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2026年 7つの注目トレンド キャピタリスト・アナリストが徹底予測

2026.01.14

産業分析

2026年 7つの注目トレンド キャピタリスト・アナリストが徹底予測

生成AIが単なる実験ツールの域を脱し、企業の業務プロセスや意思決定に本格的に組み込まれ始め、AIエージェントやフィジカルAIといった新たな潮流も現実味を帯びてきた2025年。日本国内では、東京証券取引所によるグロース市場の上場維持基準見直しや、高市政権のもとで設置された新たな経済政策の司令塔「日本成長戦略会議」をはじめ、スタートアップ業界やベンチャーキャピタルにとっても、投資環境や成長戦略を見直す重要な局面を迎えた一年となった。

こうした環境変化のなかで、キャピタリストたちは2026年にどの領域で変化が起こり、どこに成長機会が生まれると見ているのか──
本記事では、ベンチャーキャピタリスト・チーフアナリストの視点から、2026年の注目トレンドを読み解いていく。


BPOを置き換えるAIが勝つ─2026年、エンタープライズAI革命の起点

岩澤 脩 / 代表取締役 マネージング・パートナー

2025年12月の「人工知能基本計画」閣議決定を受け、日本企業での生成AI導入が加速する。しかし、先行する米国では企業の生成AI活用の約95%が測定可能な事業インパクトを創出できておらず、日本でも同様の格差が生じる可能性が高い。要因は、セキュリティ懸念による学習制限での利便性低下と、投資対効果の結果が出ていないことにある。

この状況は、投資対効果が可視化できる領域から普及した2010年代前半のSaaS導入初期と構造的に類似している。当時、CRMやERPはミドル・バックオフィス領域のBPOリプレイスから普及した。AI時代も同様に、BPOリプレイスを起点に市場が立ち上がると予測される。

特に人手不足を背景に、以下三領域が先行すると予想する。

  • AIネイティブ・カスタマーオペレーション(コンタクトセンターBPOのリプレイス)
  • AIネイティブ・ファイナンスオペレーション(会計・経理BPOのリプレイス)
  • AIネイティブITサービス管理(社内IT部門業務のBPOリプレイス)

これらは「成果が明確で、業務範囲が切り出しやすく、人月コストが可視化されている」というBPO特性を持つ。言語・商習慣の壁により国内プレイヤーにも優位性があり、AIシフト本格化に伴い、従来型BPOを代替するAIネイティブソフトウェア産業が立ち上がり、エンタープライズソフトウェアの業界地図が10年ぶりに塗り替えられる可能性を秘めている。

現場知能の垂直統合によるフィジカルAI・バーティカルAIの実装加速 / 自律型研究システムによる科学発見の高速化

頼 嘉満 / マネージング・パートナー

フィジカルAI:「デモの熱狂」から「現場のROI」へ
2026年、AIの主戦場はデジタル空間から物理世界へと移る。ヒューマノイドのデモ評価は終わり、稼働率とROIが問われる実装段階に入る。VLMやWorld Modelが進化しても、現場差や暗黙知を制御できなければ価値は生まれない。エッジAIやSim2Realを通じて現場知能を実装できる企業に機会がある。人口減少下の日本は、ROIを証明しやすい市場となる。
もっと詳しく読む:ロボットはもう「踊らない」、勝負は実装のフェーズへ

②特化型スモールモデルが牽引する日本型バーティカルAI
生成AIは検証段階を越え、2026年は産業実装が本格化する。汎用モデルの高コストや不安定性を背景に、業務特化型スモールモデルの導入が加速する。日本の強みは医療・製造などに蓄積された秘匿性の高い産業データにある。独自商習慣や暗黙知を垂直統合型AIとして知能化できるかが競争力を左右する。

③AI for Science:自律型研究システムによる科学発見の高速化
2026年は、AI for Scienceが研究支援から研究自律化へ進む転換点となる。仮説生成から実験、データ回収までをAIが担うクローズドループが定着し、R&Dは大幅に高速化する。研究者人口が減少する日本において、実験とデジタルを統合し探索効率を高めるスタートアップに大きな機会が生まれる。

