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【VIVA VC シーズン2 第10回】「AI就職氷河期」到来か?VCが語る、これから求められるスキルと投資基準の変化

2025.09.22

Podcast

【VIVA VC シーズン2 第10回】「AI就職氷河期」到来か?VCが語る、これから求められるスキルと投資基準の変化

はじめに

「AI就職氷河期」―この言葉が、今アメリカで現実味を帯びています。これは単なる一時的な市場の冷え込みではなく、AIが社会と雇用のあり方を根本から変えつつある、大きな構造変化の始まりです。

この変化の波は、スタートアップの作り方、そして私たちベンチャーキャピタル(VC)の投資基準さえも変えようとしています。

今回は、AI時代における雇用の未来と、これからの時代に本当に価値を持つスキルとは何か、そしてVCの投資判断がどう変わっていくのかについて考察します。

※この記事はポッドキャスト「VIVA VC」シーズン2第10回をもとに作成しました。番組では、AI時代の雇用問題とVC業界への影響について、さらに詳しく議論しています。ぜひお聴きください。

コンピューターサイエンス専攻が就職難?米国の衝撃的な現実[03:20-9:58]

現在、アメリカでは就職環境の激変を示す、衝撃的なデータが報告されています。名門パデュー大学でコンピューターサイエンスを学んだ学生が、週10時間のアルバイトしか見つけられないという事態が起きているのです。

背景には、AIコーディングツールの急速な普及があります。かつて引く手あまただったプログラミングスキルも、AIが代替することで、その価値が相対的に低下し始めています。驚くべきことに、22歳から27歳の大卒者の失業率は、コンピューターサイエンス専攻が6.1%であるのに対し、哲学専攻は3.2%と、IT人材の方が就職に苦戦しているという逆転現象まで起きています。

この傾向はビッグテックも例外ではありません。マイクロソフトやメタといった巨大企業でさえ、AI活用による業務効率化を理由に、採用の停止や人員削減を進めています。AI企業AnthropicのCEOは、「今後5年でエントリーレベルのホワイトカラー職の半数がAIに代替される可能性がある」と予測しており、これは社会全体に大きな変化が訪れることを示唆しています。

「ソロ起業家」の急増と、より少数精鋭になるスタートアップ[10:06-13:50]

このAIによる構造変化は、スタートアップのあり方も大きく変えています。米Carta社の調査によると、スタートアップが最初の従業員を雇うまでの期間が、この5年で320日から487日へと、50%以上も長くなっているのです。

これは、創業者自身がAIツールを駆使することで、エンジニアを雇わずに一人でプロダクト開発を行えるようになったためです。結果として、米国では「ソロ起業家」が急増し、たった一人でシリーズAの資金調達まで到達するケースも珍しくありません。

また、事業が成長し従業員を雇う段階になっても、その人数は明らかに少なくなっています。シリーズA以降のスタートアップの平均従業員数は、5年前と比較して30%減少しており、かつて50人が必要だった業務を、今や35人で実行できるようになったことを意味します。

VCの投資基準はどう変わるか?「AIオートメーション率」という新指標[13:52-18:24]

スタートアップの姿が変われば、私たちVCの投資基準も根本から見直す必要があります。

従来の投資戦略は、投資後に従業員を増やして組織を拡大し、事業を成長させるというモデルが基本でした。しかし、少数精鋭で運営されるのが当たり前になるAI時代においては、この前提が崩れます。採用計画の達成度や従業員エンゲージメントといった指標の重要性は低下し、代わりに「その業務は、本当に人間がやる必要があるのか?」という問いが、より重要になります。

将来的には、「AIオートメーション率」といった新しい評価指標が生まれるかもしれません。これは、事業全体の業務のうち、どれだけの割合をAIで自動化できているかを測るもので、投資判断や投資後の目標設定に使われる可能性があります。

AI時代にこそ価値が高まる「人間固有のスキル」[18:50-20:52]

一方で、AIに代替されにくい「人間固有のスキル」の価値は、かつてないほど高まっています。世界経済フォーラムの調査によれば、2030年までに労働者に求められるコアスキルの約40%が変化すると予測されています。

もちろん、AIやサイバーセキュリティといった技術的スキルは重要です。しかし、それと同時にAIには真似のできない、人間ならではの能力への需要が急増するのです。具体的には、物事の本質を見抜く「分析的思考」、新しいものを生み出す「創造力」、そしてチームを導く「リーダーシップ」や他者に寄り添う「共感」といった人間固有の認知能力や対人スキルです。

世界経済フォーラム「The Future of Jobs Report 2025」より

歴史は繰り返す―産業革命が示す希望[22:25-23:29]

しかし、この大きな変化を過度に恐れる必要はありません。歴史を振り返れば、産業革命の時代にも同じようなことが起きました。「蒸気機関」という一つの技術は、織物工場では自動の機械を動かす動力となり、多くの職人の仕事を代替しました。しかしその一方で、同じ蒸気機関が「蒸気機関車」を動かすことで鉄道という全く新しい産業を生み、結果としてそこに新たな雇用が創出されたのです。

AI革命も同様に、既存の職業を代替する一方で、AIを活用した新しい産業やサービスを生み出し、そこが新たな雇用の受け皿となるはずです。私たちVCの重要な使命は、まさにこうした新しい産業の芽を見つけ出し、その成長を支援することにあります。

おわりに

「AI就職氷河期」という言葉は、私たちに不安を感じさせます。しかし、この変化を脅威ではなく、新しい価値を生み出すチャンスと捉えることが重要です。

歴史が示すように、技術の進歩は最終的に社会をより豊かにします。大切なのは、AIに仕事を奪われることを恐れるのではなく、AIを使いこなせる人材へと自らを変革していくことです。

まずはAI技術に触れ、その可能性と限界を理解することから始めましょう。そして、AIに任せられる仕事は徹底的に任せ、人間にしかできない創造性や分析力、そして他者との共感に基づいたコミュニケーション能力を磨いていくことが、これからの時代を生き抜く鍵となるのです。

※この記事はポッドキャスト「VIVA VC」シーズン2第10回をもとに作成しました。番組では、AI時代の雇用問題とVC業界への影響について、さらに詳しく議論しています。ぜひお聴きください。

執筆 : 岩澤 脩 | ファーストライト・キャピタル 代表取締役・マネージングパートナー
編集 : ファーストライト・キャピタル | リサーチ・チーム
2025.9.22

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