一覧に戻る

【VIVA VC シーズン2 第2回】創業3年で評価額1.4兆円。AIエディタ「Cursor」が異常な成長を遂げた理由

2025.07.30

Podcast

【VIVA VC シーズン2 第2回】創業3年で評価額1.4兆円。AIエディタ「Cursor」が異常な成長を遂げた理由

はじめに

わずか創業3年で企業価値約1.4兆円――MIT出身の20代4名が立ち上げたAnysphere社のAIプログラミングツール「Cursor」は、いま世界中の開発現場に衝撃を与えています。驚異的な成長の舞台裏と、AIエージェント時代の到来が日本のスタートアップ・VC業界に示す示唆を整理しました。Cursorがもたらす変革の本質を一緒に紐解いていきましょう。

※この記事はポッドキャスト「VIVA VC」シーズン2第2回をもとに作成しました。番組ではCursorの登場がもたらす示唆についてさらに深掘りしています。ぜひお聴きください。

AI業界の新たな主役が誕生 [00:00-03:13]

Anysphereを創業したのは、全員30歳未満の4名――Michael Truell(マイケル・トルエル)、Aman Sanger(アマン・サンガー)、Sualeh Asif(スアレ・アシフ)、Arvid Lunnemark(アルヴィド・ルネマルク)――は「天才集団」といわれる経歴を持っています。トルエル氏とサンガー氏が高校時代に世界的なプログラミングゲームを共同開発した実績や、数学オリンピック代表者がチームにいる事実は、投資家の注目を集める強力な要因となりました。

著名ベンチャーキャピタリストAndreessen Horowitzは出資前にGPUを提供するという異例の対応を取り、ピッチと朝食のわずか2回の面談で投資を決定。「ビル・ゲイツ、ラリー・ペイジ、マーク・ザッカーバーグに匹敵する」とまで評価する投資家も登場しています。結果として、Anysphereは「OpenAIを超えてシリコンバレーで最もホットなAI企業」と称され、他社が「○○業界のCursor」と自社を紹介するほど、圧倒的な認知度・ブランド力を築きました。

Cursorが提唱する「vibe coding(バイブコーディング)」は、自然言語による対話でコード生成・修正ができる全く新しい開発体験です。VS Codeとの高い互換性、面倒なCSS生成やバグ修正提案などの自動化、チャット感覚のコード編集指示――これらが口コミを通じて広がり、マーケティング費用ゼロでシェアを伸ばし続けています。

【VIVA VC シーズン2 第2回】創業3年で評価額1.4兆円。AIエディタ「Cursor」が異常な成長を遂げた理由

史上最速の成長速度に注目 [03:14-09:42]

2025年6月時点でARR(年間経常収益)は「5億ドル」。わずか2か月前の3月に2億ドルだったARRが2.5倍となり、その成長スピードはソフトウェアスタートアップの常識を完全に凌駕しています。累計調達額は9億ドル(約1300億円)、企業価値は約99億ドル(約1.4兆円)に到達。さらにNRR*は250%(2024年3月参加顧客)と、既存顧客が利用を拡大している事実が数字に表れています。

急成長の鍵は、個人開発者向けからエンタープライズ向けへ急速に浸透していったことです。Uber、AWS、Snowflake、日本ではカカクコムなど名だたる企業が全社導入し、現在は3万社超の法人顧客を抱えます。

*NRR(Net Revenue Retention):既存顧客の一定期間における売上がどの程度変化したかを図る指標。100%を超えると顧客が利用を拡大していることを示します。

大手AI企業との競争激化 [09:43-13:31]

Anysphereの躍進は、OpenAI・Microsoft・Anthropicといった巨人の警戒対象となりました。OpenAIはCursor競合のWindsurfを30億ドルでの買収を検討したと報じられ、Anthropicは「Claude Code」、Microsoftは「GitHub Copilot無料版」を矢継ぎ早に投入。対するCursorは数千規模のGPUを確保し、独自LLM開発を進めています。今後はOpenAIなど基盤モデルプレイヤーとの戦いが注目されるポイントです。

プログラミングの民主化が始まる [13:32-20:37]

Cursorの最大のインパクトは、プログラミングのハードルを劇的に下げる「プログラミングの民主化」です。技術力の高くないエンジニアでも高度なシステムを構築でき、個人開発者が大型チームに匹敵する成果を出せる未来が現実味を帯びてきました。

これにより、

  • エンジニア生産性が飛躍的に向上し、ソフトウェアの”過剰供給”が進み、ソフトウェアの価格競争が激化し、付加価値の低いサービスは淘汰される
  • 少人数で大規模サービスを運営するスタートアップが増える


といった構造変化が予想されます。組織論や経営の前提が根本から揺らぎ、「資金調達額が大きい企業が有利」という旧来の常識が崩れる可能性があります。

日本市場での大きな機会 [20:38-22:45]

日本でも、Cursor型のツールは人口減少による「エンジニア不足」を解決する切り札となり得ます。大規模システム案件をスタートアップが受注できるようになれば、既存大手SIerとの競争が本格化。「少人数×AI」で高付加価値を創出できる企業が台頭するでしょう。

日本発のAIスタートアップがCursorを活用・内製化することで、新たな産業構造が芽生える可能性も見逃せません。

Anysphereが示す3つの重要なポイント [22:46-24:04]

  1. スタートアップ成長の新常識 創業3年で1.4兆円評価というスピード感は、これまでの「時間をかけて着実に成長」という常識を覆しました。AI時代のスタートアップは、従来の何倍ものスピードで成長する可能性を示しています。
  2. AIエージェントによる働き方改革 少人数でも大きな成果を出せる時代が到来し、人手不足解消のカギとなります。プログラミングが「専門家だけのもの」から「誰でもできるもの」に変化することで、人手不足の日本にとって大きなチャンスとなるでしょう。
  3. 競争力の再定義 技術力だけではなく「ユーザー体験」が勝敗を決める時代へ。基盤モデルとアプリケーションの戦いがさらに激化します。大企業vs.スタートアップの構図において、スタートアップが勝つケースが増加しており、OpenAIやClaudeなどの基盤モデル(LLM)vs Cursorのようなアプリケーションの戦いも注目されます。

おわりに

Anysphereの成功は「少人数でAIを活用し、短期間で巨額の企業価値を生み出す」というAIエージェント時代の新しいビジネスモデルを象徴しています。特に人手不足に悩む日本にとって、AIは問題解決の切り札となる可能性が高く、私たちVCとしても、このような技術革新を活用するスタートアップへの投資機会を積極的に探っていきたいと考えています。変化のスピードが加速する今こそ、「追いつけ追い越せ」の精神でこの潮流に乗ることが重要です。まずは「Cursor」を試し、AIと共同作業する未来を体感してみてはいかがでしょうか。

※この記事はポッドキャスト「VIVA VC」シーズン2第2回をもとに作成しました。番組ではCursorの登場がもたらす示唆についてさらに深掘りしています。ぜひお聴きください。

編集:ファーストライト・キャピタル SaaS Research Team
2025.7.30

Top Insights Podcast 【VIVA VC シーズン2 第2回】創業3年で評価額1.4兆円。AIエディタ「Cursor」が異常な成長を遂げた理由

Newsletter

ファーストライトから最新のニュース・トレンドをお届けします。