2026年は歴史的なスタートアップビンテージにしなければいけない

早船 明夫 / チーフアナリスト

2026年の注目テーマを2つあげたい。

第一に、IPO環境の変化が生む“ヴィンテージ・シフト”だ。2025年に議論を呼んだグロース市場の時価総額100億円基準は、スモールIPOを許容してきたインセンティブ構造を大きく変えるものとなった。従来、とりわけSaaSでは中堅中小企業向けの比較的ライトな市場でも上場が視野に入ったが、今後はその市場規模では必要十分な企業価値を作りにくい。エンタープライズ、重厚長大型産業、さらにはグローバル市場といったより広大で難易度の高い領域へ挑戦を引き上げていく必要がある。国内政策、VC投資金額、求められるリターンの整合性を考えても、より大きな成功がなければエコシステムは成熟しないだろう。既にその兆しは一部では生じており、海外売上比率を高める日本発のスタートアップも出始めている。10年後に振り返れば「2026年からスタートアップのモードが変わった年」となることを目指していきたい。

第二に、AIの注目はモデル改良・半導体能力・電力供給といったコンピュート偏重から、「データの再創生」といった議論が加速すると考えられる。インターネット上の公開データが学習され「データ枯渇元年」と呼ばれる状況にあるなかで、性能向上を支えるのはリアル空間データ、企業内部のクローズドデータ、未整備データを収集・加工・統合して“学習可能”にし、さらにエージェント/ソフトウェアとして業務に埋め込む能力になる。日本企業、社会にはこのまだ見ぬポテンシャルデータがあり、この領域にかけるスタートアップの誕生に期待をしたい。

運用の再設計が競争力を分けるAI時代(コンプライアンス・オペレーション・文化・エンタメ)

麻生 要一  / ベンチャー・パートナー

① AIコンプライアンス/モデル監査(AI時代の「守りのSaaS」)
2026年、AIは業務の中核に入り、競争軸は性能から責任へ移る。誰が作り、何を学習し、どう判断したかを説明できないAIは使われない。ログ、評価、権利、モデル変更管理を分断した運用は限界を迎え、監査に耐えるAI運用を一気通貫で提供できる企業が強い。守りはコストではなく、導入を加速させる基盤となる。

② シン・実業×AIオペOS(労働集約を「運用密度」で変える)
2026年、飲食・介護・物流などの現場は、ロボ化以前にオペレーション統一で変わる。手順・教育・配置・品質をAI前提のオペOSに落とすことで、属人性が吸収され、採用と育成の再現性が高まる。承継市場に出る旧来型事業にAIオペOSを差し込み、PMIとロールアップで価値を引き上げる投資だ。

③ カルチャープレナー(文化を「体験→IP→運用」に再設計)
日本の価値は場所から文化の編集力へ移る。体験を言語化し、IP化し、海外でも再現可能な運用に落とせるかが鍵だ。職人芸のままでは拡張しない。予約、導線、接客、物販、コミュニティまで含めて文化をプロダクト化できる企業が、世界に通用する。

④ AI時代のエンタメ(制作ではなく「熱狂の設計」)
生成AIで制作は民主化され、勝負は熱狂をどう回すかに移る。オンラインは飽和し、リアルと結びつく体験設計が重要になる。二次創作を前提に権利を設計し、共作と循環を生む構造を作れるか。エンタメのOSは制作ではなく、権利とコミュニティ運用へ移行する。

AIエージェントが拡張する、業務特化型SaaSの価値創造

大鹿 琢也 / プリンシパル

2024〜2025年にかけて、AIのビジネス現場への浸透は急速に進んだが、その活用は依然として「対話支援」や「情報生成」といった限定的な用途に留まっている。期待が高まるAIエージェントも、業務を自律的に完遂する形での実装は一般的とは言い難い。背景には、エージェントが外部データベースやSaaS、基幹システムと連携しながら判断・実行を行う必要があるという技術的・構造的な難しさがある。業務は単純な作業の集合体でありながら、それらが複雑に連なって成立しており、全体を代替するには高度な設計が求められる。小規模な作業を代替するエージェントは実装しやすい一方、インパクトは限定的で、業務全体を任せられるエージェントの実現には依然高いハードルが存在する。

