はじめに
VC(ベンチャーキャピタル)と起業家の間には、特別な信頼関係が求められます。実際に投資が成立するまでには多くの時間と努力がかかり、その間にお互いを理解し、信頼を築いていくことが不可欠です。
本記事では、VCと起業家の出会いから投資までのプロセス、そしてその間にどのように信頼関係が形成されるのかについて詳しく解説します。
※この記事はポッドキャスト「VIVA VC」第4回をもとに作成しました。番組では、VCと起業家の関係についてより詳しく語っています。ぜひご視聴ください。
出会いから投資までの道のり
「出会ってすぐに投資が決まる」というケースは稀です。
むしろ、1年後や2年後の資金調達を見据えて出会うことが一般的で、長い場合には2–3年をかけて信頼を深めることもあります。この期間は、VCが起業家の実行力を見極め、起業家がVCの信頼性を判断するための重要な時間です。
例えば、私たちファーストライトでは年間約100社を投資検討しますが、実際に会う企業数はその3倍以上。
シード投資に特化したVCは、年間1000社以上の起業家と面会するケースもあります。これだけの数の起業家と接点を持つため、VCは定期的なコンテンツ発信や勉強会、コミュニティ運営など、さまざまな方法で関係を維持しています。
私たちの運営するコミュニティ「Thinka」では、既存の参加者が次の参加者を紹介することで信頼の輪が広がっています。このような取り組みは、起業家とVCの接点を自然に生み出す重要な役割を果たしています。
VCと起業家の関係構築
投資検討プロセスは、ベンチャーキャピタリストによる初回面談から始まり、週次の検討会議、パートナー(GP)との面談(マネジメントインタビュー)、そして最終的な投資委員会での決議へと進みます。この一連のプロセスには通常3ヶ月程度が必要です。
また、このプロセスの中で、世代間ギャップが問題となることもあります。多くの起業家は20〜30代前半である一方、VCは年齢を重ねるにつれて起業家との価値観やコミュニケーションスタイルにギャップが生じることがあります。
このギャップを埋めるため、若手キャピタリストの採用や女性コミュニティの形成など、多様な接点作りがますます重要になっています。
私自身、40代となり、アプローチの方法を変化させてきました。かつては飲み会中心のスタイルでしたが、現在はシリアルアントレプレナーとの関係構築や既存投資先からの紹介を活用するなど、異なったアプローチへとシフトしています。
信頼関係を築くために大切なこと
意外かもしれませんが、自分の強みだけでなく弱みを正直に伝えることが信頼構築の重要なポイントとなります。
私の場合、「計画を立てて着実に実行していくスタイル」であることや、ファーストライトのファンドサイズが中規模で投資額に制限があることなど、率直に伝えるようにしています。このような自己開示には勇気が必要ですが、結果として信頼関係を強化することができます。
例えば、SaaS(ソフトウェア)分野では、計画を立て着実に実行していく起業家が多い傾向があります。彼らの多くは、正しい方法論を理解し、それを実践する能力を持っているため、計画重視型の私のアプローチと自然にフィットします。
しかし、長期間関係を築いても最終的に他のVCが選ばれることもあります。こうした状況は悔しいものです。
一方で、嬉しい展開もあります。一度は他のVCを選んだものの、「やっぱりファーストライトでお願いしたい」と戻ってきてくれるケースも。これは私たちの誠実なアプローチが評価された証だと、心から嬉しく思います。
投資後の長期的な関係
VCと起業家の関係は、投資後6~8年、時には10年以上続きます。この期間中、信頼関係を保つためには価値観の共有が欠かせません。投資前の段階で、どのように関わっていくのかをしっかり話し合い、合意形成することが重要です。
投資は単なる資金提供ではなく、同じ経営チームの一員として事業成長を支える役割を果たすものです。こうした長期的な視点が、VCと起業家の成功を後押しします。
多様化する時代における関係構築
2004年に私が初めてVC業界に触れた頃と比べると、現在ではVCや起業家の数が大幅に増えています。
この多様化によって適切なパートナーを見つけるチャンスが増えた一方で、ミスマッチのリスクも高まりました。そのため、お互いのフィット感を丁寧に確認するプロセスがますます重要になっています。
焦らず、誠実に信頼関係を築く。このプロセスを大切にすることが、より良いスタートアップ・エコシステムの形成につながると信じています。
おわりに
VCと起業家の信頼関係は、長い道のりを共に歩むための基盤です。お互いに選び、選ばれる関係を築くことで、より強固なパートナーシップが生まれます。焦らずに誠実な姿勢を貫き、未来を切り開いていく—それがVCの本質であり、最大の醍醐味なのです。
(この記事は、ポッドキャスト「VIVA VC」の第4回を元に作成しています。番組では、この記事では語りきれなかった具体例や詳細なエピソードについてもお話ししています。ぜひご視聴ください。)
編集:ファーストライト・キャピタル SaaS Research Team
2025.1.18
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