はじめに
「シードから上場直前まで辿り着けるスタートアップは、わずか8.7%」——この数字を聞いて、どんな印象を持つでしょうか。10社に1社しか「成功」しないということは、残りの9社はどこかで事業を終えているということです。しかし、その9社が何をどう経験し、どのように幕を閉じるのか、世の中にはほとんど伝わっていません。
今回のVIVA VCは、「スタートアップはいつ死ぬのか」をテーマに、派手な成功譚では見えてこない、VCとスタートアップの「もう一つの現実」に迫ります。
※この記事は、ポッドキャスト「VIVA VC」シーズン3第2回をもとに作成しました。番組では、スタートアップの終わり方やリビングデッドの実態についてさらに詳しく語っています。ぜひお聴きください。
「9割が失敗する」という現実を、私たちは直視できているか [02:29-06:50]
今回のテーマ「スタートアップはいつ死ぬのか」を早船が持ち込んだ背景には、アナリストとしての問題意識がありました。ファーストライト・キャピタルが昨年作成したSaaSスタートアップのレポートによれば、シード期の資金調達からレイター期(上場直前)まで到達できるスタートアップは約8.7%。つまり10社あれば1社程度しか「成功」と呼べる水準まで到達しないということです。

ファーストライト公式HP「SaaS Annual Report 2024-2025」より
岩澤も補足します。アーリーステージにおいて、1つのファンドで20〜30社に投資した場合、IPO(上場)に至るのは10〜20%程度。M&Aで大手企業に買収されるケースが30〜40%ほどあり、残りの50〜60%近くは事業撤退か低いリターンで終わるというのが実態です。
しかし、こうした「うまくいかなかった話」は表に出てきにくい。成功事例は喧伝されやすい一方で、撤退や失敗のプロセスはほとんどつまびらかにされません。早船が「そっちの方が仕事の比率として多そう」と感じたのも、このギャップへの違和感からでした。
投資家と起業家は「成功像」をどこまで共有しているのか [06:50-11:01]
VCが投資をする際、上場の時期や目標は契約で握ることが多いといいます。株主間契約の中に「2028年何月までに上場を目指す」という努力義務を盛り込んだり、上場時期を変更する際には既存株主の事前承諾を必要とする条項を設けたりする、と岩澤は説明します。
一方で、「何倍のリターンで返してほしい」というような直接的な数値を起業家に伝えることは、ほとんどないといいます。投資委員会の内部では投資採算のシミュレーションをきっちり行うものの、起業家との間では「事業計画のここを達成しよう」という形で話すことが多く、バリュエーションの具体的な期待値を突きつけることはあまりないとのこと。
ただし、この状況はここ1年で変わりつつあります。東証グロース市場の改革により、上場維持基準として「5年間で時価総額100億円超」が求められるようになったからです。過去の日本の上場企業のうち約40%が100億円未満だったという実態を踏まえれば、業界への影響は相当なものです。「投資から2年後の時点でこの売上が達成できなければIPOは難しいから、M&Aを目指しましょう」というコミュニケーションが、より積極的に行われるようになってきたといいます。
「リビングデッド」——死んでもいないが、成長もしない会社の実態 [11:02-16:27]
会話の中で岩澤が自然に口にした「リビングデッド」という言葉。この言葉がVCの世界ではスタートアップの一つの末路を指す重要な概念であることが明かされます。
リビングデッドとは、売上はある程度あり、利益も出ている。しかし、そのために「VC側からの資金が不要になってしまっている」状態を指します。黒字化しているがゆえに株主からの牽制が効かなくなり、かといって急成長するわけでもない。VC側としては、ファンドの期限内に現金化するためにセカンダリ(株式の売却)を自ら動かなければならないというプレッシャーが生まれます。
なぜそうなってしまうのか。岩澤は「前段階でするべきコミュニケーションをしなかったから」と分析します。「このタイミングでこれくらいの売上を作らなきゃダメだよ」「もっと前倒しで資金調達に来なきゃダメだよ」——そうした「嫌われるかもしれないコミュニケーション」をリードできなかった時に、気づけばリビングデッドになっているケースが多いといいます。
スタートアップが「終わる」時、何がトリガーになるのか [16:27-18:25]
では、スタートアップが実際に立ち行かなくなる時、何がきっかけになるのでしょうか。
コロナのように市場が急変し、顧客自体がいなくなるケース。プロダクトと市場ニーズのミスマッチを何年経っても解消できないケース。そして意外と多いのが「組織崩壊」で、気づいたら社長以外誰もいなくなっていた、チームが分断してしまってプロダクトを届けられる人がいなくなった、というケースです。
ドラマや映画では「資金繰りがショートした」「返済できなくなった」というドラマティックな場面が多く描かれますが、実際はそうではないといいます。「今日死にます」という突然の破綻ではなく、「3ヶ月先、6ヶ月先は見えているけど、その先の資金調達ができないから、閉じる準備を始める」という形が大半だとのことです。
「いいたたみ方」と「悪いたたみ方」——次のチャレンジにつながる終わり方とは [18:26-22:53]
スタートアップのほとんどが失敗するという現実を前提にした時、「終わり方」の質が問われます。岩澤が語る「いいたたみ方」とは、お互いの次のチャレンジにつながる形で幕を閉じること。世界的に見ても、一発で成功する起業家は少なく、2回目・3回目のチャレンジを経て成功するパターンがほとんどだからです。
そのためのポイントとして岩澤が挙げるのが、「株主からの信頼を失わないこと」と「社員からの信頼を失わないこと」です。追い詰められた局面にこそ人間の本性が出る。そういう時でも、リードVCと一枚岩になってクロージング(会社を畳む作業)に向き合える起業家が、次のチャレンジに進んでいるケースが多いといいます。
一方で、難しいケースも少なくありません。リードVCがすでに見放していたり、起業家側が株主を信頼していなかったりして、そのような形で別れていくことも珍しくないとのことです。
岩澤は最後に「本当に次のチャレンジ、次の打席に立ってもらうために、そこも含めてVCが寄り添えるかというのが、僕らの大きな役割の一つだなというふうに認識した」とこう語ります。
早船も、起業家の情熱は希少な資源であり、それを有効活用することが日本をスタートアップで立国させていくためにも重要だという考えを示します。
おわりに
「スタートアップはいつ死ぬのか」というテーマは、ともすれば暗い話のように聞こえます。しかし今回の対話が伝えるのは、失敗の多さを嘆くことではありません。9割の企業が何らかの形で区切りを迎えるという現実の中で、どう終わるかが次の始まりを決める——そういうメッセージではないでしょうか。
成功した1割の話だけでなく、残り9割のリアルを知ることが、スタートアップやVCという世界をより深く理解することにつながります。数字だけでは伝わらない、現場の生々しい景色を少しでも感じてもらえたなら幸いです。
※この記事は、ポッドキャスト「VIVA VC」シーズン3第2回をもとに作成しました。番組では、リビングデッドの実態やスタートアップの「いいたたみ方」についてさらに詳しく語っています。ぜひお聴きください。
執筆 : 岩澤 脩 | ファーストライト・キャピタル 代表取締役・マネージングパートナー
編集 : ファーストライト・キャピタル | リサーチ・チーム
2026.3.30
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