顧客体験を最適化し、企業と顧客の双方向コミュニケーションが取れるコミュニティをノーコードで簡単に構築・運用できる、クラウド型顧客ポータル「commmune」。2018年9月にベータ版をリリースし、2019年6月にファーストライトからシードラウンドの資金調達を得て以降、年間成長率400%という驚異的な数値で事業拡大を続けている。
一見すると、顧客コミュニケーションツールはプレーヤーが乱立しているように思えるが、ファーストライト・キャピタルの岩澤は「既存顧客のコミュニケーションを全体最適するプレーヤーはいなかった」と言い切る。
それを裏付けるように、大企業からスタートアップまで次々と「commmune」の導入を決めている。具体的にどのようなサービスで、どんなビジョンに基づいているのだろうか。 ファーストライト・キャピタル代表取締役の岩澤脩が コミューン代表取締役CEOの高田優哉氏に話を聞いた。
LTV経営の生命線である顧客接点のDX
——既存顧客コミュニケーションをDXで最適化する「commmune」は、大手企業からスタートアップまで引き合いが急増しているそうですが、コロナ禍でニーズが高まったのでしょうか?
高田:コロナの影響で何かが変わったというよりは、2〜3年先に見ていた未来が早く来た印象です。
既存顧客とのコミュニケーションには、もともと3つの課題がありました。
これらの課題が潜在的にありつつも、企業のほとんどは対面営業などアナログなコミュニケーションを重視して、デジタル化やストック型への移行を先延ばしにしていました。
1つはこれまで訪問や電話、対面のセミナーなどアナログな手段に依存していたこと。2つ目は、目的や部門によって別々のコミュニケーションツールやチャネルが使われていて、社内で分断されていたこと。そして3つ目は、顧客とのコミュニケーションが一方的かつフロー型になっていたため、エンゲージメントを向上させるのが難しかったことです。
岩澤:構造変化もあって、労働力人口は減る一方ですし、未来永劫、新規顧客が増え続ける世界ではないことから、数年前からサブスクリプションビジネスの概念が浸透し始めていました。
ビジネスモデルが従来の売り切り型から、いかにLTVを高めて既存顧客と共創するかの考え方に徐々にシフトしていたことも、コロナ禍での顧客コミュニケーションのDXを後押ししたと思います。
クラウド型顧客ポータル「commmune」とは?
——commmuneによって既存顧客とのコミュニケーションはどう最適化されるのか、サービス内容について教えてください。
高田:commmuneは、企業と顧客のコミュニケーションをデジタル化&ストック型にして顧客体験を最適化し、チャネルを集約・統合管理して顧客との双方向コミュニケーションを実現させるクラウド型顧客ポータルです。
これまでは、各部門が別々の方法で顧客とコミュニケーションしているケースが多かったでしょう。たとえば、ある顧客からサポートにクレームが入っていたとしても、それを知らない別部門の営業担当者が全く違う要件でアプローチをしてしまうということが起きていました。その顧客は不満を持っているのに新しい提案をされると、逆に不信感を抱きかねません。
部門の多い大企業ほど顧客コミュニケーションは分断され、顧客に最適なコミュニケーションを取れる運用ができている会社は、ほとんどないのではないでしょうか。
顧客からすると、企業とのコミュニケーションは連携されているのが当たり前の期待値です。部門が分かれているからコミュニケーションが分断される、等は知ったことではない。つまり、1カ所で済むようなコミュニケーションの場を作ることが、顧客にとっての快適さやサービスの使いやすさ、LTVにつながるのです。
こうした課題を解決するために、コミュニケーションが資産価値を持つようデジタル化して、効率化、LTVの向上、スケールするカスタマーサクセスを実現させる顧客ポータル「commmune」を開発しました。
プログラミング不要の「ノーコード」でコミュニティサイトを作れるので、コードを書けるエンジニアは必要ありません。また、自社内にコミュニティ運用の知見がなくても効果的な運用を弊社がサポートしています。
たとえばWeWorkさんの場合、入居者同士がコミュニケーションを取りやすい場を提供したり、入居者が提供しているB向けサービスを他の入居者にレコメンドしたりなど、ネットワーク内でのビジネスも活性化されています。
顧客向けにメルマガやDMを送るといった「フロー型」のコミュニケーションでは、WeWorkさんのようなコミュニティ化は難しいでしょう。1つのポータルでコミュニケーションする「ストック型」にすることで、価値あるコンテンツをユーザーに合わせて提供できるようになるのです。
既存顧客とのコミュニケーションの教科書になる
——既存顧客向けのコミュニケーション最適化ツールは、今までなかったのでしょうか。
岩澤:決定版といえるものはなかったと思います。
すでにあるのは「顧客エンゲージメントを計測しましょう」「顧客のプロダクトの使い方を可視化しましょう」といった断片的なツールで、すべてのコミュニケーションがシームレスにつながっていません。
高田:企業視点で考えると断片的なツールになるのは仕方がない。ツールの導入は部門ごとに管理しているので、たとえばサポート部門の人がマーケ部門の人にも役立つツールを導入しようとは考えにくいでしょう。
でも企業にとって本当に必要なのは、全体最適を考えた顧客とのコミュニケーション。そのためには、プロダクトやサポート、マーケティング、セールスなどすべての部門がカスタマーサクセスを中心につながった組織設計にすべきで、この形を提唱していきたいんです。
見込み顧客とのコミュニケーションはセールスフォースが提唱する「ザ・モデル」が浸透したように、既存顧客とのコミュニケーションは我々が教科書になってリードしたいと思っています。
ファーストライトが投資を決めた理由、コミューンが乗り越えた危機
——2019年6月時点で、ファーストライトがコミューンへの最初の投資を決めた理由は何だったのですか?
