一覧に戻る

【VIVA VC 第19回】何年前から、何を準備するの?知る人ぞ知るIPOまでの具体的なプロセス

2025.05.11

Podcast

【VIVA VC 第19回】何年前から、何を準備するの?知る人ぞ知るIPOまでの具体的なプロセス

はじめに

IPOは企業にとって大きな節目ですが、そのプロセスは外部からは見えにくく、経験者以外には分かりづらいのが実情です。

今回は、IPOに向けた準備期間を表す「N-3」「N-2」「N-1」「N期」という概念を軸に、それぞれのフェーズで何が起こるのか、何を準備すべきなのかを詳しく解説します。ユーザベースでのIPO経験と、VCとして投資先のIPOを支援する立場の両方からお伝えします。

※この記事はポッドキャスト「VIVA VC」第19回をもとに作成しました。番組では、IPOプロセスについてより詳しく語っています。ぜひお聴きください。

なぜIPOを目指すのか?—すべてはここから始まる [07:28-09:22]

IPO準備の第一歩は、「なぜ上場するのか」という問いに答えを出すことです。上場はあくまで企業成長の「通過点」であり、10年先、20年先のビジョンを描いたうえで判断する必要があります。

私がユーザベースに在籍していた際には、上場準備の初期段階で「なぜIPOを目指すのか」について全社員で議論しました。上場に向けて勤怠管理が厳格になったり、些細な支出にも承認が必要になったりと、スタートアップらしい自由な文化が変わっていくことへの不満や疑問が社内から上がりました。

この時期に創業者とメンバー全員でIPOの意義についてビジョンを共有できるかどうかが、その後の企業文化や成長に大きく影響します。IPOを「お金が入るイベント」と捉えてしまうと、上場後の成長が鈍化する「IPOゴール企業」になってしまいます。あくまでも「その先の成長に向けた通過点」として位置付ける視点が不可欠です。

3年前から始まる準備—N-3期(上場の約3年前) [6:22-12:14]

IPO準備は通常「N-3期」から本格化します。ここで最初に行うべきは「監査法人の選定」です。監査法人は「ショートレビュー」と呼ばれるプロセスを通じて、上場に向けた課題を洗い出し、スケジュールを策定します。これがIPO準備の起点となります。

この段階では、まだ従業員が100名未満というケースも多く、上場に向けた会社のビジョンを全社で共有する重要なタイミングです。

監査法人選定をきっかけに、「なぜIPOを目指すのか」を全社で共有し、理解を促すことが重要です。VCは監査法人の選定において、企業と相性の良い候補を複数紹介し、経験やコスト感などを踏まえて選定を支援します。

体制づくりの1年—N-2期(上場の約2年前) [12:14-18:44]

N-2期は、社内体制の整備が本格化する時期です。社内規定の整備やワークフローの標準化、決算オペレーションの構築など、上場企業に求められる内部統制体制を築き始めます。

この時期に初めて会計監査が実施されることもあり、いわば「決算の予行練習」のようなフェーズです。

課題は大きく2つです。1つは、経験豊富なコーポレート人材の確保。2つ目は、スタートアップ文化からガバナンス重視の体制へと、社員の意識を変えていくことです。この変化を「成長痛」と捉え、上場後の姿を社員と共有することが成功の鍵となります。

また、主幹事証券会社の選定もこのタイミングで行われます。VCは証券会社の特徴を踏まえ、グローバル展開や国内個人投資家への強さなど、企業に合った主幹事選びを支援します。

最終リハーサル—N-1期(上場の約1年前) [18:44-20:11]

N-1期は、「本番前の最終リハーサル期間」です。内部統制や会計体制はほぼ完成しており、それらを安定的に運用しながら、業績目標の達成にも全力を注ぐ必要があります。

現場は予算達成に向けて、非常にタフな期間を過ごすことになります。現場では、いわば「数字しか見えない」状態になることも珍しくありません。

このフェーズでは、体制の運用と業績達成という“両輪”を回しながら、いかにバランスよく運営できるかが問われます。

投資家に伝える力—N期(上場申請期) [20:11-22:29]

上場申請を行うN期では、証券会社の審査(新規上場審査会)を通過し、証券取引所の審査というプロセスを経て、上場承認を目指します。

この段階で最大の壁となるのが「エクイティストーリー」の構築です。投資家向け資料である「成長可能性に関する説明資料」などを用い、3〜5分で企業の強みやリスクを正確に伝えるスキルが求められます。

VCは長期的関係の中で「1言えば10理解してくれる」関係が築けますが、上場投資家は4000社程度ある上場企業の一社として見ているため、情報の簡潔さと説得力が鍵を握ります。このエクイティストーリーは、上場後の株価形成や市場からの信頼にも直結する重要なポイントです。

IPOの「影」の部分—予期せぬ横槍 [22:29-25:47]

上場直前には、内部告発などの予期せぬトラブルが発生することもあります。これらを完全に防ぐのは難しいですが、日頃からオープンな社内コミュニケーションを心がけ、バリューに合致した採用などを通して、企業文化を丁寧に育てることでリスクを最小化できます。

こうしたリスクマネジメントも含め、上場準備は「スタートアップが大人の会社になっていく過程」と言えるでしょう。

通過点としてのIPO—それでも忘れられない思い出 [26:15-27:30]

IPOは通過点であるべきと繰り返してきましたが、それでも企業にとっては特別な出来事です。

私自身、東京証券取引所のビジョンを前に、上場を知らせる電光掲示板を見上げた瞬間、そして鐘を鳴らした瞬間の感動は、今でも忘れられません。

上場には「お祭り」の側面もありますが、それを経て「次の成長」に向かっていけるかどうかが最も大事です。VCとしても、投資先とこの通過点をともに迎えられることに、大きな意味と喜びを感じています。

おわりに

IPO準備は、単なる上場テクニックではなく、企業が社会的責任を担う存在として成熟していくための重要なプロセスです。

N-3期から始まる監査法人選定とビジョン共有、N-2期での体制構築、N-1期での上場前最終リハーサル、そしてN期のエクイティストーリー構築。それぞれのフェーズで乗り越えるべき課題がありますが、これらを一つひとつ乗り越えることで、企業はスタートアップから「上場企業」へと成長していきます。

IPOを通過点と位置づけ、持続的成長を見据えた企業経営が、真の企業価値の実現につながるのです。

※この記事はポッドキャスト「VIVA VC」第19回をもとに作成しました。番組では、IPOプロセスの詳細についてさらに語っています。ぜひお聴きください。

編集:ファーストライト・キャピタル SaaS Research Team
2025.5.12

Top Insights Podcast 【VIVA VC 第19回】何年前から、何を準備するの?知る人ぞ知るIPOまでの具体的なプロセス

Newsletter

ファーストライトから最新のニュース・トレンドをお届けします。