
※この記事は、ポッドキャスト「VIVA VC」シーズン3第10回をもとに作成しました。番組では、書籍化の裏側についてさらに詳しく語っています。ぜひお聴きください。
「本になる可能性あるね」から始まった [00:47-05:18]
野村:ついにVIVA VCが書籍化されました。おめでとうございます。この回の配信が5月23日、その前日の22日が発売日ですね。
岩澤:Amazonでは22日、書店には24日から並びます。タイトルは「だからベンチャーキャピタルはやめられない 投資家だけが知っている企業とお金のリアル」。番組のサブタイトルがそのまま本のタイトルになりました。これまで伝えてきた内容が凝縮されたタイトルです。
野村:ストレートに伝わるタイトルですよね。VIVA VCは、ふわっとしか知られていないベンチャーキャピタルのリアルな姿、その「生々しさ」を語る番組なので、それが込められているなと。そもそも書籍化には興味がおありでしたか?
岩澤:全くありませんでした。番組を始める時のディスカッションで、野村さんから「これ、本になる可能性がある」と言われて、初めて自分にもそういうナレッジがあるんだと気づきました。
野村:最初にお話を伺った時点で、ナレッジがかなり確立されている印象がありました。体系的にやったら面白いかもしれない。それで、書籍を見据えてまず半年分作ってみませんか、と提案した記憶があります。実はシーズン1は、最初から「章立て」で設計しているんですよね。
岩澤:リスナーさんは気づかれないかもしれませんが、第一章、第二章、第三章と展開していく構成で、これは野村さんのアイデアです。しかも教科書的に書くのではなく、生々しいエピソードを交えて伝えるテンプレートを各回ごとに作った。まず「どういうことなのか」から入り、「とはいえ実際はこんなことが起きる」、最後は「それでもベンチャーキャピタルは楽しい」で締める。その型を通して、自分の考えも整理されていきました。
野村:その後はどう進んだんですか?
岩澤:シーズン1を聴いてくださっていた編集者の千葉さんから「本にしてみたらどうか」とお声がけいただいたのがスタートです。2025年の9月頃ですね。ポッドキャストで話した内容がベースにあるので、正直「結構簡単にできるんじゃないか」と舐めていたんですが、全然そんなことなかったです。
水曜日をブロックし、Slackを切って書く [05:19-07:55]
野村:実際に本を制作されていかがでしたか?
岩澤:話した内容をまとめていくと、足りない部分が出てきます。それを書き足すんですが、書ききれない部分も出てきます。一方で時間はどんどんなくなって、最終的には本業を圧迫するほどでした。シーズン2ではニュース解説にかなり時間を取られていて、それと並行しての執筆だったので、週の半分は何かしら書いていたかもしれません。
野村:執筆はどのようなタイミングを充てていたのですか?
岩澤:野村さんはお子さんが寝た後に書くタイプですよね。私は夜は飲みに出てしまうので、平日の水曜日を丸一日ブロックして集中する方法にしました。社内には「絶対にミーティングを入れない」と通知して、文句を言われながら。SlackもMessengerも全部切って書いていました。本って、1時間の細切れでやってもなかなか進まなくないですか?
野村:本当にそうなんです。経営やマネジメントをやっている時の脳と、本を書く時の脳は全く別物で、モードに入るまでが大変。だから細切れの1時間がいくらあっても進まないんですよね。
岩澤:1時間だと毎回振り出しに戻る感覚で、3時間、4時間とまとめて取らないと難しい。これは初めての体験でした。
傷痕だらけの「ロードムービー」として [07:55-11:41]
野村:ベンチャーキャピタルをテーマにした本を作るにあたって、世に出ている本との違いは意識しましたか?
