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【VIVA VC シーズン2 第22回】取引額40兆円超?「ステーブルコイン」が変える世界と、日本に残された勝機

2025.12.14

Podcast

【VIVA VC シーズン2 第22回】取引額40兆円超?「ステーブルコイン」が変える世界と、日本に残された勝機

はじめに

「海外送金の手数料が高すぎる」「着金までに数日かかる」——そんなビジネスの常識が、今まさに過去のものになろうとしています。その主役が「ステーブルコイン」です。

すでに世界での取引総額は40兆円を超え、Visaのクレジットカード取引量を上回る規模に達しているとも言われるこの新しい決済手段。単なる「便利なデジタル通貨」にとどまらず、いまや米ドルやユーロを巻き込んだ「国家間の通貨覇権争い」の最前線となっています。

Bitwise Asset Management「Crypto Market Review (Q1 2025)」より

今回は、急速に普及するステーブルコインの仕組みとメリット、そしてこの巨大な潮流の中で日本のスタートアップが狙うべき「3つの勝機」について解説します。

※この記事はポッドキャスト「VIVA VC」シーズン2第22回をもとに作成しました。番組では、ステーブルコインがもたらす金融の未来についてさらに詳しく語っています。ぜひお聴きください。

ステーブルコインとは何か?Visaを超える決済インフラの正体[03:56-07:40]

そもそも「ステーブルコイン」とは何でしょうか。一言で言えば、「暗号通貨(仮想通貨)の技術を使いつつ、価格を安定(ステーブル)させたデジタル通貨」のことです。

ビットコインなどの従来の暗号通貨は、価格変動が激しく、ビジネスの決済には使いづらいという課題がありました。これを解決するために生まれたのがステーブルコインです。 その仕組みの核心は、「裏付け資産」にあります。発行事業者が、発行額と同額の現金や銀行預金、短期国債などを資産として保有し、常に交換(償還)に応じる義務を負います。これにより、「1コイン=1ドル(または1円)」の価値が理論的に固定され、安心して支払いに使えるのです。

数年前から存在していましたが、2024年に入ってその普及スピードは加速しています。現在、世界の流通量の8〜9割は「USDT」や「USDC」といったドル建てが占めており、日本経済新聞などの報道によると、その取引規模はすでに40兆円を超え、Visaのクレジットカード取引量を凌駕する水準にあるとも言われています。

ビジネスを加速させる「3つの革命的メリット」[07:40-09:26]

なぜ、これほどまでにステーブルコインが使われているのでしょうか。その利点は「早い、安い、管理しやすい」の3点に集約されます。

1. 圧倒的な低コスト 従来の海外送金は、SWIFT(国際銀行間通信協会)という銀行間のリレーシステムを経由するため、数千円単位の手数料がかかっていました。しかし、ステーブルコインなら中抜きがなく、手数料は数十円レベルにまで下がります。まさに桁違いのコスト削減です。

2. 即時決済 銀行送金では着金に数営業日かかることも珍しくありませんが、ステーブルコインは24時間365日、数秒から数分で送金が完了します。

3. グローバルな利便性 海外旅行での両替を想像してみてください。これまでは高い手数料を払って現地通貨を手に入れていました。しかし、ステーブルコインが普及すれば、国境を意識することなく、スマホ一つで買い物が可能になります。

実際、アメリカのオンラインコマースでは決済対応が進んでおり、近い将来、実店舗のレジに「ステーブルコイン払い」のボタンが並ぶ日も遠くないでしょう。

企業財務へのインパクトと日本の現在地[09:33-11:30]

この技術の真価は、個人の買い物以上に「企業の財務戦略」において発揮されます。 特に、世界中に拠点を持つ商社やグローバルメーカーにとって、拠点間の資金移動(トレジャリーマネジメント)は頭の痛い問題でした。ステーブルコインを活用すれば、夜間や休日を問わず、リアルタイムかつ低コストでグループ内の資金を最適化できます。これは、企業の資金効率(キャッシュフロー)を劇的に改善する可能性を秘めています。

日本でも環境整備が進んでいます。2023年の改正資金決済法施行により、ステーブルコインが法的に明確化されました。2024年10月には日本初の円建てステーブルコイン「JPYC」の発行が開始され、11月からは三メガバンクも共同で実証実験に乗り出しています。法整備とプレイヤーが揃い、来年以降、日本企業での本格導入が進むことは確実です。

ドル一強か、多極化か。通貨覇権をめぐる「国家間競争」[11:31-14:24]

視野を広げると、ステーブルコインは「通貨覇権」をめぐる国家間のパワーゲームの舞台でもあります。

現在、ステーブルコイン市場の約9割はドル建てです。アメリカは「GENIUS法」を通じて信頼性を高め、デジタルの世界でもドルの支配力を盤石にしようとしています。 対する欧州は、中央銀行が発行する「デジタルユーロ」を2027年から本格稼働させる計画ですし、中国もデジタル人民元とステーブルコインを組み合わせた戦略で対抗しています。

日本が今、円建てステーブルコインの普及を急ぐ背景には、こうした危機感があります。もし世界のデジタル決済がすべてドル建てになれば、円の国際的な地位や影響力は相対的に低下してしまうからです。

VCが注目する「3つの投資領域」とスタートアップの好機[14:25-18:11]

では、この大きな変化の中で、スタートアップにはどのようなチャンスがあるのでしょうか。ベンチャーキャピタル(VC)の視点では、特に以下の3つの領域に注目しています。

1. 企業の基幹システム(ERP)領域 企業がステーブルコインを導入するには、経理や財務のシステム(ERP)がブロックチェーンに対応しなければなりません。既存の大手システムが対応しきれない部分を埋める、AIを活用した新しい財務管理ソリューションには大きな需要があります。

2. 中小企業の貿易・国際取引支援 日本の製造業や食品メーカーの中には、素晴らしい製品を持ちながら、海外送金の手数料や為替リスクによって利益を削られている中小企業が数多く存在します。こうした企業の決済コストを下げ、利益率を改善させるフィンテックサービスは、日本経済の底上げに直結します。

3. クリエイターエコノミーの解放 アニメ、漫画、ゲームなど、日本が誇るコンテンツ産業。海外ファンからの支払いを、中抜きなくダイレクトに受け取る手段としてステーブルコインは最適です。「円への換金」という壁を取り払い、日本のクリエイターが世界から正当な対価を得られるプラットフォームを作る。ここには巨大な市場が眠っています。

おわりに

オランダのギルダー、英国のポンド、そして米ドル。歴史を振り返れば、通貨の覇権を握った国に世界中の富とイノベーションが集まりました。今、AIという産業革命と、ステーブルコインという通貨革命が同時に進行しています。

2024年から2025年にかけては、日本においてステーブルコインが「実証」から「実装」へと移る歴史的な転換点となるでしょう。

アメリカのモデルを単に模倣するのではなく、日本の商習慣や強み(コンテンツや製造業)に根差したイノベーションを起こせるか。通貨の壁が消えゆく世界で、次世代のスタンダードを創るスタートアップの登場を、私たちVCは強く期待し、支援していきます。

※この記事はポッドキャスト「VIVA VC」シーズン2第22回をもとに作成しました。番組では、ステーブルコインがもたらす金融の未来についてさらに詳しく語っています。ぜひお聴きください。

執筆 : 岩澤 脩 | ファーストライト・キャピタル 代表取締役・マネージングパートナー
編集 : ファーストライト・キャピタル | リサーチ・チーム
2025.12.15

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