
はじめに
「株価の乱高下」「保護主義」「ブロック経済化」——直近の世界情勢を象徴するキーワードが、私たちの目の前に並びます。
なかでも、トランプ前大統領による関税政策は、世界経済に大きな波紋を投げかけました。こうしたマクロ経済の変化は、スタートアップやベンチャーキャピタル(VC)にどのような影響を及ぼすのでしょうか?
今回は、VCとしてマクロ環境の変化にどう向き合い、スタートアップ企業と共にどう乗り越えるべきかについて考察します。
※この記事はポッドキャスト「VIVA VC」第18回を元に作成しました。番組では、トランプ関税のスタートアップ・VCに与える影響についてさらに詳しく語っています。ぜひお聴きください。
スタートアップ・VC業界とマクロ環境の意外な距離感 [03:38-04:20]
実は、スタートアップの世界は、マクロ経済の変化と「意外と距離がある」と言えます。
その背景には、スタートアップが非上場であることから、株価の変動に日々晒されることがなく、マクロの影響を即座に体感しづらい構造があります。また、特にアーリーステージの企業では、グローバルサプライチェーンの中で活動しているケースが少なく、情報感度も限定的です。
しかし、長期的にはマクロ環境の変化が確実に影響を及ぼします。だからこそ、VCはその変化を分析し、先回りした支援体制を構築する必要があります。
トランプ関税によるスタートアップへの2つの影響経路 [04:40-11:40]
関税政策のようなマクロ経済の変化は、主に次の2つの経路からスタートアップに影響を及ぼします。
顧客サイドからの影響
まず一つ目の経路は、スタートアップの顧客企業側の行動変化です。
自動車や製造業など、グローバルに展開する企業は関税強化の影響を強く受けます。不確実性の高まりから投資が抑制され、スタートアップのサービス導入やSaaSの利用が見送られるケースが見られます。実際に、アメリカではSaaSのプランをダウングレードする企業がありました。
また、デジタル分野に対する報復関税として「デジタルサービス税」の導入が検討される動きもあり、GAFAのようなプラットフォーマーに依存するスタートアップには逆風となり得ます。
資金調達環境の悪化
次に、資金面での影響です。
不確実性が増す局面では、企業の業績悪化や金融資産の価値が下落することで、金融機関のリスク許容度が低下し、融資や出資活動が抑制される傾向があります。大手金融機関をLPとして抱えるVCのファンドレイズにも波及し、資金循環が鈍化します。これはコロナ禍やリーマン・ショック時にも実際に起きた現象です。
VC側はファンドレイズの不確実性から投資ペースを抑えざるを得なくなり、スタートアップは想定したタイミングでの資金調達が困難になる可能性があります。
不確実性に備える4つの点検項目 [13:15-14:53]
このような不確実性の時代に、スタートアップが取るべき行動として、以下の4つの「点検項目」が挙げられます。
1. 顧客リストの点検
自社の顧客の業種や地域属性を見直し、不況の影響を受けやすいセグメントの割合を把握することが重要です。特に外資系企業の日本法人なども含め、アメリカとの関係性が強い企業は注意が必要です。
2. プロダクトの点検
自社プロダクトが「マストハブ」かどうか、顧客の業務フローにどれだけ深く組み込まれているかを確認し、解約リスクを減らすことが求められます。
3. キャッシュの点検
バリュエーションが下がる局面では、想定していた資本政策が成り立たなくなる可能性があります。VC資金に頼らずとも生き残れるキャッシュ水準があるか、財務の健全性を再確認する必要があります。
4. コストの点検
必要以上の人材採用や過剰なマーケティング出費がないか、コスト構造を精査することが不可欠です。どんな状況にあっても自社でコントロールできる状態を保つことが、不確実性の高い時代を生き抜くカギとなります。
マクロ環境をチャンスに変える視点 [15:20-16:55]
不確実性は、同時に「機会」でもあります。
例えば、アメリカへの人材流出が鈍化すれば、優秀な人材を日本のスタートアップに引き寄せる好機となるでしょう。さらに、アジアやヨーロッパとの経済関係を強化し、新たなグローバル展開を構築する契機にもなります。
実際、日本の代表的スタートアップである楽天やDeNA、メルカリ、Sansanなどは、経済的混乱期に生まれ、非連続な成長を遂げてきました。逆境の中にこそ、次の成長を見出すヒントがあるのかもしれません。
AI産業への影響と可能性 [17:59-19:15]
AI分野にもトランプ関税の影響が波及する可能性があります。
懸念点としては、データセンター構築コストの上昇が挙げられます。これにより、これまでのような計算資源を大量に投じる手法の見直しが求められるかもしれません。
一方で、ポジティブな側面もあります。グローバルでの物流が制限される中、国内で生産性を高める必要性が増します。そのため、AIを活用した生産性向上はますます広がるでしょう。特に、少人数での業務遂行を可能にするAIエージェントの普及は、より加速する可能性があります。
おわりに
不確実性の時代こそ、スタートアップにとっての「真価」が問われる局面です。
VCはあくまで裏方であり、スタートアップを支える役割に徹します。スタートアップはこの状況を、自社の強さと持続力を再点検する機会と捉え、資本政策を戦略的に再構築する必要があるかもしれません。
私たちも、投資先企業と共にこの変化に向き合い、リスクを乗り越え、むしろ「チャンス」に変えていけるよう努めてまいります。
※この記事はポッドキャスト「VIVA VC」第18回を元に作成しました。番組では、トランプ関税のスタートアップ・VCに与える影響についてさらに詳しく語っています。ぜひお聴きください。
編集:ファーストライト・キャピタル SaaS Research Team
2025.4.27
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