シード期にリードインベスターとしてファーストライトが投資したモノグサ。記憶定着のための学習プラットフォーム「Monoxer(モノグサ)」を提供し、ビジネスを急成長させている。なぜモノグサは急成長できたのか、そこにファーストライトはどのように貢献したのか。ファーストライトベンチャー・パートナーの麻生要一がモノグサ代表取締役CEOの竹内孝太朗氏と、これまでの3年を振り返る。
シリーズBを迎え、急成長するモノグサ
──2021年12月にシリーズBの資金調達をしたばかりのモノグサですが、まずはこれまでの成長の過程と現在の状況を簡単に教えていただけますか。
竹内 シード期の我々に、最初にVCとしてファーストライトが投資していただいたのが2018年。当時はまだ取引社数はほぼ0で、これからプロダクトをテストしようという段階でした。2019年度からサービスが実質的にスタートして、2021年度末で3年目を終える段階にあります。
現在は主に塾や予備校、学校が主な顧客で、家庭学習で記憶を定着させるスマホアプリを提供しています。教育領域で最も利用されているICTツールといってもいい状況で、PMF(Product Market Fit)のステップは達成したのではないかなと言える状況です。
モノグサ株式会社 代表取締役 CEO 竹内 孝太朗
名古屋大学経済学部卒。2010年に株式会社リクルートに入社。中古車領域での広告営業に従事し、2011年に中古車領域初及び最年少で営業部門の全社表彰を受賞。2013年からは「スタディサプリ」にて高校向け営業組織の立ち上げ、学習到達度測定テストの開発、オンラインコーチングサービスの開発を行う。高校の同級生である畔柳とMonoxerを共同創業。
麻生 この2年は教育の現場でもコロナ禍の影響もありましたよね。
竹内 教育のICT化がコロナ禍で加速した一方で、教育現場ではやはり対面が重要だというより戻しの傾向がみえます。ピークよりも成長が鈍化しているICTツールも多い中で、「Monoxer(モノグサ)」は右肩上がりを維持したまま成長。
コロナ禍の影響で、塾や学校での学びだけでなく、自学自習でいかに記憶を定着させるかが重要だという点について、学校や塾、保護者の理解が深まったというのは感じています。
2021年12月にはシリーズBを迎え、約18億円を調達。今後の新たな動きとしては、2023年度に向けて、出版社と協業し教材のマーケットプレイスを仕掛けるなど、さらなる拡大を推し進めているところです。
麻生 今のモノグサの成長を見て、ぜひ投資したいと考えている投資家も増えました。SaaS業界の中でも注目の存在です。
ファーストライト・キャピタル ベンチャー・パートナー 麻生 要一
東京大学経済学部卒業後、リクルートに入社。自ら立ち上げた事業を子会社化、150人規模まで事業を拡大後、リクルートホールディングスにおいて新規事業開発室長を担い、グループ全体の事業開発を統括。1,500件の新規事業案創出と、300社のスタートアップ企業の支援経験を経て、2018年に起業家へ転身。遺伝子解析ベンチャーゲノムクリニックの共同創業と同時に、企業内新規事業開発の支援を行うアルファドライブを創業し、2019年にユーザベースグループ入り(発行済全株式売却)。2018年6月よりファーストライト・キャピタル ベンチャーパートナー、2018年9月よりニューズピックス執行役員へ就任。
プロダクトのユニークさ、開発力、営業力が投資の決め手に
──ファーストライトが顧客0だったシード期のモノグサに、投資を決めた理由はどこにあったのでしょうか。
麻生 理由は3つあります。
まずひとつは、プロダクトや提供価値があまりにもユニークだったということ。モノグサは創業時から、コンテンツをつくるのではなく、「記憶のプラットフォームになる」ことを追求していて、そのユニークさから競合がいないという点です。
2つめはそのユニークな価値提供を実現するプロダクト開発力、そして3つは圧倒的なセールス力です。プロダクト開発では、代表取締役CTOで、Google出身の天才エンジニアの畔柳圭佑さんがいます。彼の能力は、ほかのスタートアップと比べても群を抜いています。「Monoxer」には、高レベルな日本語手書き入力機能がありますが、それが実現できたのも彼のおかげです。世界レベルの開発者の存在は、モノグサの未来を保証するものだと思います。
竹内 畔柳には創業前からアイデアを相談していたんですが、「記憶のプラットフォームになる」という信念がぶれることがありません。1エンジニアとしてもスーパーな存在ですが、プロダクトマネージャー、CTOとしてのバランス感覚にも非常に優れた人材です。
麻生 そこに圧倒的なセールス力を持つ竹内孝太朗というCEOもいる。リクルートでナンバーワン営業パーソンだった竹内さんの実力は、同じリクルートの先輩として間近で見てきましたから。竹内さんがいるなら、どんなことがあっても売上3億円はいくはずだと思っていました。
誰も関心を持たない中、ファーストライトがリード投資家に
麻生 正直、記憶を支援するアプリだとか、重要機能のメモリグラフについて説明されても、何を言っているのか最初はよくわからなかったんです。でも、このすごい2人が創業するなら、絶対すばらしいことが起きるに違いないから、ぜひ投資しよう、と。
竹内 ちょうどその頃、投資家を回っていた時期でした。麻生さんだけではなく、誰に説明しても、全員が「よくわからない」という雰囲気でしたね(笑)。だから、ファーストライト以外の投資家は、ほとんどモノグサに関心を示してくれませんでした。
そういう状況の中で、ファーストライトがリード投資をしてくれたことは、本当に心の底からありがたいことでした。
麻生 ファーストライトとしては「経営チームのバランスのよさ」を高く評価しました。事業経験を持つキャピタリストが投資判断をするファーストライトだったからこそ、お二人の実力を評価することができたともいえます。
