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行政情報の格差が、静かにビジネスの勝敗を分ける——官民連携の民主化に挑むLobbyAIの野望

2026.03.17

投資先

行政情報の格差が、静かにビジネスの勝敗を分ける——官民連携の民主化に挑むLobbyAIの野望

公共政策・行政情報をAIで解析し、企業の行政営業を支援するプラットフォームを提供するLobbyAI株式会社。2025年1月の設立からわずか1年あまりで、このたび3億円の資金調達を発表した。

政策や制度がビジネスの成否を左右する場面は、年々増えている。一方で、日本の行政情報や政策プロセスは複雑で、民間企業がタイムリーに把握することは容易ではない。そうした課題にテクノロジーで挑むのがLobbyAIだ。

政治と民間ビジネスの双方を知る創業者と、この領域に早くから着目してきた投資家は、なぜ今この事業に賭けるのか。LobbyAI代表の髙橋氏と、投資家であるファーストライトの真島氏に話を聞いた。

──このたび3億円の資金調達を発表されました。改めてどのようなサービスを提供されているか教えてください。

LobbyAI 髙橋:今回、ファーストライトをリード投資家に、3つのVCから出資いただきました。行政・公共データを構造化し、政策渉外を戦略化するという私たちの取り組みに対して、市場から強い期待をいただいている表れだと感じています。

LobbyAI株式会社 代表取締役 CEO 髙橋 京太郎
日本大学法学部を卒業、法政大学大学院を修了。
衆議院議員秘書、さいたま市議会政務活動員として国政・地方行政の現場で政策形成や渉外業務に従事。
一方で、大学在学中からWEBサービスの開発・運営に携わり、マッチングアプリのコンテンツディレクターなどを務め、テクノロジー分野での実務経験を積む。

LobbyAIは、公文書のデータアクセスに非対称性がない世界を目指しています。

行政や政策に関する膨大な情報を整理・可視化することで、企業の政策渉外活動を支援するプラットフォームを提供していますが、その中核サービスとして2025年7月にローンチしたのが「LobbyAI Local」です。
自治体の議事録、予算、計画書、入札情報など膨大な公開情報をAIで解析し、企業が「今、どの自治体に、どのような提案をすべきか」という問いに対して、最適なタイミングとアプローチ先を提示します。入札公示を待って動き出すのではなく、政策形成の上流から戦略的に関与できる。それがこのプロダクトの本質的な価値です。

ファーストライト 真島:LobbyAI Localはプロダクト公開からわずか数ヶ月で、スタートアップだけでなく日系大手企業にも導入が進んでいますよね。事業規模に関係なく、行政との接点をどう戦略的に築くかという課題が、多くの企業にとって切実であることを改めて実感しています。

ファーストライト・キャピタル株式会社 プリンシパル 真島 里帆
英国バーミンガム・ロイヤル・バレエ団附属 Elmhurst Ballet School卒業後、慶應義塾大学商学部在学中にユーザベースにインターンとしてジョイン、2019年に新卒入社。入社後はSPEEDAフィールドセールスチーム・カスタマーサクセスチームにて、製薬業界をはじめとする新規顧客開拓、導入初期の活用促進を支援するオンボーディングプログラムの発展に従事。2021年10月にファーストライト・キャピタルに参画。

元議員秘書が気づいた、行政情報の非対称性

──行政情報は一応公開されているわけですよね。それでもなお、民間企業がアクセスできていない、あるいは活用できていない理由はどこにあるのでしょうか。

髙橋: 日本には数百の国家機関と約1,700の自治体があり、さらに8,000以上の規制が存在します。しかし、これらの情報は分散しており、企業が行政・政治の情報を把握するには膨大な時間と労力がかかります。

