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東南アジアSaaS業界の最新トレンド

2021.10.04

産業分析

東南アジアSaaS業界の最新トレンド

シンガポール出身、ファーストライト・キャピタルのジョレルです。

世界中で急速なイノベーションが進む中、世界のVC市場でソフトウェアスタートアップへの投資がどんどん増えています。

ベンチャーキャピタルの投資額は、2012年の6.6兆円から2020年には33.1兆円へと、年率24.4%で急速に増加しています。

SaaSへの投資も同様に、2012年の1.6兆円から2020年には8.5兆円へと、年率23.7%で着実に成長しています。また、SaaSの占有率は比較的安定しており、年間のVC投資全体額の約25%を占めています。

米国、欧州、アジア太平洋地域におけるSaaSへのVC投資

SaaSのVC投資をさらに地域別に分類すると、主に2つの傾向が見られます。

まず、米国のSaaS投資は2021年現時点までに6.6兆円となり、世界のSaaS投資総額の約50%を占めるなど、大きな差をつけてリードしており、資本市場と技術市場の成熟により、今後もその優位性は変わらないと思われます。

また、アジア太平洋のSaaS投資は、欧州全体のSaaS投資と同等の水準にあり、2021年にはそれぞれ1.8兆円と、米国に次ぐ安定したペースを維持していることにも注目したいです。

東南アジアのSaaSのVC投資額は高成長率を持つ

アジア太平洋地域のSaaSをさらに深く掘り下げて見ると、この地域におけるVCのSaaS投資は、主に中国と日本が牽引していることがわかります。

アジア太平洋地域でのSaaSへの投資金額を見ると、SaaS市場の大きい中国と日本が投資額でリードし、常に市場の小さい東南アジアの8~16倍の投資額を集めています。

しかし、成長率で見ると、東南アジアのSaaSにおけるVC投資額は2017年の255億円から2021年には1,702億円へと、年平均成長率60.7%という最速のペースで成長しており、インドの43.0%を上回り、中国の12.4%と日本の12.5%の成長率をはるかに上回っています。

東南アジアSaaSのレイターステージ、特にバーティカルSaaSスタートアップへの投資額は2021年に急成長

この爆発的なトレンドをさらにステージ別に分類すると、東南アジアSaaSのレイターステージのスタートアップに大規模なVC資金が注入されたことに起因していると考えられます。

2020年にはコロナの影響で一旦VC投資が縮小しましたが、2021年のレイターステージSaaSスタートアップ投資額は2019年の数字を4.5倍に上回り、1,210億円という最高額に達しています。


さらに、東南アジアのレイターステージSaaSスタートアップを見ると、バーティカルSaaSスタートアップはホリゾンタルSaaSスタートアップより資金調達額が多いことが分かります。

具体的に、2017年以降、バーティカルSaaSスタートアップは毎年約5~150億円を調達していますが、特に2021年に954億円と爆発的に増加しており、ホリゾンタルSaaSスタートアップの275億円の約3.5倍となっています。

注目すべきレイターステージの東南アジア SaaS企業トップ10

では、東南アジアで最も資金を調達していたレイターステージのSaaSスタートアップとはどのような企業でしょうか。

これまでの資金調達額の多いレイターステージSaaSのトップ10を見てみると、10社の内7社がバーティカルSaaSであり、リテールのエンタープライズ向けの画像認識のバーティカルSaaSプラットフォームを提供しているTraxは、2021年だけで704億円と最も多くの資金調達を行いました。
また、2021年に資金調達額275億円で2位のAcronisは、クラウド上でエンドツーエンドのデータ管理クラウドプラットフォームを提供するホリゾンタルSaaSです。

これらの上位2社以外の、後続のスタートアップは1社あたり55億円から110億円と、資金調達額がほぼ均等になっていることが分かります。

また、レイターステージのバーティカル SaaSスタートアップは Retail、Finance、 Logistics という3つの領域に特化して成長していることから東南アジアの地域の特徴性が分かります。

まとめ

世界中で、SaaSは着実に成長し、成熟してきていることが、近年のSaaSへのVC資本の堅調な伸びからも分かります。

具体的には、アジア太平洋地域のSaaS投資は、金額的には中国と日本が主にリードしてきましたが、東南アジアは特に2021年に入ってから急速に成長しています。この爆発的な成長は、レイターステージSaaSの投資、特にバーティカルSaaSへの投資が急速に増加したことに起因します。今後も継続的に、東南アジア地域のSaaS発展の独自性に着目していきます。

以降の記事では、成功している東南アジアのSaaSスタートアップの業界環境を深堀り、彼らのビジネスモデル・拡大戦略を分析し、東南アジアにおける様々な成長機会にどのように取り組んでいるのかを紹介していきたいと思います。


執筆:Jorel Chan | ファーストライト・キャピタル アソシエイト
2021.10.04

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