
はじめに
スタートアップとベンチャーキャピタル(VC)の関係において、避けては通れないのが「エグジット(Exit)」です。エグジットとは、VCが投資先企業の株式を売却し、リターンを得る一連のプロセスのことです。今回は、IPO(新規株式公開)とM&A(企業の合併・買収)という2つの主要なエグジット手法について、それぞれの流れや背景、実際の現場で起こる出来事をリアルにご紹介します。
※この記事はポッドキャスト「VIVA VC」第17回をもとに作成しました。番組では、エグジットについてより詳しく語っています。ぜひお聴きください。
IPOの舞台裏:株の売却とロックアップ[04:44]-[07:13]
IPOは、スタートアップが証券取引所に株式を上場し、一般投資家も株を購入できるようになるプロセスです。IPOに際してVCが保有株式を売却するタイミングは主に2つあります。一つは上場と同時に行う「売出し」、もう一つはロックアップ*1という株式を売却できない期間(通常90日~180日)終了後の市場売却です。
このロックアップ制度は株価を安定させるための仕組みであり、IPOしてすぐに多くの株主が売り出すと株価が下がってしまうことを防ぐための規定です。
また、IPO時には証券会社、スタートアップ、VCが協議し、どれくらいの株を売却するかを最終的に決定します。各VCの思惑が異なり、売却方針が一致しないと調整が難航するケースもあります。
*1ロックアップ:ロックアップには「制度ロックアップ」と「任意ロックアップ」の2種類があります。
制度ロックアップ:証券取引所の規則により定められた拘束期間で、上場に伴って義務的に設けられます。これは全株主に共通で適用される制度であり、株価の安定を図るために定められています。
任意ロックアップ:証券会社と主要株主(VCなど)との間で個別に締結される契約で、制度以上に長い期間や柔軟な条件が設定されることがあります。市場の信頼性を高める目的で導入されることが多いです。
M&Aの舞台裏:交渉とバリュエーション[07:14]-[08:54]
M&Aは、スタートアップが別の企業(多くの場合は大企業)に買収されるプロセスです。M&Aでは、買収額が決まると投資契約や株主間契約に基づいて、各VCや創業者がどれだけのリターンを得られるかが決定されます。
M&Aの背景には、成長が鈍化した企業が大手傘下で成長機会を求める場合や技術やプロダクトだけを売却する場合、大企業側からの買収提案などさまざまな事情があります。日本では長らくIPO一択の文化があり、M&Aはネガティブなイメージ(「うまくいかなかったからM&A」)がありましたが、最近はM&Aへの理解が深まりつつあり、今後はより自然なエグジット手法として受け入れられていくと考えられます。
日本のM&A市場の現在地[09:03]-[10:56]
現在、日本でのスタートアップM&A件数は年間約250件程度。米国の約3,000件と比べるとまだ規模は小さいものの、近年は徐々に増加しています。背景には、スタートアップ同士でM&Aを行う文化が根付き始めたこと、資金力を持つ上場スタートアップが増加したことが挙げられます。
今後は「スタートアップがスタートアップを買う」エコシステムが発展し、日本のM&A市場もより活性化していくと期待されます。
VCに迫るファンド期限という現実[11:08]-[15:13]
IPOまでの期間は、日本では約10年とされています。一方でVCファンドの期間は通常10年であり、ファンドを組成してから10年以内で全ての株式を売却する必要があります。VCは限られた期間内に投資先のエグジットを実現しなければならず、期間内にIPOに間に合わないというプレッシャーがあります。
この課題に対して登場したのが「セカンダリーファンド」です。ファンド期限に間に合わない企業の株式を買い取り、引き継ぐことで、スタートアップの成長を支援する仕組みです。
また、VC同士のセカンダリー取引や、プライベートエクイティファンドによる買収も増えており、業界全体の流動性向上につながっています。
避けて通れない「言い出しにくい会話」[15:14]-[17:55]
エグジットに関して、起業家とVCの間には微妙な心理的距離が生まれることがあります。起業家は「VCはIPOしか望んでいないのでは」と感じ、M&Aの意向を伝えるのをためらうことがあります。
反対にVC側も、ファンドの期限の問題で、売却のタイミングやIPO時期変更について言い出しにくいと感じる場面があります。だからこそ、投資の初期段階からエグジット戦略について率直に話し合い、共通認識を持っておくことが非常に重要です。
おわりに
VCの仕事は投資するだけでなく、適切なタイミングで株式を売却してリターンを確保することも重要な使命です。ファンド期限という制約の中で、どのようなスピードでスタートアップを成長させ、どのようなタイミングで売却するのかオープンに話し合って、起業家とVCとでしっかりコミュニケーションできるかが、成功の鍵となります。日本のスタートアップエコシステムがさらに成熟し、IPOとM&A双方の選択肢が増えることで、より多様で柔軟なエグジット戦略が可能になるでしょう。VCとスタートアップ双方にとって、より大きな成功の可能性を広げることにつながるのです。
※この記事はポッドキャスト「VIVA VC」第17回をもとに作成しました。番組では、スタートアップ支援の実態についてさらに詳しく語っています。ぜひお聴きください。
編集:ファーストライト・キャピタル SaaS Research Team
2025.4.21
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