さらに複雑な組織図、独特の慣習、長い意思決定期間、行政特有の言葉の壁など、民間にとってブラックボックスとなっている部分が多いという構造的な障壁があります。

その結果、「必要な資料が分散している」「キーマンが特定できない」「提案タイミングが分からない」という3つの壁が依然として立ちはだかっています。入札が公示されて初めて存在を知る、ということも珍しくありません。本来であればもっと早い段階で提案できたはずの機会を、知らないまま逃してしまうことになるわけです。

特にスタートアップや中小企業にとって、この壁はより深刻です。大企業であれば公共政策や官公庁営業の専門部署を持つこともできますが、スタートアップは限られた人数で事業開発、営業、資金調達まで担っています。行政情報を体系的に収集し読み解く余裕はなかなかありません。

データアクセスの非対称性がなくなれば、こうした状況は大きく変わります。企業は行政の動きをリアルタイムで把握し、競合に先んじて提案の準備を進めることができる。それが実現できれば、公共ビジネスの進め方そのものが変わると考えています。

──髙橋さんはもともと議員秘書として活動されていたそうですね。議員秘書から起業という、一見すると異色のキャリアに見えますが、「情報の非対称性」という課題感は、その経験から来ているのでしょうか。

髙橋:はい、現場にいる中で徐々に見えてきたものでした。

政治の世界に足を踏み入れるきっかけになったのは、地元で活躍していたある若手議員との出会いでした。大学では法学部の政治経済学科に通っていたのですが、机上で学ぶだけでは実際の政治は分からないのではないかという思いがあって。彼と出会い、ボランティアとして活動を手伝うようになったのが最初です。

その後、彼が国会議員に当選したことをきっかけに、議員秘書として働くことになりました。その中で、行政と民間の間にある情報の非対称性というものを肌で感じるようになったんです。

真島:具体的にどんな場面で感じましたか。

髙橋:国会議員事務所の日々の業務の多くは、地域の方や企業から困りごとを聞き、それを行政に伝え、行政からの回答を再び住民や企業に届けるという「橋渡し」の役割です。現場の声を行政につなぐ仕事で、大きなやりがいを感じていました。

ただ、この仕組みは政治家にアクセスできる人しか使えないんです。そのときに、「こうした情報の橋渡しは、本当に政治家がいなければできないことなのだろうか」という疑問が生まれました。

真島:行政が持つ情報がもっと分かりやすく公開されていれば、多くの人が自分で必要な情報を見つけ、課題を解決できる。そうした発想は、外から来た人間にはなかなか持てないものだと思います。

髙橋:そうかもしれません。政治家の仕事はルールをつくることですが、その制度を実際に活用するのは民間企業や市民の方々です。だからこそ、制度を使いこなせる人を増やしたいという思いが、現場にいる中でどんどん強くなっていきました。

真島:行政テックの領域は大きく3つに分類できます。①市民と行政の接点をDXするプレイヤー、②行政内部の業務をDXするプレイヤー、そして③公共営業・公共政策の領域をDXするプレイヤーです。

LobbyAIさんが取り組む公共営業、公共政策のDX領域は市場として大きな可能性を秘めています。ただ、政策や条例・予算が決まるプロセスを深く理解していないと、どこにビジネスの余地があるかが見えにくい。株式会社うるるの入札情報速報サービスNJSSのようなサービスを除けば、広く知られたプレイヤーがほとんど存在しない領域です。

LobbyAIさんの場合は、髙橋さんだけでなく、共同創業者兼執行役員CTOの石川さんも政治の世界での経験をお持ちですよね。行政や政治に対する解像度の高さと、そこへの切り込み方の深さは、投資を判断する上でも非常に重要なポイントでした。髙橋
そうですね。政治の現場を経験しているからこそ、政策策定の上流の動きをタイムリーに把握することの重要性が分かる。私がやりたいのは「政治家になること」ではなく、テクノロジーを通じて制度や政策の情報を誰もが活用できる社会をつくることだと、次第に確信するようになっていきました。

