本記事は、ポッドキャスト「VIVA VC」の第2回をベースに、ベンチャーキャピタルの立ち上げについて、より詳しく解説を加えたものです。
はじめに
スタートアップを支援する立場として知られるベンチャーキャピタル(VC)ですが、VCファンド自体の立ち上げについてはあまり知られていません。
実はスタートアップとVCの立ち上げはかなり違います。スタートアップの場合、最初は創業者の自己資金や身近な人からの出資で事業を開始できますが、VCファンドの場合は最初から大規模な資金調達と厳格な規制に対応する必要があります。
今回は、普段は表に出ることの少ないVCファンド立ち上げの舞台裏について、お話ししていきたいと思います。
※この記事は、ポッドキャスト「VIVA VC」の第2回を元に作成しています。番組では、VCの仕事についてより詳しくお話ししています。ぜひご視聴ください。
VCファンド立ち上げの全体像
VCを立ち上げるといっても、すぐに投資活動が始められるわけではありません。
まずはGP(General Partner)というチームメンバーを揃えます。次に、金融庁への届出を行い、そして最後に、投資家からの資金を集める必要があります。この一連の流れには、通常1年以上の時間がかかります。
これは一般的なスタートアップの立ち上げとは大きく異なる点です。
スタートアップの場合、アイデアがあれば比較的小さな規模から事業を開始できますが、VCファンドの場合は立ち上げ段階から数十億円規模の資金集めが必要となります。加えて、金融商品を扱う事業として、厳格な規制対応も求められます。
また、10年間資金を運用し続けるファンドという形態を取る以上、長期の運用期間を見据えた組織設計が必要になります。この期間、投資先の発掘から育成まで、一貫した体制を維持していかなければなりません。
そのため、初期の体制構築は特に重要な意味を持ちます。
GP体制の構築 〜10年を共に歩むチーム作り〜
まず最初に取り組むのが、GP(General Partner)体制の構築です。GPは投資判断や運営の意思決定を行い、通常はVCの代表やパートナーがこの役割を担います。
この段階で大切なのは、お互いの価値観やビジョンの一致です。投資に対する考え方はもちろん、組織をどう作っていきたいか、投資先をどのように支援していきたいかなど、様々な観点での擦り合わせが必要になります。
実際は、定期的なミーティングを重ね、お互いの考えを深く理解し合うプロセスを経ます。これは10年という長期の付き合いになるため、慎重に進める必要があります。
適格機関投資家特例業務の届出 〜VCビジネスの入口〜
VCファンドを始めるには、まず金融庁への届出が必要です。「適格機関投資家特例業務」という仕組みを使います。
この制度は、2007年に日本における資金調達や投資活動の柔軟性を高めることを目的として始まりました。
通常、投資運用業や第二種金融商品取引業を行うには金融庁への登録が必要であり、その手続きは煩雑ですが、「適格機関投資家特例業務」という仕組みを使えば届出だけで済むようになっています。
具体的な要件として1つ挙げると、ファンドの出資者の中に金融機関や投資法人など専門の機関(適格機関投資家*1)が1名以上必要で、投資家(特例業務投資家*2)の総数も49名以下で構成されることが求められます。
この届出が受理されて初めて、資金集めの活動ができるようになります。そのため、適格機関投資家との関係構築から届出の受理まで、この段階だけでもかなりの時間と労力が必要になるのです。
*1金融商品取引法に基づき、高度な専門知識と豊富な投資経験を持つと認められる投資家を指す。具体的には、銀行、保険会社、証券会社などの金融機関や、一定の要件を満たす法人・個人が該当。
*2適格機関投資家以外で一定の投資判断能力を有すると認められる投資家を指す。具体的には、国や地方公共団体、上場企業、資本金または純資産が5,000万円以上の法人、投資性金融資産が1億円以上の個人などが該当。
アンカーLPの獲得 〜ファンド設立の重要な一歩〜
ファンドを作る上で重要になるのが「アンカーLP」の存在です。
これはファンド全体の20-30%程度を出資してくれる大口投資家のことです。金融機関や事業会社、時には政府系機関がこの役割を担うこともあります。
アンカーLPが決まると、いよいよ「投資事業有限責任組合」という形で、正式にファンドの器を作ることができます。これがイニシャルファンドレイズと呼ばれる段階です。
本格的なファンドレイズ 〜投資家との関係づくり〜
イニシャルファンドレイズを終えると、より多くの投資家に向けた資金募集を始めます。
この段階では資金集めと並行して、実際の投資活動も始まります。通常、イニシャルファンドレイズで確保した資金をもとに、最初の投資案件に取り組んでいきます。
この時期の特徴は、投資実績がない中での資金調達という難しさです。出資を検討する投資家からすれば「結果を出してから来てほしい」という気持ちは当然あるでしょう。そのため、投資戦略の具体性や実行力をいかに説得的に示せるかが重要になります。
また、この頃から組織としての体制も整えていきます。投資案件のリサーチや投資先支援などを担当するキャピタリストを採用したり、ファンドの管理業務を担当する担当者を配置したりします。
ファンドレイズと並行して組織づくりを進めていくのは大変な作業ですが、この過程で築く関係性や体制が、その後の活動基盤となります。そのため、単なる人員の確保ではなく、組織としての価値観やカルチャーの確立も意識して進めていく必要があるのです。
おわりに
VCファンドの立ち上げは、大規模資金調達や厳格な規制対応などの様々な壁が待ち構えています。
特に1号ファンド(最初に立ち上げたファンド)では、実績がない中で出資を検討する投資家の信頼を得ることが大きな挑戦となるでしょう。
しかし、その過程で築かれたチームの結束や投資家との絆は、その後の長期的な成長を支える貴重な資産となります。VCという仕事の醍醐味は、こんなところにもあるのかもしれません。
編集:ファーストライト・キャピタル SaaS Research Team
2024.12.28
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