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【VIVA VC シーズン3 第5回】日本のスタートアップは、実はめちゃくちゃドメスティックである

2026.04.20

Podcast

【VIVA VC シーズン3 第5回】日本のスタートアップは、実はめちゃくちゃドメスティックである

はじめに

日本のスタートアップ投資額は、2015年の2,047億円から2022年には9,900億円と、7〜8年でおよそ4倍にまで膨らみました。国もユニコーン創出を政策の柱に据え、スタートアップ業界は順調に右肩上がりで成長しているように見えます。しかし、その「育ってきた企業」に国際競争力はあるのか。行く末はトヨタやキーエンスのような競争力を持ち得るのか。そういった問いを、メディアはあまり投げかけてきませんでした。

今回のVIVA VCは、ファーストライト・キャピタルのチーフアナリストの早船が「日本のスタートアップ業界の不都合な真実」をテーマに掲げ、岩澤に迫ります。スタートアップとSaaS企業のメディアを自ら運営し、取材・執筆を続けてきた早船だからこそ持つ問題意識が、業界の構造的な課題を浮かび上がらせます。

※この記事は、ポッドキャスト「VIVA VC」シーズン3第5回をもとに作成しました。番組では、日本のスタートアップのグローバル展開の課題と可能性についてさらに詳しく語っています。ぜひお聴きください。

データが示す「ドメスティック問題」。グロース市場の海外売上比率はわずか7〜10% [03:27-10:18]

早船が問題提起するのは、「日本のスタートアップはとてもドメスティック(国内向き)ではないか」という点です。これは印象論ではなく、データに裏打ちされた指摘です。

有価証券報告書で開示されている国内・海外売上高の比率を東証の市場区分別に整理すると、プライム市場では平均で3〜4割が海外売上高で占められています。トヨタやソニーといった大企業が押し上げている面もありますが、それでも日本の大企業が一定の国際展開を果たしているのは確かです。ところが、スタートアップが多く上場するグロース市場に目を向けると、海外売上高の比率は平均で7〜10%程度にとどまります。さらに、これまでファーストライトが主な分析対象としてきた上場SaaS企業に至っては、ほぼ100%が国内売上高で占められているのが実態です。

「国内市場で育ってから海外に行く」という考え方は確かに一つの戦略です。しかしそれを差し引いても、そもそも向かうマーケット自体が最初から国内に向いているのではないかという疑念が、このデータからは浮かび上がります。

VCはグローバル展開を応援しているのか。LP構造とファンド満期という「現実」 [10:20-14:38]

「日本からグローバルなスタートアップを生み出そうとしているんでしょ」——多くの人がVCに対してそう期待しているかもしれません。しかし実態は、海外展開をしたいスタートアップを「応援しにくい環境」もVCの側に存在します。

その一つ目の理由が、LP(ファンドに投資する出資者)の構造的な都合です。ベンチャーキャピタルが大きくなるにつれ、機関投資家や海外の投資家といったプロのLPが入ってくるようになります。彼らはすでに世界中のVCに投資を分散しており、それぞれの地域に対してアロケーション(投資配分)を決めています。日本のVCに投じたお金の投資先が海外に出ていってしまうと、全体の投資配分の戦略から外れてしまう。そういうLP側の事情が一つあります。

たとえば、あるグローバル規模のVCがアジアのスタートアップに投資したとして、そのスタートアップが「米国市場を攻めたい」と言い出したとします。しかしそのVCからすれば、米国市場はすでに本流の投資対象として別のポートフォリオで手がけています。「アジアに投資をしたのだから、アジアで勝負してほしい」という思いが生まれるのは、構造として自然な話です。

二つ目の理由が「ファンド満期問題」です。IPOまでの平均年数は現在11.4年と言われており、日本のVCのファンド期間は10年。延長しても12年程度です。海外事業を立ち上げてファンド満期内に花を咲かせられるかという時間的な制約の中では、まずは国内事業でスピード感を持って成長してほしいというVCの本音は、構造的に生まれやすいのです。