──投資に至るまで、かなり議論を重ねたと伺いました。どのような経緯で投資に至ったのでしょうか。

真島:行政テックという分野は、私個人として以前から注目していた領域でした。身の回りに行政で働いている方が多かったこともあり、行政と民間をつなぐ機会を、ビジネスの側からうまく生み出せないだろうかという想いがあったんです。

また、私自身がSpeeda(経済情報プラットフォーム)で営業やカスタマーサクセスを担当していたとき、お客さまから「政策・規制・補助金といった情報をまとめて調べたい」という要望をいただいたことがありました。このマーケットには大きなホワイトスペースがある、Speedaのようなデータベースサービスがいつかこの領域にも生まれるはずだと、投資家として確信に近いものを持っていました。

そんな中で、LobbyAIさんとは2025年5月の展示会で初めてお会いしました。多くのスタートアップが出展する中、こうした個人的な問題意識もあり興味を持ってブースを訪問したのがきっかけです。その時点ではまだ次の調達も動き出していなかったため、改めてタイミングを見てお話しすることになりました。

髙橋:私たちも「公共情報版のSpeeda」があればと、ずっと思っていました。ただ、AIがなかった時代はすべて手動での情報収集が必要で、即時性と網羅性の両立は現実的に不可能でした。AIの進化によって初めて、この領域でもデータプラットフォームとして成立する環境が整ったと感じています。

真島: そうして夏頃から本格的に投資検討を始め、投資前の段階から一緒に事業計画を作り込み、必要な資金規模や資本政策についても議論しながら進めてきました。

昨年あたりから行政テック領域の資金調達も増えてきており、今後は同領域内での競争もさらに激しくなると見ています。今年から来年にかけてが、この分野でデファクトポジションを確立する上で極めて重要なタイミングだという認識があったので、最小限の資金でできることと、本気で投資して事業を伸ばしていくことのバランスを、丁寧に見極めながら検討した形です。

髙橋:この領域は非常に特殊な分野ですが、調達に至るまで、真島さんには丁寧に理解を深めていただきました。その姿勢が、今後の事業推進においても同じように伴走いただけるという確信につながりました。「強い握手ができた」という感覚が、ファーストライト・キャピタルを選ばせていただいた一番の理由です。

ロビー活動はもう特別な行為じゃない。官民連携が国策となった今、波は加速する

──2025年、高市政権による日本成長戦略本部が設置されました。ロビー活動はこれからますます重要な戦略行動になっていくのでしょうか。

髙橋: 「これから重要になる」というよりも、すでに重要になっています。日本経済新聞の調査でも、主要企業の7割近くが国内外でロビー活動を実施していることが明らかになっています。ロビー活動はすでに特別な行為ではなく、企業経営における現実的な戦略行動として定着しつつあるんです。

日本が今どのような状況にあるのかを考えると、多くの社会インフラが整備されたのは約50年前、田中角栄氏の時代です。当時、大規模に整備されたインフラが現在ちょうど更新の時期を迎えており、道路、橋梁、水道といった領域で官民連携の需要が急速に高まっています。行政との接点を持たざるを得ない企業が、以前とは比べものにならないほど増えている状況です。

真島:1999年のPFI法制定以来、官民連携には長い歴史があります。高市政権はその流れを加速させるターニングポイントの一つ。官民連携が政策の「一丁目一番地」として掲げられたことで、民間側も公共政策チームを経営戦略の一環として位置付け、ロビー活動に本格的に取り組む動きが加速していくのではないでしょうか。

髙橋:また、日本成長戦略会議が掲げる官民投資17分野の中には、防衛・セキュリティ・AIといった、これまで十分に注目されてこなかった分野も含まれています。

政府の政策の多くは補助金や制度の形で提供されますが、現場ではそれを活用できるスタートアップや企業とのマッチングが十分に進んでいない。日本では行政側のKPIとして制度や補助金の活用率を強く追う仕組みがあまり整っていないため、せっかくの制度が十分に活用されないままになってしまうこともあります。

