2年前のシード期からファーストライトが投資するコミューンが、シリーズBの資金調達を実施した。なぜ、コミューンは急速に成長することができたのか。事業拡大を支えてきた企業カルチャーはどのように創り上げられてきたのか。コミューン代表の高田優哉氏とファーストライト・キャピタル代表の岩澤脩がこれまでの2年を振り返る。(聞き手はファーストライト・キャピタル 久川桃子)
年間500%の成長。会社としての大きな変曲点にある
──コミューンは、シードラウンド、シリーズAを経て、今回、シリーズBを迎えます。まずは、コミューンの現在地について教えていただけますか。
コミューン高田:シリーズA以降、着実に急成長を遂げていて、この2年間、売上の年間成長率は500%を達成。シリーズBでは、19億3000万円を調達、既存株主のファーストライト、DNX Venturesに加えてZ Venture Capital、ジャフコ グループの2社が新たに加わり、コミューンにとっても新たな局面を迎えたと思っています。
ファーストライト岩澤:年間500%の成長率というのは、圧倒的ですよね。SaaS業界では、「T2D3」という言葉があります。PMF(Product Market Fit)後、売上高が、トリプル(3倍)、トリプル(3倍)、ダブル(2倍)、ダブル(2倍)、ダブル(2倍)と成長するのが成功するスタートアップだという意味です。つまり、年間成長率300%を達成して、やっと一人前とみなされます。
しかし、ほとんどのSaaSスタートアップは300%成長という壁を超えることができません。この成長ぶりもあって、シリーズBの資金調達での投資家からの人気はすごかったですね。
コミューン高田:多くの投資家の方に興味を持っていただけたんですが、コミューンのポリシーは投資家はなるべく少数でと考えています。そのため、シードラウンドでファーストライト1社、シリーズAで1社、今回のシリーズBでも新規は2社に留めています。これは、ほかと比べても少ないと思います。
高田 優哉 Yuya Takada コミューン 代表取締役
パリ農工大学留学を経て東京大学農学部卒業。卒業後ボストンコンサルティンググループに入社し、東京、ロサンゼルス、上海オフィスで戦略コンサルティング業務に従事。リードコンサルタントとして活躍後退職し、コミューン株式会社を共同創業。
チーム経営という「強み」にファーストライトが投資
──シードラウンドで、ファーストライトがリード投資家になったのはどのような経緯があったのですか。
コミューン高田:2018年にユーザベースが、日本のスタートアップを応援することを目的に、創業1年以内のスタートアップが提供する新サービスのファーストクライアント(最初の顧客)となるという「ファーストクライアント宣言」(注・現在は終了)をしていました。
「これ、すごくいいな」と、共同創業者とふたりでユーザベースに伺いました。「サービスそのものは面白いけれど、プロダクトとしては未熟」と評価されたんですが、そのときに立ち上げたばかりのファーストライトを紹介されたのが最初です。
ファーストライト岩澤:当時、ファーストライトでは「チーム経営の会社」に投資したいと考えていました。創業メンバーが一枚岩で、それぞれが強みを発揮しながらお互いの弱みを補完し合っている。そんなスタートアップを探していたんです。
創業オフィスの一軒家を訪ねたとき、目の前で創業メンバー3人の議論が始まって、その様子を見ていて、「イメージにぴったりだ、これは可能性がある」と確信しました。
コミューン高田:代官山の築60年の古い一軒家ですよね(笑)。
ファーストライト岩澤:3人とも大学の同期で、一緒に住むくらい仲がいいんだな、と感じました。でも、決定的だったのは議論の質の高さと、オフィスにあった“消し忘れたホワイトボード”です。解像度の高さや思考の深さに驚いて、これは絶対いけると思いました。
岩澤 脩 Osamu Iwasawa ファーストライト・キャピタル 代表取締役
慶應義塾大学理工学研究科修了。リーマン・ブラザーズ証券、バークレイズ・キャピタル証券株式調査部にて 企業・産業調査業務に従事。その後、野村総合研究所での、M&Aアドバイザリー、事業再生計画立案・実行支援業務を経て、2011年からユーザベースに参画。執行役員としてSPEEDAの事業開発を担当後、2013年から香港に拠点を移し、アジア事業の立ち上げに従事。アジア事業統括 執行役員を歴任後、日本に帰国。2018年2月にUB Ventures(現ファーストライト・キャピタル)を設立し、代表取締役に就任。
起業家と投資家が同じ方向を向く
コミューン高田:僕らが岩澤さんにシードラウンドからリードしてもらいたいと思ったのは、最初のミーティングのときの印象が決め手でした。ほとんどの場合、起業家がプレゼンして、投資家はそれを評論して審査するという関係性が普通です。