岩澤:3人の創業メンバーがDtoCビジネスに失敗したあとも、同じメンバーで再チャレンジしようとしていることに魅力を感じたからです。「このチームは強い」と。
事業に関して当時は、数あるコミュニティ支援アプリの1社という認識しかありませんでした。しかし、3人が毎日徹底的に事業に関して長時間議論をするのが印象的で、、この深い議論を続けられるなら事業は良い方向に必ず進むと直感的に思いました。
——投資家という立場から見て、事業はこの1年でどう変わっていますか?
岩澤:出資当時のコミューンは、プロダクトリリース直後で、BtoB、BtoC両方の顧客にあたり、本当にニーズがあるのかを調べるPMF(Product Market Fit)を実施していました。
PMFの結果、BtoC企業にターゲットを絞る経営判断をし、順調に事業が立ち上がっていました。
例えば、「これは美味しい」と思ったときに、直接お店や企業に伝える窓口はあまり整備されていません。このように、飲食やサービス業といったBtoC企業は、顧客からのフィードバックを直接得る機会が少なく、オンラインで顧客とつながるメリットが大きいからです。
ところが、2020年に入り、突如コロナの猛威がコミューンの顧客を襲いました。ほとんどの商談は延期。窮地に立たされたのです。
しかし、コミューンの経営陣は、即座に対象顧客をBtoBに転換、コロナ環境下でも一切言い訳しない。徹底的にリード数、商談数など行動量にこだわり続けた結果が今につながっています。
これは、誰もができることではありません。創業以来、顧客とプロダクトに向き合い続け、日々自分たちの本源的価値は何か、議論を重ね続けてきたからこそできた経営判断でしょう。
すごいのはユーザーから学び続けるチームであること。仮説をぶつけてフィードバックをもらい、それをサービス開発や事業戦略に生かすサイクルを高速で回し続けたからこそ、急成長につながっています。
ピンチの時こそ止まらずに行動し続けることが、結果的に、外的変化への強さにつながると私も多くの学びがありました。
未だ業界スタンダードのプロダクトがない領域で、日本から世界へ
——急成長しているとはいえ、コミューンはまだ始動したばかりです。これから市場を開拓していくために、どんな人に仲間になってもらいたいですか?
高田:コミューンには「超本質主義 ― なぜやるのか?にこだわろう」「チームコミューン ― 向き合おう。背中を合わせよう」「狂気 ― 徹底的に徹底しよう」という3つのバリューがあって、それにフィットする方がいいなと思っています。
具体的には、言いたいことを言い合える心理的安全性のある組織で、徹底的に向き合うことと、新しくも難しい領域で早く価値を生み出すための実行力を重視しています。
だから、求めているのは、カルチャーやバリューがフィットして他のメンバーとの相性が良く、成長ポテンシャルのある方。スキルは二の次です。
今は10人規模の組織ですが、これから5万人規模を目指すことを考えると、50人目の社員も創業メンバーの位置付けになります。組織づくりや事業づくりはこれからなので、コミューンという船に乗ることを通じて、一人一人のキャリア実現につなげてほしいと考えています。
——すでに、従業員5万人の成長を見据えているのですね!
岩澤:それくらいいってもらわないと困ります(笑)。
既存顧客のコミュニケーション領域は、これから市場ができていくタイミング。加えて、この市場は日本だけでなく世界に広がっているのが面白さでありチャレンジです。
グローバルで見ても業界のスタンダードになっているプレーヤーがいない。コミューンが展開する領域は日本のSaaS企業が世界にチャレンジできる領域の一つだと見ています。
個人の成長と会社の成長がつながる。そして、その先に新しい市場を作れるような機会はあまり多くない。僕から見てもコミューンのようなスタートアップに今ジョインすることの価値は高いと思います。
このタイミングでどんなメンバーが集まるのか、いかに高い視座をもって事業をつくれるかに将来がかかっています。コミューンには本当に世界で戦えるSaaS企業になってほしいし、そのポテンシャルは十分にあると思っています。
編集:久川桃子 構成:田村朋美 撮影:稲垣純也
2020.11.20
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