はじめに
ベンチャーキャピタルの数が「300社」近くにまで増え、起業家自身もインターネットを通じてあらゆる情報にアクセスできるようになった今、キャピタリストが提供できる価値は「コモディティ化」しつつあります。特に、実務経験の少ない若手キャピタリストにとって、「自分ならではの武器は何か」という問いは、避けては通れない切実な悩みです。
今回は、ファーストライト・キャピタルでプリンシパルを務める真島が、日々の業務の中で抱いている葛藤を率直に明かします。岩澤との対話を通じて、「キャピタリストにとっての真の武器とは何か」「それはどのようにして磨かれていくのか」というテーマを深く掘り下げていきました。
※この記事は、ポッドキャスト「VIVA VC」シーズン3第4回をもとに作成しました。番組では、若手キャピタリストの武器の見つけ方と磨き方についてさらに詳しく語っています。ぜひお聴きください。
心が折れそうな起業家の灯を消さないエンカレッジ力 [02:10-04:53]
「自分の武器は何か」という問いに対し、真島が挙げたのは「起業家へのエンカレッジ力」でした。スタートアップの挑戦が終わってしまう瞬間は、スポーツと同じです。起業家の心が一度ポッキリと折れてしまうと、そこから立ち直ることは極めて困難になります。だからこそ、投資先がピンチに陥った際、解決策を提示するよりも先に「まずはすぐに電話をかけること」を大切にしていると真島は語ります。
人はパニックに陥った時、感情を処理しきれずに「心が泣いている状態」になります。そうした時にまずは話を聞き、未来に対して「1ミリでもまだ頑張ろう」という気持ちの灯を一緒に持ち続けること。こうした寄り添い方に、真島は自身の強みを見出しています。
一方で岩澤はこの部分が苦手だと言い、起業家に寄り添いたいと口にするキャピタリストは多いものの、実際にそれができている人は少ないとも感じています。単なるスキルを超えたウェットなコミュニケーションこそが、実は強力な差別化要因になるのです。
武器がないと感じた瞬間。リバースピッチでの「強み迷子」 [05:00-06:49]
真島が「武器が足りない」と痛感したのは、あるイベントでのリバースピッチ(VCが起業家に向けて自社を逆にプレゼンする場)でした。「ハンズオン」「事業立ち上げの伴走ができる」「事業経験を有している」と各VCが口にする言葉は、みな同じようなものばかりです。その中で、自分だけの強みが見えなくなり、「強み迷子」に陥ったといいます。
強みとは、言い換えれば他の人と差別化できる点です。しかし、若くてキャピタリストになる前の経験が短い若手にとって、「人にはない自分だけの経験」を見出すのは容易ではありません。そのイベントからオフィスに戻った真島の疲労感を見て、チームのメンバーが「何があった?」と心配するほどだったと岩澤は振り返ります。
ハンズオン支援の限界。外注できるものは武器にならない [06:49-09:35]
人事支援、PR支援、営業代行——VCが掲げるハンズオン支援は確かに役には立ちます。しかし岩澤は「そこで勝負しても変わらなくない?」と問いかけます。真島も「それは切り売り型で、外注できてしまう」と共感します。代替が効くものは、唯一無二の武器にはなり得ないということです。
ここで岩澤は自身の過去のエピソードを明かします。キャリアの初期、「支援してあげたい」「役に立ちたい」という思いが強すぎるあまり、ある起業家から「その思いに応えられないから株主として抜けてほしい」と言われた経験があるといいます。その時に大きく落ち込みながらも、キャピタリストの存在意義は「起業家を変えること」ではなく、「そのキャピタリストといることで新しいチャレンジができる」と思ってもらえることにあるのではないかと気づいたそうです。
この転換点のきっかけとなったのが、ユーザベース時代の師匠である創業者・新野氏への相談でした。新野氏は「主役は起業家だから、キャピタリストがそれを変えることはできない。本当に困った時に相談できる人、一緒にいることで一人では成し遂げられないことができそうだと思える人と自分は一緒にやりたい」と語ったといいます。
陳腐化する武器と変わらない武器 [10:04-13:33]
真島は、8年のキャリアの中で「陳腐化した武器」と「今も活きている武器」は何かと尋ねました。岩澤が最も陳腐化したと断言するのは、かつて得意としていたSaaSの成長ノウハウや過去の事業経験です。10年前の常識はもはや通用せず、その変化は「ガラケーからスマホに変わった」ほどの衝撃だと表現します。
一方で、時代が変わっても「変わらない武器」も存在します。それは起業家とどのような関係を築くかという人間関係の構築や、困っている時にすぐ手を差し伸べる差配のスピード感といった部分です。
さらに、AI時代という文脈においても、データの調査やリサーチはAIが代替していきます。しかし、AIにどのような指示を出すか、この事業にはどのような業界仮説が成り立つかといった未来志向の問いの立て方は、人間にしかできません。そして何より、起業家に寄り添い、彼らが覚醒する瞬間に立ち会いたいという情熱も、人間に固有のものです。
最先端のテクノロジーを扱う金融の世界だからこそ、最後に残るのは「ヒューマンタッチな部分」であると、二人の対話は一致しました。
武器は磨こうとするほど見えなくなる [14:49-18:10]
真島から若手の頃は何に悩んでいたかと問われた岩澤は、リサーチ力や資料作成力は強いと言われていたが、器用貧乏だと感じていたと振り返ります。長期的なキャリアを考えた時に「大きな仕掛けができる人間になれるか」という不安があり、20代の時は超絶作業マン、コンサルタントより政治家秘書の方が向いているとまで言われていたそうです。
では、その武器はどうやってアップデートされたのでしょうか。岩澤は「自分で意識的に磨いた感じはない」と答えます。起業家と対話する中で、作業マンのままでは対峙できないという環境に置かれ、自然と武器が磨かれていったといいます。
ここで真島は「武器を磨こうとすると未来のことばかり考えてしまい、保守的になる」と指摘します。頭でっかちにこういうものがあれば差別化できると考えても、それが本当の武器かどうかは分からないと。
これに対して岩澤は、ユーザベース時代に新野氏から言われた言葉を引用します。「目の前のお客さんに最も集中したやつが一番高く飛べる」。自分がこうありたい、こう武器を磨きたいと思ったことは思い通りにいかないものです。とにかく目の前の起業家との対話や支援に集中し、一つひとつの投資先で結果を出してもらえるように寄り添う。振り返ってみると、いつの間にか武器が磨かれている。それがキャピタリストとしての武器の本質ではないかと岩澤は語りました。
おわりに
「自分にタグをつけること」は、他者からの認知や信頼獲得のきっかけになると思いがちです。しかし今回の対話を通じて見えてきたのは、代替の効く支援やスキルは武器にはなりにくく、起業家との関係構築や寄り添いといった「ウェットな部分」にこそ、持続性のある武器のヒントがあるということです。
そして武器は、意識的に磨こうとするよりも、目の前の一つひとつに120%で立ち向かう中で、気づけば磨かれているもの。VC業界に限らず、若手ビジネスパーソンが「自分の強みが分からない」と悩んだ時に、立ち返るべき視点ではないでしょうか。
※この記事は、ポッドキャスト「VIVA VC」シーズン3第4回をもとに作成しました。番組では、キャピタリストの武器の見つけ方や磨き方についてさらに詳しく語っています。ぜひお聴きください。
執筆 : 岩澤 脩 | ファーストライト・キャピタル 代表取締役・マネージングパートナー
編集 : ファーストライト・キャピタル | リサーチ・チーム
2026.4.13
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