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【VIVA VC シーズン3 第7回】官民連携とスタートアップの事業チャンス——「全方位支援」から「選択と集中」へ 

2026.05.08

Podcast

【VIVA VC シーズン3 第7回】官民連携とスタートアップの事業チャンス——「全方位支援」から「選択と集中」へ 

はじめに

岸田政権下で始まったスタートアップ五か年計画は、「とにかくユニコーンを生み出す」という全方位的な支援を旗印にしていました。しかし高市政権に代わり、その方針は大きく転換しつつあります。新たな軸となるのは「戦略分野への選択と集中」——国が育てる領域を宣言し、そこに需要とイノベーションを同時に生み出していくアプローチです。 

これはスタートアップにとって、ある意味で初めての体験です。国が「この分野を育てる」と明言し、ロードマップまで示す。それに対してどう乗っていくか、どう営業するか——そのお作法はまだほとんど体系化されていません。 

今回は、ファーストライトのプリンシパルの真島が、数年来追い続けてきた「行政公共テック」というテーマを軸に、官民連携とスタートアップの事業チャンスを岩澤と掘り下げます。 

※この記事は、ポッドキャスト「VIVA VC」シーズン3第7回をもとに作成しました。番組では、官民連携の最新動向についてさらに詳しく語っています。ぜひお聴きください。

「全方位支援」から「選択と集中」へ——日本成長戦略会議の意味 [05:15-12:28] 

真島が行政公共テックに興味を持ち始めたのは数年前のことです。家族に行政関連の仕事に従事している人が多く、学生時代には社会起業やミャンマーでのプロボノ活動にも携わっていました。「市場原理が働かないところには公共の力も使って、より大きな社会課題解決をする」という問題意識が、この分野への関心の原点にあります。 

その文脈で今、スタートアップ業界に大きな動きが出てきています。行政公共テック領域のスタートアップはこれまで資金調達を行うプレイヤーがほとんどいませんでしたが、昨年はシードからプレシリーズAの調達を行う企業が複数社登場しました。 

政策面では、シーズン2第21回でも触れた高市政権下の日本成長戦略会議が、第3回までの開催を経て具体化しています。戦略17分野のもとに61品目の具体的投資対象が発表され、このうち優先順位の高い27品目については夏頃までに官民投資ロードマップの素案が先行して示されています。フィジカルAI、半導体、小型無人航空機などが選定されており、フィジカルAIについては「米中に並ぶ第三極として世界シェアの3割超を獲得し、2040年には20兆円の市場創出を目指す」という野心的な目標まで掲げられています。

*経済産業省「事務局説明資料」より

岸田政権との最大の違いは、「領域を問わずとにかくユニコーン」という全方位的な支援から、「分野を絞って集中的に種を蒔く」という方向への転換です。これは日本のスタートアップ政策としては何十年ぶりかの大きな転換点と言えます。 

また、日本成長戦略会議にはスタートアップの分野横断的課題という項目もあり、「スタートアップのスケールアップ」「ディープテックスタートアップの支援」「地域経済を担うスタートアップの創出」という3つの柱が、17分野の各品目と連動して議論されています。

すべてのスタートアップに関係する話——補助金の「DX」から「AX」への転換 [12:35-14:49] 

「防衛テックやハードウェアなど、コアな領域でないと関係ない話では」と思うかもしれません。しかし真島はその前置きとして、これがすべてのスタートアップに関係する話だという点を強調します。 

DX推進という文脈がAX(AIトランスフォーメーション)へと発展する形で、より実装フェーズとして国の施策に織り込まれてきています。たとえばDX推進の要であったIT導入補助金は、2026年3月から「デジタル化AI導入補助金」という名称に変わって継承されています。 

高市政権になって補助金が絞られるのではという懸念もありましたが、DX・AXの潮流自体は途絶えていません。地域未来戦略本部や金融庁の地域金融力強化プランなど、複数の政策に散りばめられる形で継続されています。スタートアップにとっては、こうした機会をフル活用することが今後ますます重要になります。

公共営業「8つの原則」——民間営業と何が違うのか [14:50-20:17] 