こうした現実を踏まえると、心から海外に行きたいと思っている起業家は、最初の投資家選びの段階からその方針に理解のある投資家を見つけてこなければ、利益相反が生じてしまいます。

「全員反対」でもやり切った岩澤の原体験 [14:38-16:32]

ユーザベース時代、岩澤は海外事業を立ち上げることを決断しました。2013年から2018年にかけて、日本発のSaaSを海外で売るという、当時としては極めて珍しいチャレンジです。しかしそれは、全投資家から反対される中での決断でした。「国内事業でまず柱を作ってIPOしてから、そこからでいいんじゃないか」そう言われ続けても、海外に出るという方針を説明し、納得を得てやり切った経験が岩澤の原点にあります。

「海外やりたいというほど国内事業で評価を勝ち得ているんでしたっけ?」——そう問われてしまうと、多くの起業家は言葉に詰まります。その問いに対して説明しきる力と覚悟が、グローバルチャレンジの起点になるということを、岩澤自身の経験は示しています。

ただ、その先の事業がうまくいくかどうかはまた別の話です。日本のスタートアップで海外事業がうまくいっているケースはまだ少なく、VCとしても応援のための実績やモデルケースがなかなか型化されていないという現実もあります。

日本版「ファーストペンギン」が生まれるための3つのパターン [17:34-22:15]

では、グローバルに通用する日本のスタートアップを生み出すには何が必要か。岩澤は3つのパターンを挙げます。

一つ目は「全社移転」です。日本を本社とし、海外は営業支店という構造のまま同じプロダクトを輸出するモデルは、今の時代には合いません。スマートニュースやCADDiのように、代表自らが現地に渡り、リソースをすべて海外に振り切るくらいの覚悟が必要だということです。

二つ目は「M&Aエントリー」です。中途半端なM&Aではなく、海外でトップクラスに活躍しているスタートアップをM&Aで取得し、その創業者を日本の本体の経営陣に取り込んでいくくらいの覚悟で融合していく。リクルートによるIndeedの買収が、日本における数少ない代表的な事例として挙げられます。人を取りに行くことと市場を取りに行くことを、一気にやるというパターンです。

三つ目は「ゼロスタート」です。創業の時点から日本市場を見ない。現地に飛び込み、米国でチームを作り、米国のVCからシード投資を受けるところから立ち上げる。トレジャーデータやAny Mindのように、創業者自身が現地の会社で働いていてそこから起業する、あるいは完全に現地に飛び込むというパターンです。

また、日本からグローバルに展開する難しさの一端として、岩澤は「バリュエーション問題」を指摘します。日本でシリーズCやDまで調達してきた企業が、米国市場ではゼロから事業を立ち上げる段階にあるとします。米国の投資家からすれば、その事業は「シード」と同じです。しかし資金調達は日本での高い企業価値をベースに行わなければならない。市場としてはシードなのに、バリュエーションはシリーズCという構図が生まれてしまい、米国のVCには評価がしづらい状況が生じてしまうという話になってしまうのです。

おわりに

「日本のスタートアップはドメスティックだ」という指摘は、成長している産業への批判ではありません。構造的な課題を直視することで、初めて「では、どうすればいいのか」という議論が始まります。

最初に壁を突き破る存在が出て初めて、その後に続く道ができます。岩澤は、海外事業に挑戦して失敗した経験を持つ人たちが、そのノウハウを後世につないでいくことの大切さを自らへの反省として語ります。

VC、起業家、メディア——それぞれが構造的な問題を可視化し、議論し続けることが、日本からユニコーン企業を生み出すための長い道のりの、最初の一歩なのかもしれません。

※この記事は、ポッドキャスト「VIVA VC」シーズン3第5回をもとに作成しました。番組では、日本のスタートアップのグローバル展開の課題と可能性についてさらに詳しく語っています。ぜひお聴きください。

執筆 : 岩澤 脩 | ファーストライト・キャピタル 代表取締役・マネージングパートナー
編集 : ファーストライト・キャピタル | リサーチ・チーム
2026.4.20

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