一覧に戻る

地域課題解決DXコンソーシアム「活動報告書ー産業別DX状況と先進事例ー」PART2 産業別DX先進事例

2026.08.25

人口減少

地域課題解決DXコンソーシアム「活動報告書ー産業別DX状況と先進事例ー」PART2 産業別DX先進事例

本記事は、地域課題解決DXコンソーシアム事務局(ファーストライト・キャピタル)が発行する「産業別DX状況と先進事例(活動報告書)」のサマリー版になります。

フルレポート(35ページ)は、最下部のフォームよりダウンロードいただけます。

 – Overview – 

PART1「産業別DX Overview」では、建設、物流、製造、小売・店舗・サービス、医療・介護、不動産の6産業を3軸でスコアリングし、DX取り組みへの緊急度が「Critical(5)」に達する建設業と、絶対的な不足人数が6産業中最大となる製造業を中心に、地域経済の根幹に関わる構造的課題について解説した。

PART2では、こうした取り組みを通じて先進的なDXを実現した2社の地域企業の事例を取り上げる。1社は建設業(設備工事会社)として東京都足立区の株式会社Forward、もう1社は製造業(部品製造事業者)として静岡県田方郡函南町の有限会社石橋製作所。いずれも、現場に根差した課題を起点にDXサービスを選定し、経営インパクトに繋げた具体的なプロセスが明らかにされている。

なお、両事例はコンソーシアムの全体会(第2回・建設設備、第4回・製造業)でのパネルディスカッションに基づく。

先進事例① 建設業(設備工事会社)|株式会社Forward

1. 設備工事会社における経営の鍵は「回転率」

労働集約性が高く、現場派遣型である設備工事会社の経営においては、回転率の向上が鍵を握る。一現場あたりにかかる総時間を圧縮し、いかに多くの工事を請け負えるかが、売上高に直結する構造である。

一方で、職人数の減少と高齢化による人手不足は構造的な制約となっており、設備工事会社は少人数での現場対応を迫られている。回転率を高めながら人的リソースの制約を乗り越えるには、各種業務プロセスの生産性を底上げするDXの取り組みが不可欠となる。

2. フォワード社が抱えていた「アプリ地獄」

株式会社Forward(以下、フォワード社)は、2016年設立の給排水設備工事・内装工事会社である。保守・メンテナンス領域にも注力し、リピート取引の積み上げを重視している。一現場ごとの対応スピードと報告品質の向上が、取引先との継続的な関係構築の起点となっていた。

同社が抱えていた課題は、現場情報の分散であった。情報集約や社内共有に過大な間接工数が発生し、本来注力すべき工事業務を圧迫。案件の進捗や報告状況を巡る確認が常態化し、社長・事務員・職人の時間が社内コミュニケーションに吸い上げられる状態に陥っていた。

注目すべきは、この非効率がサービス不足ではなく「過多」から生じていた点である。建設業のDXでは、DXサービス数の充実が進む一方で、ソリューション過多によってむしろ非効率から脱却できない罠が存在する。フォワード社でも、案件管理・勤怠管理・写真共有・報告書作成をそれぞれ別々のソリューションで運用していたため、社員は複数のアプリを行き来する「アプリ地獄」に直面していた。

3. サービス選定時の3つの重視ポイント

こうした課題を解決するため、フォワード社は現場情報を一元管理できるDXサービス「現場Hub」(現場Hub株式会社/2022年4月設立/工事・メンテナンス会社に特化した業務管理システム)を導入した。これまで活用しきれず解約したサービスも多かったことから、DXが仕組みとして回る状態を目指し、選定では以下の3点を重視した。

第一に、1サービスでの現場情報の集約性。案件管理・勤怠管理・写真共有・報告書作成といった現場業務を単一プラットフォームに集約できる点を重視した。施工管理特化の個別ツールは多数存在する一方、業務横断で情報を統合できるサービスは限られていた。アプリ地獄からの脱却と社内コミュニケーションコストの抜本的削減への期待が決め手となった。

第二に、最年長職人でも使いこなせる操作性。過去に大手CRM・SFAの導入を試みたが、ITリテラシーに幅のある職人層には習熟負荷が高く、定着に至らなかった。そのため、58歳の最年長職人でも使えるかを重視。住所確認から地図連携、報告書作成までが日常業務の動線に自然に組み込まれる設計が評価された。

第三に、導入時支援および新機能開発の機敏性。全社員向け説明会や訪問支援など、職人一人ひとりのつまずきに個別対応する体制、そして契約検討段階での指摘が締結までに実装されるなど、ユーザーの声を迅速に反映する開発姿勢が、継続的なサービス進化への期待に繋がった。

