「ベンチャーキャピタル(VC)」
一般的なビジネス用語としても定着しつつあるこの言葉。
ニュースやSNS上では「〇〇社がVCから××億円を調達」といった見出しで目にすることも増えました。
でも、実はそのVCで働く人々が具体的に何をしているのか、どうやってビジネスが成り立っているのか、詳しく知る機会は少ないのではないでしょうか。
申し遅れましたが、私はファーストライト・キャピタルというVCで代表を務める岩澤と申します。
証券アナリストとしてキャリアをスタートし、その後、ユーザベースというスタートアップで事業開発や海外展開を経験。2018年にファーストライト・キャピタル(旧UB Ventures)というVCを立ち上げ、現在に至ります。
私が初めてこの仕事に触れたのは、インターンとして関わった2004年のことでした。
当時と比べると、VCという言葉自体は広く知られるようになりましたが、その実態については、「分かっているようで分からない」職業のベスト10に入るのではないでしょうか。
今回は、そんなVCの仕事の実態について、私の経験を交えながらお話ししたいと思います。
※この記事は、ポッドキャスト「VIVA VC」の第1回を元に作成しています。番組では、VCの仕事についてより詳しくお話ししています。ぜひご視聴ください。
VCの基本的な仕組み:意外と知られていない3つのポイント
1. 実は私たちは「運用者」:LPとGPの関係
多くの方は、私たちVCが直接スタートアップに投資していると思われているかもしれません。しかし、実はそうではありません。
私たちVCは、投資事業有限責任組合という「ファンド」を作り、そこに投資家からお金を集めます。
この投資家のことをLP(Limited Partner:有限責任組合員)と呼び、主に銀行や事業会社などが資金の出し手となります。例えば100億円のファンドであれば、LPが1口1億円などの単位で出資する形です。
一方、私たちVCはGP(General Partner:無限責任組合員)と呼ばれ、このファンドの運用者として投資の判断や管理を行います。 実際の投資は、このファンドから行われるため、スタートアップが投資契約書を見ると「出資を行ったVC会社の名前ではなく、長い名前の組合が書いてある」と戸惑われるかも知れません。
2. VCの2つの収入源:管理報酬と成功報酬
私たちVCの収入は主に2つあります。
まず「管理報酬」として、ファンド総額の2%の金額をいただきます。
100億円のファンドであれば年間2億円で、これでオフィス賃料運営や人件費などを賄います。
もう一つが投資が成功したときの「成功報酬」。
例えば1000万円で投資した株式が1億円になった場合、その差額9,000万円の20%、つまり1,800万円が私たちの収入となります。
この2%の管理報酬と20%の成功報酬は「2 – 20(トゥー・トゥエンティ)」ルールと呼ばれ、世界的なスタンダードになっています。
ただし、管理報酬は10年間固定されるため、収入を増やすには新しいファンドを作るか、ファンド規模を大きくする必要があります。
そう簡単には収入は増えないのが実情です。
3. GPを行うのは覚悟が必要:GPコミットメントの自己投資義務
実は、私たち GPには、ファンド総額の1%を自己資金から出資する義務があります。
100億円のファンドなら1億円です。しかも、投資案件が出るたびにキャピタルコール*が発生するので、自分の口座から追加の資金を入れていく必要があり、まさに「自転車操業」的な状況が生まれます。
*キャピタルコール
ファンドにおいて、LPが、出資する投資口数の金額を一括で支払うのではなく、GPの要請に応じて事前に通知された期間内に、契約上定められた金額を拠出していく方式。
スタートアップとの関係:教師と生徒のような関係
私たちの仕事は、意外にも学校の先生に似ている面があるかもしれません。投資先のステージによって、関係性が変わっていきます。
語弊を恐れずいうと、シードステージの企業は小学生のよう。アイデアが豊富で活発、まだアイデンティティが定まっていない状況です。
アーリーステージはまさに成長期、中学生のような反抗期もあります。「もう分かってるよ」という態度を取られることもありますが、それも成長の証だと思っています。
ミドル、レイターと進むにつれて、目指すべき方向性やアイデンティティが明確になり大学生、社会人のように成熟していきます。
私たちの役割は、各ステージで適切な支援や助言を行い、スタートアップが自立し飛躍するための土台を整えることともいえます。
VCをやめられない理由:2つのやりがい
ベンチャーキャピタルという仕事をしていると、確かに大変なことは多いですが、二つの大きな喜びがあります。
一つ目は、新しい産業や技術の誕生に立ち会えること。
私たちファーストライトでは「人口減少社会におけるイノベーション創出」をテーマに投資をしていますが、日本の未来を切り開く可能性のある技術や事業に日々出会えることは、何物にも代えがたい経験です。
二つ目は、スタートアップの成長を間近で支援できること。
つい先日、3年前に投資した企業の経営者から「当時は岩澤さんが一番怖かった」と言われました。重要な顧客から解約の通知が来た際、「今すぐ謝罪に行くべき」と厳しく指摘したそうです。
しかし、その後、解約率が下がり、会社の成長につながったこと知り、非常に嬉しく感じました。
おわりに:VCという仕事の本質
「先生」のような立場で、時には厳しく、時には優しく寄り添っていく。
その過程で投資先が成長し、私たちVC自身も成長を続ける。VCとは、そんな仕事だと私は考えています。
確かに苦労も多い仕事です。でも、新しい価値の創造に関われる喜び、そして何より、投資先の成長を間近で見られる喜びがある。だからこそ、私はこの仕事を「やめられない」のだと思います。
編集:ファーストライト・キャピタル SaaS Research Team
2024.12.21
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