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産業革命として捉えるべき「AIエージェント時代」の到来

2025.03.12

産業分析

産業革命として捉えるべき「AIエージェント時代」の到来

AIエージェントは、単なるトレンドではなく産業革命インパクトをもたらす ———。

日進月歩のAI領域において、「AIエージェント」の将来性に大きな注目が集まり、今、米国では最もホットなスタートアップ投資領域となっている。

AIスタートアップ投資


生成AIがユーザーの指示に対して回答を生成するのに対し、自律性を備えたAIエージェントは、必要に応じて複数のソフトウェアやサービスを連携し、タスクを完結させる。

米国のDecagonのように顧客とのやり取りを学習し、返金対応や日程調整を自動で行うサービスも既に登場している。(創業2年で企業価値が1,000億円弱に到達)

歴史を振り返れば、蒸気機関、電気/内燃機関、そしてインターネットが社会・産業構造を根本的に変えてきた。

同様に、近い将来AIエージェントもまた新しい変革、つまり、“第四次産業革命”を起こす可能性が高いと考えられる。

本稿では、歴史から見えてくるパターンとAIエージェントによる変革の可能性を概観しつつ、日本のスタートアップにとっての機会とリスクをお伝えしていく。

産業革命は民主化をもたらしてきた

歴史的には、これまでに3回の大きな産業革命があった。

1. 第一次産業革命(18世紀後半〜19世紀初頭)

AIエージェント時代の到来

蒸気機関の発明により「物」と「思想」が民主化。大量生産により一般庶民にも服をはじめとする「物」が普及し、印刷技術の進歩で知識・思想の流通が進んだ。

  • 英国を中心とする工場制生産の確立。繊維・鉄鋼業の発展
  • 蒸気機関車に登場による物流スピードの向上
  • 蒸気駆動の高速印刷機の普及による出版物の大量生産

2. 第二次産業革命(19世紀後半〜20世紀初頭)

AIエージェント時代の到来

電気と内燃機関の実用化により「移動」と「労働」が民主化。自動車・船舶の登場で移動が身近になり、近代化した重工業企業の大規模化とともに組織経営が台頭した。

  • 内燃機関の活用による自動車・船舶の進化
  • 企業の大規模化とグローバル化による近代的経営手法の確立
  • 大量生産方式確立による「工場労働者」の大量雇用

3. 第三次産業革命(20世紀後半〜)

AIエージェント時代の到来

インターネットの普及により「情報」と「起業」が民主化。半導体の進化によりPC・スマートフォンが普及しモバイル化・省力化が進展。インターネットの登場により情報へのアクセシビリティが向上し、クラウドサービスの活用により低コストで誰でも事業を開始できるようになった。

  • 半導体の進化によるPC・スマホ普及とモバイル化・省力化
  • インターネットの登場による情報へのアクセシビリティ向上
  • EコマースやSaaS・PaaSによる起業の低コスト化

これらはいずれも「テクノロジー進化による恩恵が大衆に行き渡る=民主化される」現象を伴ってきた。

たとえば蒸気機関による大量生産は衣料品などの流通を促進し、読書の機会を庶民にまで広げたのは印刷技術の発達だった。自動車は移動の自由を促進し、インターネットは情報アクセスと企業活動の制約を解放した。

そして“第四次産業革命”を象徴するとみられるAIエージェントは、「知識」と「時間」の民主化をもたらすと考えられる。

LLMを活用することで誰でも簡単に大量の専門知識を短期間で習得できるようになったことに加え、AIエージェントを活用することで、一人で複数のタスクを同時並行で処理できるようになれば、個人がこなせる業務量の上限は飛躍的に拡大する可能性がある。

産業革命の歴史と社会・産業変化

バブルと淘汰は不可避か?歴史に学ぶ投資の過熱

新技術が登場すると、成長期待から投資が集中し、やがて過剰供給や価格競争が起き、バブル崩壊が引き金となって大規模な淘汰が進むのは歴史的に繰り返されてきたパターンである。

  • 第一次産業革命:鉄道ブームで投資が一気に拡大し、鉄道バブル崩壊を引き起こす
  • 第二次産業革命:フォード式大量生産が進行しあらゆる製品の大量生産が実現、過剰供給により大恐慌(1929)を引き起こす
  • 第三次産業革命:ドットコムバブルとその後の崩壊を引き起こす

新技術への期待が急激に高まるほど、資金と人材が一気に流入し、過剰供給に陥ると一度バブルがはじけるのが常だ。

今まさに生成AI・AIエージェント周辺でも、世界的に巨額の投資が集まり始めている。この動きそのものは決して否定的に捉えるべきではなく、新技術の進化を加速する「アクセル」の役割を果たしうる。

しかし、過去の歴史から学ぶならば「過剰投資→過剰供給→価格競争→大量淘汰」の流れが起こり、過熱が急に収束して多数の企業が淘汰されるシナリオは十分に考えられる。

特に、AIを活用したソフトウェア開発(DevOps)の効率化により、開発コストが大幅に下がった結果、SaaS市場全体の価格破壊が起こる可能性がある。

単なる業務効率化のみの価値を提供するSaaSは、瞬く間にコモディティ化するだろう。AIエージェントの普及が本格化する時期においては、以下のような産業変化が顕在化するとみられる。