一方で、特定業務に深くロックインしているSaaSにとって、AIエージェントは明確な勝機となる。業務データとユーザーのアクションが同一環境に蓄積されているため、外部連携に依存せず自律的な判断・実行が可能になりやすい。特に営業やカスタマーサポートなど顧客接点領域では、エージェント活用による生産性向上の余地は大きい。
2026年は、生成AIからエージェント時代への過渡期として、いかに業務の深部までエージェントを入り込ませられるかが問われる年となる。その前提として、既に業務をロックインしているSaaSは大きな優位性を持つ。単なる生産性改善に留まらず、ビジネスプロセスそのものを実行し、圧倒的な価値創出を実現するスタートアップが、次の潮流を捉えていくことになるだろう。

官民間の情報非対称性解消がもたらす行政テックの転換点

真島 里帆 / プリンシパル

2025年11月、高市政権による「日本成長戦略本部」の設置は、日本の官民連携市場における転換点となった。AI・半導体から造船、量子技術まで、戦略分野ごとの「官民投資ロードマップ」策定が始動し、1999年のPFI法制定以来の官民連携加速が、政策レベルで明確化された。

官民連携ニーズの拡大は、政策的な追い風だけでなく構造的な必然性に基づく。行政側は人材不足、財政制約に直面する一方、社会課題は複雑化・多様化しており、行政単体での解決の難易度は増している。一方、民間企業が官民連携に取り組む上での大きな障壁の一つが「情報の非対称性」だ。国・中央省庁から自治体まで、政策形成から予算編成、条例審議に至る行政情報は各機関に分散し、そのアクセス困難さが連携機会の損失と調達プロセスの不透明性を生んでいる。

このような背景のもと、日本でも行政テック市場が立ち上がり、市民接点DX、行政業務DX、公共営業DXの3領域でスタートアップの台頭が加速している。特に注目すべきは、官民連携促進を担う公共営業DX領域だ。本領域では、政策形成や予算編成から入札に至る一連の行政プロセスの可視化が求められているが、生成AIを活用した行政情報の統合により、官民間の情報非対称性を解消する基盤を構築できる可能性が開けている。市場原理だけでは最適化されない社会インフラ領域において、このようなスタートアップが官民連携の摩擦を減らすインフラとなり得る環境が整いつつある中、2026年は行政テック市場における重要な転換点となるだろう。

事業存続を左右するサイバーセキュリティ。現場解像度を持つスタートアップの勝機

鈴木 絢理 / アソシエイト

2025年もサイバー被害に関する報道は後を絶たず、その影響は情報漏洩に留まらず、事業停止に直結する経営問題へと深刻化している。セキュリティはもはやIT部門の管理コストではなく、売上の損失や事業存続を左右する経営の重要アジェンダとなった。政府による経済安全保障推進法や能動的サイバー防御の議論も相まって、市場にはかつてない「強制力」を持った需要が生まれている。

しかし、日本市場には海外とは異なる深い構造的「歪み」が存在している。ユーザー企業におけるセキュリティ専任人材の欠如は、高度な機能を持つ海外製品の運用を困難にし、結果としてSIerへの過度な依存を招いている。

このギャップの中にこそ、最大の勝機がある。日本市場に求められているのは単なる「防御性能」ではなく、日本特有の商習慣や業務フローに深く入り込み、人材不足という構造的な弱点を技術やビジネスモデルで補完できるソリューションだ。またOTセキュリティ分野においては、ネットワーク接続の可否やレガシー環境といった現場固有の制約を理解した実装力が不可欠となる。既存環境を踏まえたセキュリティ強化を実現するアプローチが求められている中で、外資製品とは異なる解像度で顧客課題に入り込み、国内のサイバーセキュリティ産業を牽引するスタートアップに期待を寄せている。

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