4. 導入効果:確認電話の激減から採用力向上まで

現場Hubの導入により、フォワード社には具体的な効果がもたらされた。

まず、社内コミュニケーションの効率化である。情報が一箇所に集約されたことで社内間の確認電話が激減し、現場に関する確認事項があれば現場Hubを参照するという行動習慣が定着した。

次に、顧客満足度の向上。情報の一元化と社内コミュニケーションの圧縮により、取引先対応や工事業務に集中できる環境が整い、膨大な工事数によって発生していた対応漏れの件数が減少した。

そして、売上・取引拡大と採用力向上へと波及した。工事業務に注力できるようになったことで施工品質が向上し、工事報告や提案のスピード感が評価されて1社あたりの取引額が拡大。売上増加に繋がった。採用面でも社員数が2年間で3倍以上に成長するなど、人材の獲得・定着にも好影響を及ぼしている。

まとめ|労働集約型ビジネス全般への示唆

フォワード社の事例は、設備工事会社における回転率向上が、間接工数の圧縮から実現された一例であった。現場が分散し、情報共有の間接コストが本業を圧迫する構造は、設備工事会社に限らず、多拠点・多案件を少人数で回す労働集約型ビジネス全般に共通する。人的リソースの制約下で回転率向上を目指すあらゆる業態にとって、示唆に富む事例といえる。

第2回全体会でのパネルディスカッションの様子

先進事例② 製造業(部品製造事業者)|有限会社石橋製作所

1. 部品製造事業者における経営の鍵は「見積り業務の高度化」

多品種少量生産型である部品製造事業者の経営においては、見積り業務の高度化が鍵を握る。受注機会を左右する見積り数・受注率・単価の最適化と、原価割れ・失注の回避が、売上・利益に直結する構造である。

しかし、相見積りの普及で見積り依頼が急増する一方、見積り業務は属人化しており、正しい原価把握が難しいという構造的課題を抱えやすい。見積り業務を起点に原価把握・経営判断までを一気通貫でつなぐDXの取り組みが、部品製造事業者にとって不可欠となる。

2. 石橋製作所が抱えていた「見積り業務の逼迫」

有限会社石橋製作所(以下、石橋製作所)は、金属プレス加工会社である。自動車部品を中心に量産部品を手がける一方、過去に照明器具・複写機など主力事業が市場変化で転換された経験から、常に新規の業種開拓も行っている。

同社が抱えていた課題は、見積り業務の逼迫であった。量産部品でありながら相見積り依頼が週に約100件にのぼり、膨大な時間的・人員的コストが発生。金型の見積りは専属担当者1名、部品の見積りは社長自らが対応していたが、常に見積りに追われ、本来注力すべき経営判断に時間を割けない状態に陥っていた。

ここでも問題の本質は、業務の逼迫が経営判断そのものを鈍らせる構造的な罠にあった。石橋製作所では、2018年に一度設定した原価ベースが、その後の賃上げや材料費変動に合わせてアップデートされておらず、「生産数は増えているが、思ったより利益が出ていない」という採算性への不安を抱えていた。見積り業務の属人化と原価把握の不透明化が、静かに経営を圧迫していたのである。

3. サービス選定時の3つの重視ポイント

この課題を解決するため、石橋製作所は静岡銀行からの推薦をきっかけに、見積り業務と原価管理を一気通貫で支援するDXサービス「匠フォース」(匠技研工業株式会社/2020年2月設立/製造業向け原価・見積もり管理クラウド)の導入を決定した。選定では以下の3点を重視した。

第一に、地域金融機関による経営課題起点の推薦。匠フォースの導入は、単独での比較検討の結果ではなく、静岡銀行との経営改善プロジェクトの中から生まれた意思決定であった。同社にとって初めての本格的なDX導入にあたり、業界に精通したスタートアップの目利きを単独で行うことは容易ではない。地域経済と事業者の実態を深く理解する静岡銀行からの推薦であったことが、安心して導入に踏み切れた起点となった。

第二に、既存の見積り業務・組織体制を活かせる柔軟性。システム側の仕様に業務を合わせるのではなく、同社の現在の見積り方法に寄り添う形でカスタマイズされ、必要最低限の機能から段階的に拡張できる設計を重視した。製造業のDX導入は現場の反発や業務混乱で定着に失敗するケースも少なくないが、匠フォースは既存の見積り方式を土台に、原価ベースの取り直しや業種別の目標利益率設定など、組織体制の見直しを伴わずに段階的な改革を可能にした。