スタートアップが自治体や国に対して営業する際、民間向けの感覚のまま臨むと痛い目を見ます。岩澤が投資先に伝えている「公共営業8つの原則」から、いくつかの重要なポイントを共有します。 

まず「トップダウン営業は最終手段」という原則です。民間では意思決定者に直接アプローチして話をつけるやり方はよくあります。しかし自治体営業でこれをやると、現場の職員が進めていくプロセスをすっ飛ばすことになり、現場の信頼が積み上がりません。さらに、自治体のトップは選挙で変わります。3期4期当選して現場との信頼関係が厚い首長なのか、1期目で新しいことをバンバン進めようとしている首長なのか——それによってトップダウンの有効性はまったく異なります。本当に最後の最後の手段として位置づけるべき打ち手です。 

次に「予算サイクルの理解」です。自治体予算のほとんどは義務的経費で占められており、インフラや医療など来年使うものがあらかじめ決まっています。財政課にとっては「何かを削って新しいサービスを入れる」というコミュニケーションになるため、給食の無償化といった施策と同じ土俵で比較されます。情熱だけを伝えても予算はとれません。長い視点で予算取りを設計し、どこに新規投資できる枠があるかを見極めながら提案していく必要があります。 

そのためにPOC(概念実証)をうまく活用することも重要です。民間では考えられないような低い金額で実績を作り、それを翌年・翌々年の本格導入につなげていく——そういう視点が公共営業には不可欠です。スペースXやアンドリル、パランティアといったアメリカの防衛テック企業でさえ、国との連携をようやく広げつつある段階だという報道が先週出たばかりです。それだけ長期戦を前提に考えなければ、パブリックサービスとして使ってもらえる状況にはなりません。

防衛テックと「戦略的不可欠性」——トレンドではなく安全保障の文脈で読む [20:17-24:36] 

17分野61品目の中で、岩澤が近年特に関心を深めているのが防衛テックです。

防衛テックと聞くとドローンや兵器などといった攻めるための技術をイメージしがちです。一方で、AIを活用して各国の防衛技術を分析し軍備の不拡散を促すような取り組みも含まれます。 

61品目を改めて眺めると、これは単なるトレンドの羅列ではないと岩澤は見ています。今の国際情勢の中で、日本は大きな消費市場を持つわけでも、コアな技術で世界を席巻しているわけでもない、絶妙な立ち位置にいます。船舶、漁業、フィジカルAI——これらは「日本が攻められたらこの技術がなくなってしまう、防波堤になるような守りのための技術開発」の品目として読むことができます。 

安全保障の文脈で語られる「戦略的不可欠性」——世界から見て日本でなければ持ち得ない技術、それが世界的に不可欠だと思われる技術を磨き育てることができるか。グローバルで流行っているからVCとして追いかけるという発想ではなく、その先にある国家戦略の文脈でこの分野を捉えることが、これからのVCに求められる視座だと岩澤は語ります。

一方で真島は、VCとしての覚悟も問います。メタバースをはじめ、忍耐強さが求められる局面で先に手を引いてしまうという歴史の繰り返しがありました。17分野も政権交代などの動きがあれば続くかどうかの確証はない。だからこそ、国策の波を捉えながらも、VCとして自分たちの信念で長期的に追い続けるという覚悟が必要ではないかと指摘します。

おわりに

官民連携は、スタートアップにとって「難しそう」「自分たちには関係ない」と距離を置かれがちなテーマです。しかし今回の対話が示すのは、それが特定の領域の話ではなく、あらゆるスタートアップに関わる潮流だということです。 

国が「この分野を育てる」と明示した今、問われるのはその波にどう乗るかという戦術的な問いだけではありません。長期的な視点を持ち、現場の信頼を積み上げ、年次の予算サイクルを理解した上で粘り強く関係を作り続けられるか——その覚悟が、公共領域で事業を展開しようとするスタートアップと、それを支えるVCの双方に求められています。 

※この記事は、ポッドキャスト「VIVA VC」シーズン3第7回をもとに作成しました。番組では、官民連携の最新動向についてさらに詳しく語っています。ぜひお聴きください。

執筆 : 岩澤 脩 | ファーストライト・キャピタル 代表取締役・マネージングパートナー
編集 : ファーストライト・キャピタル | リサーチ・チーム
2026.5.8

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