SaaS Annual Report 2023-2024

本記事は、ファーストライトが発行する、日本における2023年のSaaS市場の概況やトレンドをまとめた「SaaS Annual Report 2023-2024」のサマリー版になります。

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SaaS Annual Reportの刊行にあたり
ファーストライト・キャピタル 代表取締役
マネージング・パートナー 岩澤 脩

2024年、上場トップSaaS企業のARR(サブスクリプション売上)が300億円を超えました。バリュエーション水準の低迷により、多くの投資家がSaaS投資から去ったが、ファンダメンタルはさらなる強さを示し、日本のSaaSは既にひとつの産業として確立したといっても過言ではありません。 

成長を牽引した要因は、「複数プロダクト化」と「エンタープライズ・中小企業への販売拡大」。

複数プロダクト化の強化を目指す上位SaaS企業は積極的なM&Aを仕掛け、2023年のM&Aの件数は過去最大となりました。

エンタープライズ領域では、カスタマイズ前提のERPやコンサルティングサービスも包含するBPaaS(Business Process as a Service)など、より労働集約なソリューションを提供し高単価の大手顧客ニーズに対応する動きも活発化しています。

また、米国のタイムマシン経営ではなく、日本独自の社会課題を解決するバーティカルSaaSが増えていることにも注目しています。

世界最速で人口減少社会に突入している日本、私たちの生活を支えてきた建設・製造業・物流などのレガシー産業における人手不足が社会課題となっています。 

「労働人口を増やすか」、「一人当たりの生産性を上げるか」の二択に迫られる中、レガシー産業の生産性向上を実現するバーティカルSaaSへの期待値はより一層高くなっているのではないでしょうか。 

本レポートは、SaaS市場の最新データをまとめた「Overview」、成長著しいバーティカルSaaSの成長要因について分析する「Vertical SaaS」、人口減少社会における注目テーマについて掘り下げる「Depopulating Society」の3部構成としています。

新たなテーマも提示した本レポートを多くの方にご覧いただきたいと思います。

 – Overview – 

引き続き力強い成長を見せるSaaSは2023年も様々な動きを見せた。

絶え間なく変化し続ける業界を俯瞰すべく、ARR、マルチプル、IPO、未上場資金調達、M&A、ARR獲得効率など様々な観点の定量的分析をOverviewとしてまとめている。

ここではレポートから厳選したパートを抜粋し、解説を行っていく。

1. ARR:国内上場SaaS企業はARR300億円の水準に。上位企業は「複数プロダクト」で成長を維持

SaaS企業のビジネス規模を示すARR額は、ラクスを筆頭とする300億円の時代に到達した。トップSaaS企業は「マルチプロダクト化」「料金改定による単価向上」「中堅・エンタープライズ領域への拡大」などを成長ドライバーとし、成長率を逓減させることなく力強い成長を示している。

2. マルチプル:PSR平均は2022年以降、6~8倍で推移。2023年は利益に対する評価が鮮明に

2023年は、SaaS企業が黒字化に向けて大きなかじ取りを切った分岐点となった。

freeeなどの先行赤字を計上し、高成長を目指す企業がマルチプルを下げる一方で、ラクスやeWeLLなど成長と利益を両立する企業が評価されている。

2024年2月末時点の株価においてはRule of 40%(ARR成長率と利益率の合算が40%を超える)を達成した企業のPSR平均が7.1倍に対し、未達成の企業の平均は5.3倍と開きが出ている。

