本記事は、地域課題解決DXコンソーシアム事務局(ファーストライト・キャピタル)が発行する「産業別DX状況と先進事例(活動報告書)」のサマリー版になります。
フルレポート(35ページ)は、最下部のフォームよりダウンロードいただけます。
– Overview –
地域課題解決DXコンソーシアムでは、過去2年間にわたり建設、物流、製造、小売、医療・介護、不動産の計6産業について、産業実態とスタートアップの取り組みを掘り下げてきた。本パートでは、その総括として、6産業に対し独自にスコアリングを行った結果を概観する。
スコア判断にあたっては、複数の公的・民間データを基に判断をしている。
産業DXスコアリング:3軸で見える産業ごとのDX課題
6産業のスコアリングに用いた3軸の意味は以下の通りである。
第一の軸「DX取り組みの緊急度」は、各産業が現時点でDXに着手しなければならない切迫度を測る指標である。主要産業の労働生産性水準を組み合わせ、現在の人手不足の実態と将来の不足見通し、そして生産性改善余地の大きさを総合的に判断している。
第二の軸「DXスタートアップの状況」は、当該産業向けのソリューションを提供するスタートアップが市場にどれだけ存在し、成熟しているかを測る指標である。産業別のスタートアップ累計投資額、IPO・レイターラウンド・M&A事例の有無、プレイヤー層の厚みを評価している。
第三の軸「地域の産業におけるDX浸透度」は、地域企業の現場にどの程度DXが実装されているかを測る指標である。総務省や情報処理推進機構の調査を参照し、産業全体の実装段階を判断している。
各軸はLow(1〜2)/Middle(3)/High(4)/Critical(5)の5段階で評価した。第一の軸の緊急度においては、スコアリングが高いほど(例:Critical(5))労働力不足に直面しており、DXの取り組みに対する緊急度が高いことを示している。第二、第三の軸であるスタートアップ充足度・DX浸透度においてスコアリング点が高いほど、スタートアップ分布の充実や地域企業におけるDXの実装が進んでいることを示している。

3軸スコアリングからは、産業ごとにDXの「壁」が異なることが浮かび上がる。「Critical(5)」と、DX取り組みへの緊急度が最も高いと判断されたのは建設業と物流業の2産業で、いずれも2040年時点の労働需給ギャップが極めて深刻であり、産業存続そのものに直結する水準にある。一方、スコアリング「High(4)」とスタートアップの充足が進んでいるのは小売・店舗・サービス業、医療・介護、不動産業であり、BtoC接点を含む業態やソフトウェア化しやすい領域ではプレイヤーの厚みが先行している。
注目すべきは、DX浸透度が「High(4)」まで達しているのが小売・店舗・サービス業のみという点である。DX取り組みへの緊急度が高い建設業・物流業ほど浸透度は低く、緊急性と現場実装の乖離が明確となっている。
本サマリーでは以降、6産業の中から建設業と製造業の2産業をハイライトとして取り上げ、それぞれのDX状況を概観する。物流業、小売・店舗・サービス業、医療・介護、不動産業の各産業分析については、本編レポートを参照されたい。
ハイライト①建設業
建設業は、国内GDPの約5%を占める日本の基幹産業である。事業者の多くは地域に根差しており、全国各地で雇用を支えている。日本は人口減少局面にあるものの、既存建築物の維持・修繕・補修やインフラの更新・メンテナンス需要を背景に、建設需要は今後も微増基調で推移すると見込まれる。こうした環境下で、職人の高齢化や若年層の担い手不足が一段と深刻化しており、生産性向上に向けたDXへの取り組みは不可欠となっている。
1. DX取り組みの緊急度:2040年に5件に1件の工事が人手不足で困難に
リクルートワークス研究所の試算によれば、建設業では2040年時点で65.7万人の労働力不足、不足率22%に達する見通しとなっている。これは新設工事の着工が困難となるだけでなく、既存インフラ設備などの維持すら困難な地域が発生しうる水準である。若年層の流入が限定的なうえ、外国人労働者の確保も難しくなりつつあり、技能継承の観点からも地域建設領域のDXは急務となっている。