当時はファーストライトもまだ駆け出しで、僕らにとってもモノグサは投資委員会を通った最初の1社だったんです。投資委員会の時間ギリギリまで議論し、最後の最後で、ファーストライト・キャピタルの岩澤、ユーザベース創業者の梅田、僕の3人で投資を決めたのを今でも覚えています。
あたたかく成長を見守りながら伴走
竹内 最初に投資してもらったのが2018年でした。教育領域は年度単位で動くという特有の事情があるので、翌年の2019年度だけでなく、その次の2020年度向けの提案までの2回の数字を見てほしいという希望がありました。
2年間資金が持たせるには、5000万円では足りないので、どうしても1億円にしてほしいと頼みましたね。
麻生 確かに1年目は数字がそれほど跳ねず、やや苦しい状況でしたね。当時、竹内さんから「時間軸の問題なので、もう少しだけお待ちください」とよく言われていたのをよく覚えています。
竹内さんは申し訳なさそうでしたが、ファーストライトとしては経営チームへの絶対的な信頼があったので、特に心配していませんでした。
竹内 シード期からこれまで、ファーストライトとは月1回の株主定例会をベースに、必要なときは適宜相談にのってもらう形で伴走していただいています。モノグサの株主定例会は、他の株主も含めて、僕らをあたたかく見守ってくれている雰囲気がすごくあるんです。そういう雰囲気をつくってくれたのも、シード期からのリード投資家であるファーストライトだと思っています。
一緒に悩みながら、新たな市場をつくり出す
麻生 モノグサの成長は、僕らが想定していたよりもかなり早いスピードで進んでいると感じています。もちろん、優れたプロダクトなので、いずれ人類の記憶のプラットフォームになることは確信していました。
しかし、一方でそれを受け入れる側、教育現場での抵抗も大きいと予想していました。その分、社会実装にある程度、時間がかかってもしかたがないと思っていたんです。それが2020年で一気に結果を出したときは、「すごい!」という驚きしかありませんでしたね。
竹内 BtoBの SaaSは、ほとんどが「市場ディスラプト型」です。そのメリットは、今やっていることがもっと楽にできるようになる、安くできるようになるということ。しかし、モノグサの「記憶のプラットフォーム」は、そもそも市場がまったくないところから、「記憶することにお金を払う」という新たな市場をつくり出している。その点では、非常に希少なプレーヤーだという自負があります。
麻生 ニーズの顕在化から掘り起こしているモノグサは、我々にとっても特殊な存在です。ほかのスタートアップには、類似企業の参考情報からアドバイスすることも多いんですが、そういう経験値はモノグサには当てはまらないんですよね。
当然、僕らも同じの目線で考えていきますが、24時間365日モノグサのことだけ考えている経営陣が一番理解しているし、インサイトも深い。こちらから、こうしたほうがいいんじゃないか、というようなことはあまり言わないようにしています。
竹内 参考指標が少ない中で、ファーストライトからは、「こう感じているけれど、そこはどう思っているの?」とか「客観的なデータはこうだけど、そこはどうなの?」と、丁寧な問答を重ねてもらっています。ファーストライトは「一緒に悩んでくれる」存在ということは、とても感じています。
そういう問いかけが、僕らにとっても「だから、こうなんだ」と改めて反芻する機会にもなっています。そういう意味でも、我々が望むような関係性をうまくつくってくれているんだと思います。
モノグサは未来のFacebookになると確信
──最後にモノグサの今後の展望について、ぜひお聞かせください。
竹内 最終的には世界中に「Monoxer」を展開していくのが目標ですが、今回のシリーズBでは、まずは国内の土台を固めていきたいと考えています。具体的には、専門学校や大学、社会人に「記憶のプラットフォーム」を提供していくつもりです。
麻生 創業期から今まで、そしれこれからもモノグサの可能性を世界で一番信じているのは、僕らファーストライト。僕らはモノグサがFacebookのようなグローバルプラットフォームとなり、時価総額も一兆円単位になると考えています。
今のモノグサを見てそこまでの可能性を実感できる投資家はいないかもしれません。しかし、初期のFacebookも、単に友だちとつながるだけの、たかだかユーザー10万〜20万人の新興SNSでした。今日のような巨大な存在になる想像していた人はほとんどいないでしょう。
それと同じようなことが、モノグサには起きると期待しています。何十億人もの人たちが、何かを覚える時の唯一無二のツールとして「Monoxer」を使う時代がやってくる。その過程を間近の特等席で見るのが、今から楽しみです。
竹内 絶対に当たる高額宝くじと思っていただいているので(笑)、その期待に必ず応えたいですね。
投資はいろいろな根拠を積み上げたうえで、最終的なリスクをとることだと思います。シード期のわけがわからない事業だとしても、最後に「えいや!」と投資してくれる存在がいるかどうかが大きな分かれ道になります。モノグサにとってのファーストライトがそうだったように、どこか1社が信じてくれることで全然違う展開が待っています。
麻生 その点でいうと、ファーストライトとしては、これまで見たことがないようなことをアイデアで、ほかの投資家からは理解されにくいものだとしても、我々の投資理念に照らしてそのポテンシャルを積極的に評価していきたいと思っています。
編集:久川 桃子 | ファーストライト・キャピタル エディトリアル・パートナー
撮影:北山 宏一
2022.01.31
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