
はじめに
前回の「投資検討における5つのステップ」の解説に続き、今回はその中でも特に重要なプロセスであるデューデリジェンス(以下、DD)について詳しく掘り下げます。
DDは一般的に「事業精査」と訳されますが、その実施方法はVCごとに異なります。本稿では、ファーストライト・キャピタルがDDで重視する「3つの証明」を中心に、実際のプロセスやその難しさについてお伝えします。
※この記事は、ポッドキャスト「VIVA VC」第9回をもとに作成しました。番組では、DDの詳細なプロセスについてさらに詳しく語っています。ぜひご視聴ください。
デューデリジェンスの3つの証明
私たちのVCでは、DDの際に「3つの証明」を重要なポイントとして考えています。これはあくまで一例ですが、それぞれについて解説します。

1. 市場の証明 [02:00-02:30]
最初に確認するのが「市場の証明」です。TAM、SAM、SOMといった指標を用いて、そのスタートアップがどれほどの市場にアクセスできるのかを評価します。
市場が潜在的なものなのか、すでに顕在化しているのかを分析することも重要です。どれほど優れたプロダクトでも、ターゲットとなる市場が小さければ、スケールアップの可能性は限られてしまいます。事業が成長できる環境があるかどうかを慎重に見極めることが不可欠です。

2. プロダクトの証明[02:30-03:53]
次に、「プロダクトの証明」を確認します。ここでのポイントは、そのプロダクトが「Must Have(必須)」なのか、それとも「Nice to Have(あれば便利)」なのかを見極めることです。
ユーザーが喉から手が出るほど求めているプロダクトであるかどうかを検証し、一人でも熱狂的なファンがいるかどうかを確認します。初期段階では規模の大きな売上よりも、少数のコアユーザーが強く支持しているかどうかが重要になります。

以下はファーストライトが「Must have」についてより詳しく解説した記事になります。ぜひお読みください。
【図解】Must have SaaSの方程式
【対談】ユーザベース創業者が語る「Must have」のリアル
3. 実行の証明[04:09-05:01]
最後に「実行の証明」を行います。ここでは、チームの評価が最も重視されます。
特に、単独のスター起業家ではなく、チームでの起業ができているかが成功のカギを握ります。一人のリーダーが突出していても、組織として事業をスケールさせるには限界があるため、共同創業者の存在や、チームとしての強みと課題を把握することが不可欠です。
このため、私たちはチームメンバーそれぞれにインタビューを行い、彼らの関係性や役割分担、意思決定のプロセスなど、チームとして強いかどうかを確認するようにしています。
デューデリジェンスの難しさ[06:56-11:55]
DDのプロセスを進める中で、多くのキャピタリストが直面する課題のひとつが、「やればやるほど投資できなくなる」現象です。
スタートアップはまだ発展途上にあるため、DDを重ねるとリスクばかりが目立ってしまい、最終的に投資判断が難しくなることがあります。また、資料作成にこだわってしまい、作ることが目的化すると、100ページを超えるような詳細な分析資料が作成され、本質的な議論ができなくなることもあります。
さらに、市場分析が完璧だったとしても、外部環境の変化(例:コロナショック)によって事業計画が根本から崩れることも珍しくありません。
VCという仕事の本質[14:16-17:16]
DDの難しさを考慮しても、このプロセスこそがVCの仕事の本質であると考えています。
市場の変化、プロダクトの進化、そしてスタートアップの成長ポテンシャルを見極める、そして自分の投資した企業が成長するところに立ち会えることが、VCのやりがいだと感じています。そして、投資が決まった後は、その企業と7〜8年という長期にわたり伴走し続けることになります。
DDを行ったキャピタリストが、その後も投資先の支援を続けることで、単なる資金提供者ではなく、パートナーとしての役割を果たしていくのです。
おわりに
DDは、未来を見据えた「仮説思考」のプロセスであるべきです。
スタートアップの成長可能性を見極めることが、VCの役割であり、DDの本質です。適切なDDを通じて投資先の理解を深めることで、投資後の支援にもつながっていきます。
※この記事は、ポッドキャスト「VIVA VC」第9回をもとに作成しました。番組では、DDについてさらに詳しく語っています。ぜひご視聴ください。
編集:ファーストライト・キャピタル SaaS Research Team
2025.2.24
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