でも、岩澤さんは最初のミーティングで、ディスカッションに加わって、我々のサービスの見せ方や訴求の仕方をこう変えたほうがいいととフィードバックしてくれました。起業家と投資家が向き合うというより、一緒に同じ方向を向いてくれているのを感じて感動しました。そんな投資家、なかなかいませんよね。
投資家の役割は、資金の投入以外にもいろいろありますが、どれくらい気づきを与えてくれるのかということが、起業家にとってはすごく重要です。岩澤さんは、まさに僕らが求めていた投資家像でした。それで、すでにほかの投資家と話を進めていたのにも関わらず、ぜひファーストライトにリード投資家になってもらいたいと思ったのです。
コミューンについて
設立:2018年5月
事業内容:commmuneは企業とユーザーが融け合うカスタマーサクセスプラットフォームを提供。
各社毎に最適な顧客コミュニティをノーコードで構築し、コミュニケーションの集約統合・双方向化を実現。
HP:https://commmune.jp/
もう少し整理すると、ファーストライトに投資してもらおうと考えた理由は3つありました。
1つ目は、ユーザベースという会社が、チーム経営で成功している点です。一般的に、投資家に好まれるのは、強烈なトップとそれを支えるフォロワーシップという体制です。しかし、我々はチーム経営。ユーザベースとはそこに親和性があり、かつ、結果を出しているところも魅力でした。
コミューンの場合、どれだけよい組織がつくれるかが経営を左右する指標となります。その点においても、ユーザベースは「働きがいのある会社」に選ばれるなど、我々が目指す組織カルチャーを体現していました。
2つ目は事業者としての説得力です。当時はまだ「SaaSビジネスはこうするべきだ」という情報が少なく、投資家も海外の事例からアドバイスするような状況でした。
それに比べて岩澤さんにはSPEEDAでの実績があり、言葉に説得力がある。事業運営に対する解像度が違いましたね。MRRのスピード感の指標なんて、岩澤さんに教えてもらって初めて知ったくらいで、「何を追うべきか」を教わりました。
3つ目は、岩澤さん個人の人間性に惚れ込みました。デューデリが進む過程で、岩澤さんがファーストライトがリードとするメリットとデメリットを教えてくれたことがあるんです。普通、デメリットを言うVCなんていませんよね。僕ら自身、それまで投資家との付き合いもなく、投資家を入れることへの不安もありましたが、岩澤さんなら信頼できると感じた瞬間でした。
心理的安全性という企業カルチャー
コミューン高田:コミューンでは、「心理的安全性」を非常に重視しているんですが、岩澤さんの「デメリットも相手に伝える」という姿勢は、我々の目指す、弱さも含めてすべてをオープンする組織づくりにすごく近いものがあります。
ファーストライト岩澤:心理的安全性プログラムは、初めて高田さんと1on1をしたときにやりましたね。自分が聞かれてもいいことをお互い書き出しました。書くということは、開示できることですからね。
コミューン高田:あのときのプログラムをコミューン向けにカスタマイズして今も使っています。ある意味、その人の「取扱説明書」みたいなものだと思っています。
岩澤さんと最初に心理的安全性プログラムをやった頃。自分たちの知り合い以外の社員が初めて入社したタイミングでした。お互いを知るのにコミュニケーションはもちろん大切ですが、このプログラムがあることで関係づくり、組織づくりの最初のスタートラインが高くなるということを実感できました。
採用においても、コミューンの心理的安全性という企業カルチャーに魅力を感じて入社してくれる社員が多いですね。
MRRの初速をつくることの重要性
──岩澤さんはMRRの重要性を高田さんにどのように伝えていたのですか。
ファーストライト岩澤:高田さんと経営会議をスタートしたとき、MRRをどのタイミングでどの高さまでもっていくかを決めることが大事だと話しました。まずは、これまでのSaaSプレーヤーの初速を分析して、成功したプレーヤーと同じ初速がつくれたら、必ず駆け上がれるはずだ、と。SasSビジネスでは、最初の立ち上がりが緩やかだとリカバリーはかなり難しくなります。ですから、そこはかなり厳しく言いましたね。
コミューン高田:今、振り返ると、あのときMRRの設定を厳しくやってきて、すごくよかったです。
ファーストライト岩澤:ファーストライトではMRR Velocity(※)は12カ月 MRR1000万円が投資の基準。これがクリアできれば、未来が開けると考えています。それに向けて、手探りでコミューンと一緒にMRRを積み上げてきました。
※MRR Velocity=MRRのスピード
コミューン高田:初期によく言われたのは、「誰にどういうふうに刺さるサービスなのか、しっかり見極めること。焦るな」ということです。その代わり、一旦スタートラインに立ったら、ストップウオッチ片手に、スタートダッシュをする。
予実を可視化し、必達意識を持つ
ファーストライト岩澤:シフトチェンジのために、予実の可視化も重要でした。最初はテンプレートもなかったのでユーザベースで過去に実際に使っていたExcelシートを提供しました。キャッシュフローベースではなく、月次の予実ベースで投資やコスト管理できるようにしました。