厚生労働省の「労働者過不足判断D.I.」でも、建設業のスコアは60と恒常的な人手不足感を示しており、人件費の上昇や資材価格の高騰と相まって、各地域で建設計画が白紙化する事例も後を絶たない。一方、建設現場における1時間あたりの名目労働生産性は3,262円と、製造業の半分程度の水準にとどまり、過去20年間ほぼ横ばいで推移してきており、最も緊急度の高い「Critical(5)」と評価している。
2. スタートアップの状況:上場企業やAIスタートアップなどさまざまなカテゴリーで増加
建設業では、設備工事事業者向けに現場管理システムを提供するスパイダープラスが2021年にIPOを果たし、住宅建設事業者向けシステムを展開するアンドパッドはシリーズDに到達するなど、スタートアップ自身が市場を開拓してきた経緯がある。スタートアップ投資額は累計321.1億円に達し、上場企業やAIスタートアップを含む多様なカテゴリーでプレイヤーが増加している。

今後はSaaS型のソリューションのみならず、物理・空間データを用いた次世代型の現場管理や、IoT機器・ロボティクスと連動するソリューションの発展により、労働力の充足が期待される領域でもあり、プレイヤー充足度は「Middle(3)」と評価した。
3.地域建設業におけるDX浸透度:アナログからの脱却が進む中、デジタイゼーションの広がりが課題
建設業は、総合建設、住宅建築、設備工事、土木工事など分野ごとにDX進捗の濃淡が大きい産業である。紙図面や施工写真、安全関係書類を電子化するデジタイゼーションは地域・中小建設業でも広がりつつあるが、業務効率の改善は限定的であり、プロセスをデジタル前提に再構築するデジタライゼーションへの移行はこれからの段階にある。

経済産業省の調査においては、建設事業者の79.4%がDXに向けた取り組みを実施できておらず、先行企業の割合は5.2%にとどまる。DX取り組みへの高い緊急度に直面する一方で、現場への浸透が最も遅れている領域であり、DX浸透度は「Low(2)」とした。
ハイライト②製造業
製造業は、日本の輸出・雇用・技術力を支える基幹産業であり、グローバル競争力の源泉として長年にわたり経済成長を牽引してきた。近年においても、半導体・電子部品需要の拡大などを背景に、一定の成長余地を維持している。一方で、熟練技能への依存、設備・システムの老朽化、サプライチェーンの複雑化といった課題に加え、人手不足や技術継承の断絶リスクが顕在化している。各地域の中小規模製造業においても、データ活用による意思決定の高度化を実現するDXの重要性は一層高まっている。
1. DX取り組みの緊急度:2040年に112万人が不足。地域製造業の存続と競争力を担うDX・GXへの変革
リクルートワークス研究所は、2040年の「生産工程」職種で112.4万人の労働需給ギャップが生じ、不足率は13.3%に達すると試算している。不足率だけ見れば建設や物流より低く映るが、製造業は就業者数の母数が大きいため、絶対的な不足人数は6産業中最大規模となる。

製造業の正社員等雇用判断D.I.は47と不足超過が続いており、景気回復局面で受注が戻っても現場人材を確保できず、生産計画を組めない企業が少なくない。とりわけ地域の中堅・中小製造業では、大企業ほど賃上げや自動化投資を機動的に進めにくく、採用難と高齢化が同時進行している点が深刻である。さらに、GX対応も人手不足の深刻さを一段引き上げており、ものづくり白書では、デジタル技術導入に際し約6割の企業が社内人材の活用・育成で対応し、約2.5割は新たな人材確保を行わず既存人員のみで対応しているという。人手不足は生産維持のみならず、脱炭素投資と競争力強化の実行速度まで制約しているとの背景から、緊急度は「Medium(3)」と評価した。
2. DXスタートアップの状況:海外投資家の注目が高まるが、産業に深く浸透するスタートアップは限定的
日本の製造業領域におけるDXスタートアップは、特定領域ごとに一定数のプレイヤーが立ち上がりつつあるものの、依然としてバリューチェーン全体や産業横断的にソリューションを提供する統合的なプレイヤーは少ない。背景には、製造業が持つ高い個別性・専門性があり、業種・工程・現場ごとに異なる要件への最適化が不可欠である点が挙げられる。