岩澤:VCの本は昔から結構出ていますが、学術的・教科書的なものが多く、現役のキャピタリストが現業に活かすために読む本が中心です。今回意識したのは、これからベンチャーキャピタルを目指したい方や、キャピタリストとして働きながらGPとして自分のVCを作りたいと考えている方。だからできるだけ生々しく、ロードムービーのように、私自身のVCとしての失敗をさらけ出す書き方をしています。
野村:通して読みましたが、岩澤さんの「傷痕」の数々が刻まれた本でしたね。
岩澤:本当に傷痕しかないなと、書いてみて思いました。ただ、一つひとつのエピソードは全部忘れていたんです。ハードシングスは経験するほど麻痺していくので。執筆はその古傷を深掘りする自分との闘いで、「ああ、この時あったな」と思い出しては吐きそうになっていました。
野村:読者としては、これからVCに興味を持つ方だけでなく、すでにキャピタリストとして働いている方も想定しているんですね。
岩澤:VCにはファンドを経営するGPと、メンバーとして働く若手キャピタリストがいます。その中から「自分もベンチャーキャピタル経営者になってみよう」という人がもっと増えてほしい、という思いを込めました。
野村:一昔前より、VCで働くことはキャリアとして注目されていますよね。「実際はこうなんだよ」と知ってもらう業界研究の入り口としてもいい本だと思いました。
岩澤:投資銀行もコンサルも、出てきた当初は「何者かわからない業界」でした。その後、中の人の仕事を描いたエッセイ的な物語が出てきて、働く人の裾野が広がった。ベンチャーキャピタルは今まさにその転換期です。実は志望者は減っていて、もっと稼げるバイアウトファンドに人が流れている。だからこそ内情を知ってもらい、投資するだけではない醍醐味を伝えて、もう一度興味を持ってもらいたいんです。
野村:お金をシビアに計算するのは大前提として、「成長に寄り添う」ことが一番の醍醐味。そこは本からしっかり伝わってきました。
振られる感覚、全人格的な仕事 [11:41-16:19]
岩澤:VCはお金の側面が目立つ仕事です。業界の外からは「起業家にフリーライドして金儲けしているだけじゃないか」と批判されることもある。でも実際は、人間臭い部分が半分くらいを占めているんですよね。そこは感じていただけたでしょうか?
野村:すごく感じました。厳しく言ったために離れていく起業家もいれば、それで信頼してくれる起業家もいるという話。それから、資金集めと投資のドラマ。「出資の直前に『三十分ミーティングしていいですか』と言われたら、大体悪い話」なんて、本当に生々しいなと。
岩澤:起業家から「振られる」感覚ですね。
野村:でも、一度振られたと思った起業家がまた戻ってくる話も書かれていて。人間と人間の仕事なんだと伝わる本でした。「全人格的にやる」という言葉も印象的でしたね。全人格的に向き合うキャピタリストこそ、起業家に求められるということですよね。
岩澤:投資した後の付き合いの方が長いですからね。十年近い付き合いになるのに、フィット感がないままだったら、結婚生活に例えたら地獄ですよ。
野村:「何社見ているかでVCの姿勢が見える」という指摘も、なるほどと思いました。一人のキャピタリストが大量の会社を担当するスタイルで、どこまで寄り添えるのかと。
岩澤:一夫多妻制みたいなものです。リソースは限られているので、一人当たりの担当社数で関わりの密度は変わる。そこはごまかせません。
野村:書店のVCの棚には、分厚くて難しそうな本が並んでいます。この本は正直、優しい本ではない。初心者向けでもない。でも読み口は読みやすくて、これからVCに入ろうか、理解を深めようかという方の学びになる本に仕上がっていると思います。
岩澤:読んでいただくと、「二冊の本が一緒になっている」ような感覚があるはずです。ヒューマンタッチの部分と、金融の知見の部分。頭を切り替えながら読んでもらうと、より入ってきやすいと思います。
野村:ステージごとの通過数やタームの話など、理論的な内容も盛り込まれていますしね。
岩澤:これから起業したい方がファイナンスの教科書として使うこともできますし、VCと交渉する時に「相手が今何を考えているのか」を知る上でも役立つはずです。あまり使われすぎると、ベンチャーキャピタルの先輩方に怒られるかもしれませんが。
野村:キャピタリストはお金があるように見られるから、起業家との飲み会では大体払う側になる。でも実はそんなに持っていなくて、特に最初のうちはみんな我慢している、これは起業家の皆さんに知ってほしい話ですよね。
装丁のA/Bテストと、誤植のジンクス [16:19-23:43]
野村:配信時点では装丁が決まっているはずですが、収録時点ではまだ議論の最中で、いくつか案があるんですよね。これは『経営中毒』と同じ装丁家の方ですか?