予算が達成できないと「負け癖」がついてしまう。そうならないように、必ず達成する。それが難しいなら、最初に戻って立て直す。数値にコミットしながら、それを一緒に繰り返しました。
営業資料をチェックするだけでなく、各メンバーのセールスピッチを録音してもらい、聞かせてもらったこともあります。録音を聞くと、私の経験から、メンバーごとの強みがはっきり見えてきました。個人の適性に応じた配置を高田さんに提案したこともあります。
コミューン高田:ファーストライトと一緒につくってきたものはいろいろありますが、大事なところでは、まず全てオープンにするというのが1つです。コミューンでは、キャッシュフロー、事業KPIもすべて投資家、社員に開示しています。
もう1つは、バッドニュースファースト。悪いニュースほど先にオープンにしようということです。
ファーストライト岩澤:月次の経営会議、週1の1on1、ほぼ2年ずっとやっていますね。
コミューン高田:それが、経営を振り返って確認するペースメーカーになっているところもあります。自分は経営者として優れているタイプだとは思っていないので、経営者の先輩からいろいろ教えてもらえるせっかくのチャンスだと捉えています。
会社は個人のキャリアを実現するためのビークル
ファーストライト岩澤:1on1では、高田さんの短期的になりがちな視点を意識的にはがしてきました。高田さんの強みは、コミットしたことは絶対にやるところ。ただ、目の前の課題に集中しすぎることで、中長期的視点を見失うリスクもあるからです。
例えば、オフィスの最初の引っ越し。成長するためにはメンバーを増強していく必要があります。採用を強化するためにも、ふさわしいオフィスに引っ越すべきだと提案しました。成長するスタートアップは、経営陣が思っているよりも成長スピードが速いのです。
コミューン高田:自分たちではまだまだ家賃15万円の一軒家で十分だと思っていましたが、岩澤さんに後押しされて家賃65万円のオフィスに引っ越しました。今考えると、大正解でした。トイレが1つしかない一軒家では、女性は採用しにくかったでしょうから。
ファーストライト岩澤:チームやカルチャーについても、よく議論してきましたね。
コミューン高田:「会社は個人を実現するためのビークル」というのが、経営チームの考え方です。
メンバーのひとりが辞めたいと言い出したことが、きっかけでした。我々としては引き止めたいが、本人のやりたいことと事業や仕事内容がズレてしまったんです。
ファーストライト岩澤:相談を受けたときに、本人がやりたいことがあるならば、そこから逆算して同じ方向に向かえるかを考えた方がいいと言ったのを覚えています。
コミューン高田:岩澤さんのアドバイスですぐに本人の家に行って、話し合いました。結局、そのメンバーを配置転換し、今も会社に残って働いてくれています。
ファーストライト岩澤:それもコミューンのカルチャーの強みですね。人を機能で判断せず、その人の強みに向き合い考える。
コミューン高田:本人のパフォーマンスを上げるために、会社ができることをする。それは会社の責任だし、会社にとってもメリットが大きいと学びました。
従業員にとっては、自分がどれだけ活躍できるのか、働きやすいカルチャーなのかががすごく重要です。彼らから、「この船で自分のキャリアを実現していきたい」と選ばれ続ける会社になることが、経営者の責任だと思っています。
勝負はここから。より高く飛ぶフェーズへ
──最後に今後の展望について教えていただけますか。
コミューン高田:シリーズBを迎えて、対外的に一段フェーズが上がったととらえられていますが、グローバルでは、シリーズAで20億円調達という話もゴロゴロあります。それを考えたら、実力はまだまだシリーズAレベル、勝負はここからという感覚のほうが強いです。
岩澤さんからも、調達資金をどう「生き金」にするのか、と何度もアドバイスをされています。口座に置いておくだけでは意味がないし、使うのが簡単だからこそ、使いみちが重要。ビジョンの実現を少しでも早く、大きくするためにどう使っていくか。地に足を付けながら、進んでいきたいと思っています。
ファーストライト岩澤:これまでのコミューンはより「速く飛ぶ」という「速さ」にフォーカスして、成長してきました。これからは、より「高く飛ぶ」フェーズ。高く飛ぶには、経営陣はもちろん、チーム・組織のカルチャーづくりがものすごく重要です。
年間70人規模の採用を計画している今だからこそ、もう一度原点回帰しておくべきでしょう。なぜ、今のカルチャーができているのか。過去へのリスペクトを持って、さらにすばらしいカルチャーをつくり成長をドライブして欲しいです。
編集:久川 桃子 | ファーストライト・キャピタル エディトリアル・パートナー
撮影:北山宏一
2021.09.22
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