資金調達の観点では、製造業DXスタートアップへの累計投資額は394億円と着実に増加しており、図面管理システムを提供するキャディや調達・購買部門向けクラウドのLeaner Technologiesなどが海外投資家から大型調達を行う事例も見られる。一方で、多くのスタートアップがアーリーフェーズにとどまっており、建設業や不動産といった他産業領域と比較しても投資の隆盛は2〜3年程度遅れている。個別最適の解像度は高まりつつある一方、全体最適への接続やスケーラビリティの確立に課題を残しており、スタートアップ充足度は「Low(2)」とした。
3. 製造業におけるDX浸透度:デジタル化や個社ごとの業務最適化は着実に進展も、事業モデル変革は少数
製造業のDXは、多品種少量生産や工程分業、現場ごとの個別最適、図面・作業指示・検査記録・熟練者の暗黙知といった非構造データの存在が特徴である。紙図面や作業日報のデジタル化など第一段階のデジタイゼーションは中堅・中小製造業にも徐々に普及しているが、電子化に留まる限り、全体最適や収益改善への寄与は限定的である。

生産管理や工程進捗、品質管理などをデジタル前提で再構築するデジタライゼーション段階は、日本でも一定の導入・成果が見られ、生産性改善の主要ドライバーとなっている。一方、設計・調達・製造・出荷から顧客・サプライヤーまでをデータで接続する真のデジタルトランスフォーメーションは、地域集積型の工場群では取り組みが限定的であり、総務省調査でも77.2%が未実施とされる。DXは単なるIT導入ではなく、現場から経営・収益モデルまでの一体的変革であり、その成熟度の差が今後の競争優位を左右する。浸透度は「Middle(3)」と位置付けた。
建設業・製造業に共通する「団体戦」の必要性
建設業と製造業のDX概況からは、緊急度や人手不足の人数規模、スタートアップ充足度、浸透度といったスコアリング結果は異なるものの、地域企業単独でのIT導入では超えられない構造的な壁が存在することが示唆された。建設業の重層下請け構造、製造業の業種・工程ごとの個別性は、いずれもプロダクトの導入だけでは解決せず、地域金融機関やベンチャーキャピタルがスタートアップと地域事業者を橋渡しし、エコシステム全体で取り組む「団体戦」が、地域DX浸透の要となる。
次パート「PART2 DX先進事例」では、スタートアップや地域金融機関との連携を通じて、先進的なDXの取り組みを行う2社の地域企業の事例を取り上げる。1社は建設業(設備工事会社)として東京都足立区の株式会社Forward、もう1社は製造業(部品製造事業者)として静岡県田方郡函南町の有限会社石橋製作所。いずれも、現場に根差した課題を起点にDXサービスを選定し、経営インパクトに繋げた具体的なプロセスが明らかにされている。
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ファーストライト・キャピタル株式会社
全体構成・執筆
地域課題解決DXコンソーシアム 事務局
プリンシパル 真島 里帆
チーフ・アナリスト 早船 明夫
企画・監修
代表取締役 マネージング・パートナー 岩澤 脩
製作協力
インターン 増永 和佳
デザイン
青松 基(sukku)
有識者インタビュー協力
地域課題解決DXコンソーシアム アドバイザー 古屋 星斗 氏
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