AIエージェント普及後のSaaS
  1. ソフトウェアの過剰供給による価格競争
    AIエージェント活用によりソフトウェアが大量生産されると、多くのSaaSが世に溢れ、価格競争に陥る可能性がある。
  2. 業務効率化機能のみのSaaS淘汰
    業務効率化の付加価値はAIエージェントに代替される可能性が高い。データを活用したユニークな価値が見出せないSaaSは淘汰される。
  3. 大企業向けSIerを狙うスタートアップの登場
    長年、大手SIerが占有してきた大企業向けカスタムニーズは、AIエージェントを活用したスタートアップにもチャンスが広がる。
  4. 産業特化データの獲得が成否をわける
    固有データモデル=産業特化データの有用性が再認識されバーティカルSaaSに注目が集まる。
  5. AIを中心とした少人数オペレーションへの転換
    人員数に連動した成長から、AIの活用による省人化が進展。SaaS企業の理想的な組織体制がよりスリムになる。

また、SaaS企業はAIを中心とした業務設計を行いその上で「Human in the Loop(人に何を任せるのか?)」の設計思想を問われることになる。

大きなパラダイムシフトが予想されるが、過去を振り返るとドットコムバブル崩壊後にAmazonやGoogle、Salesforceが勝ち残り市場を変えたように、今回の競争でも勝者となる企業が次の20年の産業を担うだろう。

日本でのAIエージェント活用の肝は「リアル産業」にある

日本に目を向けると、人口減少による労働力不足が深刻な社会問題となり、今後20年で約25%の労働力が失われると試算されている。一方、多くの企業はDXによる効率化の必要性を認識しているにもかかわらず、IT・DX専門人材の不足ゆえに実行が遅れている。

中小機構が、2024年に実施したアンケート(中小企業の DX 推進に関する調査 2024年)では、DXに取り組んでいる中小企業の割合は18.5%、取り組みを検討しているが着手できていない企業は50.6%にも達する。

AIエージェントの活用は、専門的なIT知識を持たない企業であっても比較的簡易にシステムを導入・運用できるため、このギャップを埋める手立てとして期待が高い。
言い換えると、顧客のデジタルリテラシー格差により市場開拓に苦戦を強いられていた「国内バーティカルSaaS企業」にとってはここぞとない好機ともいえる。

バーティカルSaaSが、建設、医療、製造業など特定産業領域で蓄積してきたリアルデータとノウハウは、AIエージェントと組み合わせることで飛躍的な価値を生む可能性がある。

しかも日本市場には独自の商習慣や法規制があり、海外プレイヤーの参入ハードルが高い分野も少なくない。むしろ、日本の各産業のプロフェッショナル達に蓄積された業務フローや知見は、海外へ輸出可能なポテンシャルをも秘めている。

第二次産業革命において、内燃機関を発明したダイムラーが決して一人勝ちを収めたわけではなく、トヨタやホンダがユーザーニーズに合った車づくりで世界的メーカーに成長した事例には学びがある。

大規模AIモデル(LLM)で先行する米国企業が全てを独占するとは限らず、日本のスタートアップにも“狭く深い”バーティカル戦略で十分に勝ち筋は存在すると考えられる。

AIエージェントの爆発的普及はどの業界から始まるか

AIによる産業革命はどの業界から進んでいくのか。

歴史を紐解くと、見えてくるパターンがある。第一次産業革命なら繊維工業、第二次産業革命なら自動車産業など、ある特定の業界が牽引役となり、新技術が他産業へ波及していった。

AIによる変革もすべての業界が一斉に変わるわけではなく、既にLLMで大容量の学習データを獲得している大量のテキストや音声データを抱える業界から変革が始まると考えられる。具体的には下記3領域が挙げられる。

1. コールセンター:膨大な顧客対話データの分析・自動化
2. 営業:商談内容のリアルタイム分析による最適提案・フォローアップ
3. 法務:契約書などテキスト中心の文書処理・分析の省力化

その次に普及が期待される領域として、建設・教育・製造業などの産業特化領域があるが、普及にはテキストや音声だけでなく、画像や位置情報など複数のデータを統合する「マルチモーダル・エージェント」が求められてくる。物理世界におけるセンシング技術の進化と共に普及がはじまると予想している。

実際、米国ではDecagonや11Xといったスタートアップが、カスタマーサポートや営業活動をほぼAIエージェントに完全代行させるモデルを推進している。対話だけでなく、関連タスクを自律的に実行する点が既存のチャットボットやRPAとは一線を画す。

注目するAIエージェントスタートアップ

AIエージェントの力で、人口減少社会ニッポンに新たな活路を

「AIエージェント」は第三次産業革命であるインターネットの登場以来、最も大きなインパクトを持つ技術革新となる可能性が高い。

過去の産業革命が示すとおり、投資バブルの後には必ず過剰供給と淘汰の局面が訪れるが、その荒波を乗り越えた企業には大きな機会が待ち受けている。

人口減少社会で課題先進国といわれる日本こそ、AIエージェントの活用により人手不足をカバーし、さらに生産性を高めていくチャンスがある。

日本は人口減少社会という課題に世界最速で直面し、労働力不足やDX人材の不足など構造的な問題を抱える。しかし、こうした制約こそが、AIエージェントの有効性を高める可能性がある。

バーティカルSaaS領域で培われてきた産業特化型データや業務ノウハウが活用されれば、世界に先駆けた新しいSaaS×AIモデルを構築できる余地は大きい。

いまこそ、産業変革の波を日本の未来に活かす時だ。


執筆 : 岩澤 脩 | ファーストライト・キャピタル 代表取締役・マネージングパートナー
編集 : 早船 明夫 | ファーストライト・キャピタル チーフアナリスト
2025.03.13

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