こうした情報の非対称性を解消できれば、制度の活用はより進むはずです。この市場にはまだ大きく拡張していく余地があると考えています。

真島: Amazonでロビー活動の渉外本部長を務めた渡辺弘美氏の著書でも紹介されている考え方ですが、ロビー活動の成熟度には大きく3つの段階があります。エネルギー産業などに見られる伝統的な公共政策業務、課題は固定的ながら積極的に働きかける「静的なロビイング」、そしてAmazonのように従来は政策対象外だった新分野へ働きかける「動的なロビイング」です。人口減少という社会課題を踏まえると、日本にはこの「動的なロビイング」を担う民間プレイヤーが増えていく必要がある。ただ、どのようなプレイヤーが行政と関わっていくのかがまだ見えにくく、有識者会議のメンバーもある程度固定化している印象があります。

真島:そして行政側も、民間からの情報を必要としている。人口減少社会の中で、「少ない人員でより高度・複雑な課題に対応しなければならない」という制約が生まれており、5年後・10年後を見据えた先進的な知見を求めているんです。

LobbyAIのプラットフォームを通じて行政が今何を考えているのかが可視化されれば、参入するプレイヤーも多様になり、行政側にとっても新しい民間との連携の可能性に気づくきっかけになるはずです。現在はデータベースを起点としたサービスですが、将来的にはマッチングや橋渡しの役割も担う存在へと拡張していくことを、大いに期待しています。

政策渉外の、新しいインフラへ

──LobbyAIがそのインフラになっていくとすれば、具体的にどのような形を目指しているのでしょうか。今後の展望を教えてください。

髙橋: まず取り組みたいのは、プロダクトの品質をさらに高めていくことです。Lobby AIを毎日見ればロビー活動が完結するような環境をつくりたいと考えています。政策のリサーチから、関係する議員や行政担当者の把握、アポイントの取得まで、政策渉外に関わる一連の活動をデジタル上で支援できる状態を目指しています。

中期的に目指したいのは、医療領域におけるエムスリー社のような存在になることです。民間企業のみならず、議員や行政担当者も活用するプラットフォームになることで、官民のマッチングそのものを機能させていきたいと思っています。

さらに視野を広げると、日本の行政文書は日本語で書かれており解釈も難しいため、海外企業にとって日本の政策動向を把握することは容易ではありません。それが日本への参入障壁の一つになっている側面もあります。逆に日本企業がASEAN地域などに進出する際も、現地の行政情報を取得できないという課題があります。行政情報の言語的・構造的な壁を取り除くことができれば、インバウンドとアウトバウンド双方の動きを後押しできる。それが結果として雇用創出や経済活性化につながっていくと考えています。

真島:少し前の時代までは、社会課題のようなテーマや市場経済が働きにくい領域は、慈善活動のような形でしか解決できないという認識が強かったように思います。ただ今の時代は、市場原理をうまく活用することで、持続的なビジネスとして大きな社会課題を解決できる土台が整ってきています。官と民の連携がより密になれば、解決できる課題の規模もスピードも大きくなっていく。その土台となるインフラにLobbyAIがなっていくのであれば、投資担当者としてもぜひ支援していきたいと思っています。

髙橋: これまで、政治の世界とスタートアップの世界の両方を見てきましたが、感じるのは、両者の間にまだ十分な接点がないということです。行政に関わりたいスタートアップは多いですし、政治の側もスタートアップの活用を推進したいと考えています。ただ、互いの仕組みや意思決定のプロセスを理解する機会がまだ多くないのが現状です。

より良い提言や提案が行政に届き、それが制度や政策に反映されていけば、政治の質も上がり、GDPの向上にもつながっていく。官民連携が深まることで国力が上がるはずです。そういう循環をつくっていきたいですね。


編集:石野瑠衣 | ファーストライト・キャピタル PR
撮影:小池 大介
2026.03.17

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