はじめに
日本ベンチャーキャピタル協会のキャピタリスト研修を同じタイミングで受けた150人のうち、2〜3年後にキャピタリストとして続けているのは半数以下。ポジティブなイメージで語られることが多い職業ですが、長く働き続ける難しさもあります。
ファンドサイクルが10年という長期戦の中で、若手キャピタリストはどのように成長し、何を目標に歩んでいけばいいのでしょうか。
今回は初登場となる、ファーストライト・キャピタル・プリンシパルの真島が共同でパーソナリティを担当します。英国のバーミンガム・ロイヤル・バレエ団付属バレエ学校への留学経験を持ち、怪我を機に日本に戻ってからはユーザベースでのスタートアップ事業経験を経て、現在VC歴5年目という異色のキャリアの持ち主です。
岩澤との対話を通じて、若手キャピタリストのリアルなキャリアの課題と成長の本質が語られました。
※この記事は、ポッドキャスト「VIVA VC」シーズン3第3回をもとに作成しました。番組では、若手キャピタリストの成長の壁や、伸びるキャピタリストの素養についてさらに詳しく語っています。ぜひお聴きください。
VCキャピタリストのキャリアステップ。アナリストからGPまで[02:49-06:53]
まず押さえておきたいのが、VCキャピタリストのキャリアの全体像です。
業界に入った当初は「アナリスト」や「アソシエイト」として、主担当キャピタリストのいわばカバン持ちからスタートします。副担当として投資先のサポートを担い、経験を積むことで「バイスプレジデント」や「インベストメントプロフェッショナル」と呼ばれるポジションに上がり、自ら主担当を持てるようになります。
さらに実績を積むと「ディレクター」「パートナー」となり、最終的にはファンド全体の責任を担う「GP(ゼネラルパートナー、ファンドマネージャー)」を目指すというのが大まかな流れです。
真島の現在の肩書きである「プリンシパル」は、このバイスプレジデントやインベストメントプロフェッショナルと同じ階層の呼称で、主担当としての経験を積み始めた段階にあたります。コンサルティングファームや投資銀行でもプロジェクトの主担当・副担当という概念があるように、VC特有の階層というわけではなく、プロファームと呼ばれる業界と基本的な構造は変わりません。
投資委員会資料という最初の壁。「自分の言葉に変換できない」苦しさ[06:54-11:30]
真島は「投資委員会資料のリスクファクターが書けなかった」という経験を明かします。リスクファクターとは、投資後に投資先で起こりうるリスクシナリオを想定して言語化したものです。岩澤も「5年前に真島が最初に作った投資委員会資料が、3日前の時点で白紙だった」と当時の苦労を振り返りました。
真島が指摘するのは、「起業家の言葉をそのまま持っていくのではなく、キャピタリストとしての着眼点やファンドとしての投資の意義を改めて言語化しなければならない」という難しさです。起業家への質問はできる、でもそれを「投資検討としての自分の言葉に変換できない」。この苦しさを乗り越えるために真島が実践したのは、シンクタンクのレポートや業界資料を読み込み、俯瞰した視点での知見を自分のものにしていくことでした。岩澤も当時「レポートをもう少し読んでみたら」とアドバイスしていたと真島は明かしています。
具体と抽象の行き来を繰り返す中で、地に足のついた投資仮説が持てるようになっていく。この感覚が、若手キャピタリストの最初の「覚醒」ともいえる成長タイミングです。また、かつてはPowerPointで作っていた投資委員会資料が百枚近くに膨らんで疲労困憊になった反省から、ファーストライトでは現在A4・7ページの文書形式に切り替えています。限られた分量の中で言葉を厳選して資料を作れるようになることも、一つの成長の証だといえます。
副担当として「振り向いてもらう」ための戦略[11:30-14:34]
投資先の支援においては、副担当としてどうポジションを確立するかも大きな課題です。起業家からすれば主担当が「本命」であり、何か困ったことがあればそちらに相談が行きます。その中で、副担当の若手キャピタリストはどうやって信頼を勝ち取るのでしょうか。
真島がユーザベース時代に培ったのは、インサイドセールスからフィールドセールス、カスタマーサクセスまでを経験した現場の第一線での知見です。経営者向けの話をするよりも、まず「現場サイドの相談相手」として具体的な受注率の相場観やインサイドセールスのノウハウを提供することで信頼を積み重ね、徐々に起業家との対話の幅を広げていったといいます。
