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【VIVA VC 第22回】 あまり語られない「VCの運営」──人材獲得とポートフォリオ戦略の裏側

2025.05.31

Podcast

【VIVA VC 第22回】 あまり語られない「VCの運営」──人材獲得とポートフォリオ戦略の裏側

はじめに

VC(ベンチャーキャピタル)というと、投資先の選定や起業家への支援が注目されがちですが、その裏側にはVC自身の運営という、あまり語られない世界があります。ファンドの管理や人材の採用、そしてポートフォリオ戦略の設計まで、様々な運営課題に日々向き合っています。今回は、VCがどのように組織を構築し、日々の業務をどのように進めているのか、人材獲得とポートフォリオ管理に焦点を当てて解説します。

※この記事はポッドキャスト「VIVA VC」第22回をもとに作成しました。番組では、VCの運営についてさらに詳しく語っています。ぜひお聴きください。

VCを構成する4つの職種 [05:03-09:09]

VCの運営を理解するには、まずどのような職種で構成されているのかを知ることが重要です。基本的には以下の4職種で成り立っています:

  • GP(ゼネラルパートナー):ファンドの投資意思決定を行うトップの役割
  • キャピタリスト:投資先の探索と実行を担う実務担当者
  • ファンドアドミニストレーター:会計や監査対応などファンド全体の管理を担う専門職種
  • コーポレート・バックオフィス:人事・経理など一般的な管理部門

加えて、差別化を図るための新たな職種も登場しています。VCが運営するコミュニティの管理を担当するコミュニティマネージャーや産業・企業分析に特化したリサーチャー、投資先の採用支援やPRを行うバリューアップチームなど、こうした多様な職種の設置は、VCの個性を示すうえでも重要なポイントです。

深刻な人材不足と採用戦略 [08:37-12:52]

特に人材確保が難しいのが、ファンドアドミニストレーターです。ベンチャーファンドの管理には専門性が求められ、経験者は非常に限られています。そのため、ハードスキルを持つ未経験者を採用し、育成するアプローチが必要とされています。ヒューマンタッチの部分が残る領域のため、AIによる代替も難しく、今後VCの数が増えていく中で、この職種の供給が業界の成長制約になる可能性があります。

一方で、キャピタリストはVCの競争力を左右する存在です。起業家に「この人に投資してもらいたい」と思わせる人材を採用できるかが全てを決めます。ファーストライトでは以下の5つの基準を重視して採用を行っています:

  • グロースオリエンテッド:自己破壊を恐れずに成長する意識
  • レジリエント:逆境を楽しめる力
  • プロアクティブ:常に自分の運命を握っている感覚
  • セルフアウェア:客観的に自分を捉えられる力
  • コラボレーティブ:背局的に自己開示し、仲間に頼れる力

特に「挫折経験」を問う質問を通して、自己認識の深さや、自己開示への姿勢を見極めています。

組織文化とチーム運営 [14:05-17:21]

ファーストライトでは、「100年続くVC」を目指して、価値観の共有と組織文化の浸透を重視した運営を行っています。キャピタリストを大量に採用せず、一人ひとり丁寧にOJTを通じて価値観を伝えていくスタイルです。7年間運営してきて嬉しかったのは、地方のLPの方々から「ファーストライトっぽさがある」と評価していただけたことです。これは、これまで取り組んできた価値観やカルチャーの浸透が結果として表れているのだと思います。

組織文化の浸透のために、若手キャピタリストがパートナーと共に行動することで、判断の背景やコミュニケーションのスタイルを実践的に学びます。

ポートフォリオ戦略の設計 [18:30-20:59]

VCは通常、複数のスタートアップに分散投資を行いますが、その組み合わせには明確な戦略があります。例えば、「100億円のファンドで20社に投資、うち10%がシード、50%がアーリー、10%がレイター」といった配分をLPに提示することが求められます。

この戦略設計は、ファンドレイズの段階で行う必要があります。まだ存在しない企業群を仮定して、どれくらいの倍率でリターンを見込めるか、具体的にシミュレーションするのもVCを運営する上での重要な仕事です。

上場基準の変化とポートフォリオの再設計 [23:51-29:06]

2025年4月に東京証券取引所が発表したグロース市場の上場維持基準の変更*1 により、2030年からは上場5年後に時価総額100億円以上が求められるようになりました。実質的には200〜300億円規模の企業体力が必要とされています。

グロース市場の上場維持基準見直し案

この変更はVCの投資戦略に大きな影響を与えます。従来は小規模なIPOも成立していましたが、今後はM&Aを出口とする選択肢を増やす必要があります。スタートアップが先が見えない「リビングデッド」*2 にならないためにも、早期からM&Aの可能性を模索することが重要になります。

*1 グロース市場の上場維持基準の⾒直し(案)
*2 リビングデッド:VCなどから資金調達したスタートアップ企業がIPOやM&Aなどエグジットができず、しかし倒産はしない程度に資金があり、ゾンビのように存続している状態のこと

おわりに

VCの仕事というと、起業家とのドラマチックな出会いや投資決定の華やかさに注目されがちですが、その裏には綿密な運営と地道な努力があります。人材の育成から組織文化の浸透、ポートフォリオ戦略の設計まで、VC運営のすべてがスタートアップエコシステムの基盤を支えています。

今後、VC業界が持続的に発展していくためには、変化に柔軟に対応しながらも、本質的な価値を見失わず、長期的な視点で運営に取り組むことが求められます。逆境を楽しみながら、日本のスタートアップの未来を支える存在でありたいと思います。

※この記事はポッドキャスト「VIVA VC」第22回をもとに作成しました。番組では、VCの運営についてさらに詳しく語っています。ぜひお聴きください。

編集:ファーストライト・キャピタル SaaS Research Team
2025.6.1

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