
はじめに
「AIは人間を超えたのか?SaaSの未来はどうなるのか?」
テクノロジーの急速な進化に対して、期待と不安が入り混じる声が多いのが現状です。特にAIに関しては、医療診断の分野でAIの精度が医師を上回る結果が出るなど、驚くべき進歩を遂げています。
日本では、人口減少という課題が深刻化しており、労働力不足や生産性向上の必要性が叫ばれています。この状況において、AIはどのような役割を果たすのでしょうか。本記事では、SaaSとAIの関係性、そして人口減少社会におけるAIの役割について、VC目線で考察します。
※この記事はポッドキャスト「VIVA VC」第13回をもとに作成しました。番組では、人口減少時代におけるAIの役割についてさらに詳しく語っています。
AIは人間を超えたのか? [01:05-04:03]
AIと人間の能力を比較する研究は数多くありますが、特に興味深いのがペンシルベニア大学ウォートン校の研究です。ここでは、医療診断の精度を「GPT-4単独」「医師単独」「GPT-4を利用する医師」の3パターンで比較しました。
結果は、GPT-4単独の正答率が約90%、人間の医師単独が約60%、GPT-4を活用した医師が約70%でした。
AIは人間の専門家を上回る能力を示す一方で、人間がAIを使いこなそうとすると、むしろAI単独よりも成績が下がるという皮肉な結果になりました。これは、人間がAIを従来の検索エンジンのように使用していることが原因でした。質問を投げかけるだけでなく、症例データを最初に学習させ、適切なプロンプトで引き出していくという使い方をした医師は、より良い結果を得られたそうです。
これは、AIが人間を超えた証拠であると同時に、AIをどう使いこなすかという新たな課題も提示しています。
ITリテラシーの壁とAIエージェントの可能性 [05:10-07:10]
デジタルツールの普及において、日本ではITリテラシーの壁が大きな課題となっています。実際に、デジタルソリューションの導入を希望する地域企業は多いですが、「人材不足」のために活用できていないという調査結果もあります。デジタルツールを使いこなせる人材がいないために、どれだけ優れたソフトウェアを導入しても活用できず、結果として解約に至るケースが少なくありません。
こうした課題を解決する手段として、AIエージェントが注目されています。AIエージェントは、ユーザーの代わりにタスクを実行する「デジタルコンサルタント」や「ITコンサルタント」のように機能し、ITリテラシーが低い企業でもデジタルツールを活用できる可能性を広げます。
従来のSaaSでは、製品を提供してカスタマーサクセスチームがサポートするというモデルが一般的でしたが、AIエージェント時代には、ユーザーがAIの正しい使い方を理解し、質の高いデータを入力できるようサポートすることが、SaaS企業の新たな付加価値になると考えられます。
SaaSとAI:二元論ではなく共存の関係 [07:15-11:04]
「SaaS vs AI」という二元論が語られることがありますが、実際にはこの二つは競合するものではなく、補完関係にあると考えています。AIには大量のデータが必要なため、SaaSが長年蓄積してきたデータをAIの学習資源とすることで、より高度な予測分析や自動化が可能となります。
特に日本では、AI技術の基盤領域では海外企業が先行しているものの、産業特化型のアプリケーションではまだチャンスがあります。SaaSが提供するデータとAIの活用がより密接に結びつき、特定産業向けの高度なAIツールが生まれることが期待されます。
地方発のAI革命の可能性 [13:34-14:57]
AIエージェントの普及は都市部よりも地方から始まる可能性があります。人手不足の影響が地方でより顕著に表れているため、AIによる支援の必要性も高いからです。
世界銀行が行った実験では、ナイジェリアの農村部の学校にAIを導入したところ、わずか6週間で通常2年かかるような学習成果が出たという結果が報告されています。これは、高品質な教育へのアクセスが限られた地域でこそ、AIによる格差是正の効果が大きいことを示しています。
日本の人口減少地域でも同様の効果が期待できます。将来的には、都心部よりも地域の現場の職人さんたちが、AIエージェントを最も効果的に活用している—という光景が見られるかもしれません。
注目のAIスタートアップ事例 [15:07-17:17]
AIと産業の融合が進む中、海外では様々なスタートアップが登場しています。
Trunk Tools
建設業向けのスタートアップで、建築現場で必要な図面やプロジェクト資料などを、現場監督の簡単な指示だけで瞬時に検索・整理するシステムを提供しています。
UVeye
トヨタ系VCから資金調達したイスラエルのスタートアップで、AIとコンピュータービジョンを活用して自動車を自動スキャンし、ガソリンスタンドの自動洗車機のような装置を車が通過するだけで、タイヤの摩耗状態や車体の損傷などを瞬時に検出できます。
Abridge
医療現場向けのスタートアップで、医師と患者の会話を自動的に文字起こしし、電子カルテを作成するサービスを提供しています。医師の業務負担を大幅に軽減しながら、診療記録の質を向上させることが可能です。
これらの事例は、AIが単に既存の業務を自動化するだけでなく、各産業の専門家の能力を拡張し、新たな価値を創造していることを示しています。
人間に残された役割とは [18:54-19:52]
AIの進化に伴い、「人間は何をすべきなのか?」という問いがますます重要になっています。
私は、人間に残された最も重要な役割は「目的を与えること」だと思います。AIはデータを処理し、最適解を提示することはできますが、「何をしたいのか」、「何を実現したいのか」を定義するのは、現状では人間にしかできません。
AIは目的達成をサポートするパートナーであり、目的そのものを創造することはできないのです。起業家や事業家は、ユーザーの課題を深く理解し、明確な目的意識を持って解決策を提示することが、これまで以上に重要になると思います。
AIが手段を提供する時代だからこそ、「何のために」という問いが事業の成否を分ける大きな要因となるでしょう。
おわりに
AIエージェントは、人口減少時代の日本において、人手不足や生産性向上の課題を解決する重要なツールとなる可能性を秘めています。特にITリテラシーの壁を超えることで、デジタル化が進みにくかった地域や産業にもテクノロジーの恩恵が届くようになるでしょう。
私たち人間は、AIを「道具」として活用し、どのような社会を作りたいのかを明確に定義することが求められています。日本がAIエージェント活用の最前線に立ち、世界に先駆けたソリューションを生み出せるよう、VCとしても積極的に支援していきたいと考えています。
※この記事はポッドキャスト「VIVA VC」第13回をもとに作成しました。番組では、人口減少時代のAIの役割についてさらに詳しく語っています。ぜひお聴きください。
編集:ファーストライト・キャピタル SaaS Research Team
2025.3.24
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