
はじめに
前回は、私がVCになるまでのキャリアについてお話ししました。今回は、35歳でVC設立を決意した瞬間から、その後の経営における試行錯誤までをお伝えします。学生時代に口にした「言霊」が現実となり、新たな挑戦が始まった瞬間の物語です。
※この記事は、ポッドキャスト「VIVA VC」第7回をもとに作成しました。番組では、VC設立の裏側についてさらに詳しく語っています。ぜひご視聴ください。
アジア事業統括から日本へ – 転機の瞬間
ユーザベースのアジア事業統括として5年目を迎えた頃、私は初めての予算未達を経験しました。100人規模の組織を率いていましたが、それまで右肩上がりだった事業成長に陰りが見え始めていたのです。そんな中、日本の代表である梅田さんと稲垣さんから「そろそろ日本に戻ってきなさい」と、帰国を促されました。
当時、アジア事業は私のアイデンティティそのもの。「アジア事業ができないのなら、ユーザベースを辞めます」と2人に伝えました。すると彼らは、NewsPicksの新規事業立ち上げやアジア企業のM&Aなど、新たなチャレンジの機会をくれました。しかし、どれもしっくりこない。そんな私に対して、彼らがふと言った一言が、私の人生を大きく変えることになりました。
「そういえば、岩澤は入社面接の時、35歳でベンチャーキャピタリストになると言っていたよね」
忘れていた約束との再会
その瞬間、7年前の入社面接での言葉が蘇りました。私自身は完全に忘れていた約束を、2人は覚えていてくれたのです。そして、その時私はちょうど35歳。まさに約束の時を迎えていました。この偶然に、何かに導かれているような感覚を覚え、その場で「VCをやります」と即答しました。
なぜ他の提案ではなくVCだったのか。
それは、自分の原体験と今が強くつながった衝撃があったからです。学生時代のVCでのインターン経験が、その後の金融、コンサル、スタートアップでのキャリアをすべて貫く一本の軸になっていたことに改めて気づいたのです。この「自分の原体験と強くつながっている」という考え方は現在の投資判断でも大事にしています。
VC立ち上げ
VC設立を決意した時、不思議と恐怖は感じませんでした。学生時代のVC経験は忘れており、まっさらな状態からもう一度VCという仕事に繋がれたのが、最初の立ち上げのエネルギーになったと思います。
また、立ち上げるにあたって「なぜやるのか」についてはしっかり考えました。当時日本において事業経験を持つベンチャーキャピタリストは少なかったのと、ちょうどSaaSというキーワードが日本で立ち上がってきたタイミングで、自分のユーザベースというSaaS企業での経験が起業家にとってもよい学びとして提供できると思いました。
経営者としての試練
しかし、実際の経営は決して平坦な道のりではありませんでした。設立から2〜3年目、立ち上げメンバーが一斉に退職するという危機に直面します。キャリアの方向性の違いや、給与面での課題など、さまざまな理由が重なり、一時は完全に一人になってしまいました。
この危機を乗り越えられたのは、アジア事業時代の同僚の助けがあったからです。「もう一回いいチームを作りましょう」という彼の言葉をきっかけに、アジア事業で共に働いた仲間に声をかけ、チームを再構築しました。
多様性を活かしたチーム作り
この経験から学んだのは、チーム経営の重要性です。立ち上げ当初は私が一人で立ち上げ、そこにメンバーが加わる形だったため、GPとメンバーの間にギャップが生まれていました。
現在のファーストライトはエトス(Ethos)というカルチャーを共有しながら、それぞれの個性を出せるようにしています。台湾出身で北京でのスタートアップ経験を持つパートナーや、ユーザベースで新規プロダクトを立ち上げた経験を持つメンバーなど、多様なバックグラウンドを持つ仲間が集まっています。不思議と海外経験のあるメンバーが多いのも特徴です。

VCを辞められない理由
立ち上げ初期にメンバーが抜けたり、VIVA VC第一回でお話ししたようにLPが直前で2社抜けてしまったり様々な大変なことはあるものの、私はVCという仕事に大きなやりがいを感じています。
デューデリジェンスを通して知的好奇心を追及したり、ビジネスの本質を見極めたり、起業家のビジョンに伴走して新しい産業が立ち上がるのを一番早いタイミングで見たり、色々ありますが、私にとって、一番のやりがいは起業家の方々が事業フェーズに応じて成長されていく姿を間近で見れることだと思います。
私が考えるVCの本質
「VCにとって一番大切なことは何か」、難しいですが、私はこう答えます。
「起業家を自分の家族や友人のように知ることができるか。そして、彼らがハードシングスに直面した時に勇気を与えられる存在になれるか」
これは単なる距離の近さとは異なります。株主としてのガバナンスの役割も担いながら、さまざまな立場を使い分け、起業家の成長に寄り添う。そこにVCとしてのやりがいと醍醐味があると感じています。
アフリカのことわざに「早く行きたいなら一人で行け。遠くまで行きたいならみんなで行け」というものがあります。これは、私自身の失敗から学んだ教訓でもあります。オープンなコミュニケーション、自分の弱みを見せる勇気、そして信頼関係の構築。これらが、素晴らしい事業を作るための重要な要素だと、私は確信しています。
おわりに
VCという仕事には多くの試練と喜びがあります。私自身のキャリアを振り返ると、数々の困難がありましたが、それでもなお、この仕事を選び続ける理由は明確です。起業家の挑戦に伴走し、彼らが成功する瞬間をともに迎えられる。それが、私にとってのVCを続ける意味なのです。
(この記事は、ポッドキャスト「VIVA VC」の第7回を元に作成しています。番組では、より詳しい議論を展開していますので、ぜひご視聴ください。)
編集:ファーストライト・キャピタル SaaS Research Team
2025.2.10
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