岩澤:そうなんです。「兄弟本」と言っても過言ではないかもしれません。
野村:『経営中毒』は経営者の側、こちらは投資家の側。コインの裏表ですね。
岩澤:セットで読むと両側がわかる。起業家の泣き笑いと、投資家の泣き笑いです。
野村:お互い強そうに見えて、一枚皮をめくるとみんな泣いている、と。装丁案は赤が主体で、人の顔のイラストが一人のバージョンと何人かのバージョンがある。第一印象では、何人かいる方がパッと目に入ってきました。ファーストライトキャピタルのイメージにも、チーム感のある方が合う気がします。
岩澤:編集部や社内でアンケートを取っているんですが、やはりそのバージョンが人気です。一人のバージョンだと「これは岩澤か」となってしまいますし。
野村:顔を知らない読者には絶対「岩澤先生」になりますよね。実際は欧米風の短髪のイラストなんですが。中身でもチームビルディングの大切さが書かれていて、VCは集団でやるものなんだと読むと伝わってきます。それにしても、装丁は毎回難しいですね。
岩澤:野村さんも迷いました?
野村:迷いました。ただ自分の著書「プロ目線のポッドキャストの付け方」の場合は、イラストレーターさんとフィーリングが合って、最初のイラストで直感的に決まりました。あとは夜っぽくするか昼っぽくするかくらいの違いで。ポッドキャストには親密な空間で秘密の話をしている感じがあるので、最終的に夜っぽい仕上がりに。『経営中毒』は男性の顔一人という構図は固まっていて、ピンク、緑、黄色と色違いが何パターンかあった。担当編集の方が実際に紙に印刷して書店に全バージョンを置き、どれが一番埋もれないかを写真に撮って見比べて、黄色に決めたんです。
岩澤:A/Bテストですね。本がこういうプロセスを経て書店に並んでいるというのは、今回大きな学びでした。原稿の修正も何往復もしましたし。
野村:編集者の指摘、ご自身の修正、校正者のチェックと重なっていきますからね。ちなみに誤字脱字は潰せました?
岩澤:ほぼなかったですね。
野村:精度が高い。ただ、本作りにはジンクスがあるんですよ。「どれだけ見たと思っても、誤植は絶対どこかにある」という。
岩澤:じゃあ私が完全に見落としているんだと思います。気づいていないだけで。
野村:私自身、自分の著書で固有名詞を派手に一箇所間違えたことがあります。昔からファンで、この番組があったから自分はポッドキャストの道を選んだ——といういい話の文脈で書いた、その番組のタイトル名が間違っていた。初版はそのまま印刷されてしまい、幸い重版がかかったタイミングで直せました。最悪だったのは、その番組にゲスト出演した時、プロデューサー本人から指摘されたことですね。
岩澤:ちょっと怖くなってきました。
野村:大丈夫です、本あるあるなので。プロが何周も読んで作っていても、人間の目で見落とすものはあるということです。
岩澤:それだけの苦労が重なって、書店に並んでいるわけですね。
インベスターではなく、「キャピタリスト」である [23:59-26:43]
野村:最後に、どんな方に読んでほしいか、伝えたいことはありますか?
岩澤:本の最後に書いたのが、「インベスターとベンチャーキャピタリストは違う」という話です。経済合理性だけで投資をするのではない。ベンチャーキャピタリストは、ピアニストやサイエンティストと同じく、接尾語に「ist」がつく存在です。倫理観や哲学をまとった上で投資をし、スタートアップの成長に伴走する。その過程でキャピタリスト自身も悩み、起業家としての側面も持ちながらVCをやっている。それをより多くの人に知ってもらいたい、というのが一番のメッセージです。
野村:確かに「イスト」であって「ター」ではないんですよね。
岩澤:スタートアップがシードからアーリー、ミドルと成長していく中で、私たちの関わり方も変わります。特にシードからアーリーで関わるVCは、起業家だけでなく、社員やその先のステークホルダーにどんな価値を届けるか、どんな価値観を大事にするかという、バリューやカルチャーの形成にも影響する役割なんです。
野村:通して読むと、「イスト」として仕事をしていることがしっかり伝わってきます。厳しくシビアな世界なのは間違いないけれど、すごく意味深い仕事だと。これを読んで、やってみたいと思う人は結構増えそうな気がしますよ。
岩澤:ぜひ読んでいただいて、自分のベンチャーキャピタルでチャレンジしたいという方が一人でも増えれば嬉しいです。
野村:「だからベンチャーキャピタルはやめられない 投資家だけが知っている企業とお金のリアル」、この配信の時点で発売が始まっています。ぜひお手に取ってみてください。
※この記事は、ポッドキャスト「VIVA VC」シーズン3第10回をもとに作成しました。番組では、書籍化の経緯や本作りの舞台裏についてさらに詳しく語っています。ぜひお聴きください。
執筆 : 岩澤 脩 | ファーストライト・キャピタル 代表取締役・マネージングパートナー
編集 : ファーストライト・キャピタル | リサーチ・チーム
2026.6.15
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