第三に、経営者が経営に向き合える環境をつくる設計思想。見積り対応の効率化にとどまらず、見積りデータが原価・採算・経営指標と連動し、経営判断に資する情報が自動的に可視化される点を重視した。経営指針の策定や新規業種開拓といった本来の経営判断に時間を割ける状態を実現する思想が、選定の決め手となった。

4. 導入効果:属人化の解消から経営判断の高度化へ

匠フォースの導入により、石橋製作所には具体的な効果がもたらされた。

まず、見積り業務の属人化解消と対応スピードの向上である。見積り業務が標準化され、案件の重要度に応じた分業体制が整備された。現場でのシステム習熟も進み、週100件規模に及ぶ相見積り依頼に、属人化せずに対応できる体制が構築された。

次に、経営判断の高度化。正確な原価ベースのもと、「生産数を増やすべきか、マンチャージを見直すべきか」といった経営レベルの試算が可能となった。経営指針に直結するデータが日常業務から自動的に蓄積され、経営数字のモニタリングも高度化している。

そして、取引先との価格交渉力強化と新規業種開拓への基盤構築へと繋がった。正確な原価データを根拠に、労務費・人件費部分の価格転嫁交渉を合理的に進められる環境が整備された。新規業種への参入検討時にも、狙うべきコスト水準や必要な生産数を素早く試算でき、業種ポートフォリオの機動的な組み換えを支える経営基盤として機能している。

まとめ|「団体戦」でこそ解ける複合課題

石橋製作所の事例は、製造業における見積り・原価管理のDX化が、経営者の時間確保とデータドリブン経営の実現を通じて経営改善に直結することを示す一例であった。地域製造業事業者が抱える属人化・人手不足・採算管理の不安といった複合的な課題は、スタートアップ単独ではなく、地域金融機関が経営改善支援の一環として伴走することで、より確実に解決できる。金融機関・スタートアップ・製造現場が「団体戦」で取り組むDX推進の重要性が、本事例から見えてくる。

第4回全体会でのパネルディスカッションの様子

2事例に共通する示唆|プロダクトの前に「関係」がある

フォワード社と石橋製作所は、業界も課題も異なる。前者は「アプリ地獄」に象徴される情報の分散、後者は見積り業務の属人化と原価の不透明化に苦しんでいた。だが両社に共通するのは、いずれも単一のツール導入だけでは越えられなかった壁を、伴走型の関係を通じて突破した点である。

フォワード社では、最年長職人でも使いこなせる操作性と、ユーザーの声を反映し続ける開発姿勢という「定着を支える関係」が鍵となった。石橋製作所では、地域経済を熟知する静岡銀行の推薦と、既存業務に寄り添う柔軟な設計という「導入を後押しする関係」が起点となった。

PART1が示した通り、建設業の重層下請け構造も、製造業の工程ごとの個別性も、プロダクトの機能だけでは解決しない。地域金融機関が地域課題と現場でのDX知見を持ち寄り、スタートアップと地域事業者を橋渡しする——この枠組みこそが、2事例に共通する成功要因である。次代の担い手が「生業」を「事業」として再構築していくその過程を、いかに孤立させず支えるか。これこそが、地域社会へDXを実装していく上での核心である。

活動報告書(無償)のダウンロード及びディスクレーマー

下記のフォームをご提出いただくことで、活動報告書全体(35ページ)をダウンロードできます。

お預かりした個人情報の取扱いについて、次のように管理し保護に努めてまいります。この先続行することで下記に同意したものとします。

【個人情報の収集・利用・提供について】
お預かりした個人情報は、本レポートの送付、次回以降にリリースする弊社コンテンツのご案内、弊社メールマガジンの配信、弊社主催イベントへのご案内、投資候補企業又はLPの発掘・検討、お問い合わせ対応のために利用させていただきます。

【第三者への提供について】
お預かりした個人情報について、弊社以外の第三者に提供することは、ご本人様の同意がある場合又は法令に基づく場合を除きありません。

【個人情報保護方針】
個人情報取扱い管理の詳細については、以下のリンクを参照してください。

ファーストライト・キャピタル株式会社






全体構成・執筆
地域課題解決DXコンソーシアム 事務局
プリンシパル 真島 里帆
チーフ・アナリスト 早船 明夫

企画・監修
代表取締役 マネージング・パートナー 岩澤 脩

製作協力
インターン 増永 和佳

デザイン
青松 基(sukku)

有識者インタビュー協力
地域課題解決DXコンソーシアム アドバイザー 古屋 星斗 氏

Insights

Top Insights 人口減少 地域課題解決DXコンソーシアム「活動報告書ー産業別DX状況と先進事例ー」PART2 産業別DX先進事例

Newsletter

ファーストライトから最新のニュース・トレンドをお届けします。