岩澤はこれを「本命の人では持っていないような魅力や、自分の過去から来る強みをちゃんと伝えることからスタートする」と言い換えます。個を認知してもらえる機会をいかに作れるか。それが副担当としての存在確立のポイントです。
若手が早めに押さえるべきこと、やってはいけないこと[14:35-18:18]
投資と支援以外で若手が早めに経験を積むべきこととして、岩澤が挙げるのが「投資契約の理解」です。投資契約や株主間契約のそれぞれの条項には意味があり、その意味を理解していないと、そもそもクロージング(投資を締結する業務)に入れません。デューデリジェンスのサポートだけに留まっていると、自分が担える領域がいつまでも広がらないという失敗パターンがあるといいます。
逆に、副担当として明確にやってはいけないこととして岩澤が挙げるのが「ミーティングで何も喋らないこと」です。経営会議には複数のVCが参加し、ベテランのレジェンドキャピタリストが同席していることもあります。その場で発言することへの怖さは主担当にもあるといいます。しかし、「そこで言わないと、言わない癖がどんどんついてしまう」と岩澤は指摘します。一回黙ってしまった後にそこから言い出すのは、ハードルがどんどん上がっていくと真島も共感します。
また、フィジカルAIやWeb3などの専門性を焦って身につけようとするあまり、起業家に対するコミュニケーションが空振りになって信頼を失うという失敗パターンも多いといいます。専門性よりも先に、まず「時間管理の技術」と「投資契約の理解」を土台として固めることが重要です。
伸びるキャピタリストと伸び悩むキャピタリストを分ける「3つの素養」[18:18-23:26]
VC業界では2023年のキャピタリスト研修の同期約150人のうち、2〜3年後にキャピタリストとして続いているのは半数を切っているといいます。離脱の理由の一つとして、業界での「頭打ち感」があるのではないかと真島は指摘します。
では、伸びるキャピタリストと伸び悩むキャピタリストの差はどこにあるのでしょうか。岩澤は「明確に3つある」として、次のように語りました。
1つ目は「偏愛経験があるかどうか」です。
誰よりも詳しい領域、情熱を持って語れる領域が過去にあるかどうか。真島のバレエがまさにその例で、岩澤が一つだけ聞いても百が返ってくるほどの深さがあります。そういった「オタッキー」な経験が、キャピタリストとしての独自の視点につながるといいます。
2つ目は「メタ認知力」です。投資判断において「投資したい」という気持ちはそれ自体が強いバイアスになります。自分の主観と客観的な視点の間を行き来しながら投資先の事業を捉えられるかどうか。いわば「幽体離脱できるか」という感覚です。
3つ目が「物怖じしない落ち着き」です。投資先では毎月何かしらの事件が起きます。そこで一緒にあたふたしてしまうと、起業家も焦り、負のスパイラルに入ってしまいます。ハードなことが起きた時にも受け止められる落ち着きが、キャピタリストとして最も大切な素養ではないかと岩澤は語ります。
この3つは後天的に身につけられるものかという真島の問いに対して、岩澤は「どちらかといえば、最初から備わっていないと厳しい」とはっきり答えます。努力でカバーできる部分とそうでない部分があり、この3つはキャピタリストとして最も基礎的な部分であるだけに、「キャピタリストを志す前に見極めておいた方がいい」とのことでした。
おわりに
「ファンドサイクルが10年」というVC特有の時間軸の中では、自分の成長や立ち位置がなかなか見えにくいものです。しかし今回の対話から見えてきたのは、若手キャピタリストが最初の数年に積むべきことは、派手な専門性よりも地道な土台づくりだということです。投資委員会資料を言葉を厳選して書く力、副担当として自分だけの強みを起業家に届ける工夫、契約の意味を理解してクロージングまで担える力。
そしてその根底には、偏愛・メタ認知・落ち着きという3つの素養があります。
これはVC志望者だけでなく、若手ビジネスパーソン全般が「最初の数年で何を磨くか」を考える上でも、示唆の多い視点ではないでしょうか。
※この記事は、ポッドキャスト「VIVA VC」シーズン3第3回をもとに作成しました。番組では、若手キャピタリストの成長の壁や、伸びるキャピタリストの素養についてさらに詳しく語っています。ぜひお聴きください。
執筆 : 岩澤 脩 | ファーストライト・キャピタル 代表取締役・マネージングパートナー
編集 : ファーストライト・キャピタル | リサーチ・チーム
2026.4.06
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