3. Rule of 40%: ARR成長率と利益率の合算が40%を超えることが高バリュエーションの要件。各社の業績予想は成長率重視から利益率重視に変わりつつある

2023年後半以降、Rule of 40%分解要素のうち、「利益率」に対するバリュエーション感応度が高まっている。

投資家の評価の変遷に伴い、2024年以降の決算発表では、通期予想の黒字化や中期計画で想定利益率を提示するケースが目立っている。

4.M&A: 2023年はSaaSスタートアップ関連のM&A件数が過去最大に

2023年、SaaS企業に関連したM&Aは少数持ち分取得などの資本取引も併せると20件程度が観測され、過去最高水準に達した。 

これまでに見られた事業拡大に伴う買収案件に加え、PEファンドによるレイタースタートアップへのセカンダリー投資など新たな動きにも注目が集まっている。

5. スタートアップ資金調達: SaaSスタートアップ投資額・社数が減少。国内スタートアップ投資に占めるSaaS割合は18%

2023年の国内スタートアップ投資額減少トレンドはSaaS領域においても同様に見られた。

投資総額全体額が対前年比-41%、社数ベースで-37%となり、調達環境の冷え込み、投資先の選別が厳格化した。これにより、2023年における国内スタートアップ投資総額7,536億円に占めるSaaSの割合は18%と昨年に比べ下がっている。 

一方、一件当たりの投資金額中央値は前年比+34%となっており、 特にシリーズAなどのアーリーフェーズで、案件の大型化が進んでいる。この傾向はシリアルアントレプレナー(連続起業家)が再びスタートアップを立ち上げる際の資金調達で顕著に見られる。

 – Vertical SaaS – 

6. バーティカルSaaS未上場企業: 大型調達は限定的だが、着実にラウンドを進めたスタートアップが多数台頭

2023年、バーティカルSaaSの企業価値評価上位には、118億円の調達を行ったキャディやシリーズCラウンドで総額94億円を調達したカケハシが名を連ねた。

大型の資金調達件数自体は限定的であったものの、製造業関連のフェアリーデバイセズや、モビリティ領域のニーリーなど、国内産業で大きな比重を占める分野で のスタートアップなども台頭している。 

スタートアップにおける資金調達環境の厳しさは依然として続いているものの、2024年2月には、物流プラットフォームを展開するオープンロジがシリーズDラウン ドで35.5億円を調達するなど一定の資金流入は続いている。

7. バーティカルSaaS資金調達: 2024年問題に取り組むバーティカルSaaSへの投資が増加。製造業ではCADDiの大型調達事例が投資額をけん引

今年、さまざまな業界において働き方改革法案の施行による残業時間の上限が規定されたことに伴う、 いわゆる「2024年問題」を迎える。 

ノンデスクワーカー向けSaaSを提供するX Mileは、 2024年問題への対応ニーズにより、導入数10,000事 業所と2倍伸長で順調に成長。シリーズBラウンドで18億円の調達を行っている。 

また、物流DXを推進するアセンドは運送事業者に特化したクラウド型業務システム「ロジックス」を拡販し、シリーズAラウンドでの調達を行うなど、労働力不足などの問題に対処するため、これまでSaaSの導入が進んでいなかった領域でも投資が進んだ。 

2023年は、キャディによるシリーズC総額118億円の調達がバーティカルSaaSでは最大の投資案件となっ た。図面管理SaaSを国内のみならず、米国で展開を広めている。2024年問題のみならず、各業界で労働力人口の減少などに起因する様々な課題が顕在化する中、スタート アップが課題解決の担い手となることができるのか。

– Depopulating Society – 

8. 人口減少社会:2024年問題に代表される労働人口の不足が進むなかいかに「労働生産性」「労働人口」を向上させるか

労働人口減少化において経済的豊かさ(GDP)を維持する ためには、一人当たりの労働生産性を高める施策、もしく は労働人口を増やす施策の実行が必要となる。 

少子化対策は20年後を見据えた取り組みであり、一朝一夕に効果を求めることはできない。 短期的には「SaaS、ロボティクスなどのテクノロジーを活用 した生産性の向上」と「リスキリング、海外人材活用等の労働人口の拡張」の2択しか残されていない。

9. 人口減少の注目領域:「労働生産性」「労働人口」を向上させる8つの注目領域

10.人口減少関連スタートアップ:各バーティカル領域に展開し、業務効率化を促進する注目企業は

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ファーストライト・キャピタル株式会社






全体構成・執筆
代表取締役 マネージング・パートナー 岩澤 脩
プリンシパル 大鹿 琢也
チーフアナリスト 早船 明夫

編集・リサーチャー・制作協力
シニアアソシエイト 岩下 真也
アントレプレナーインレジデンス 前橋 卓弥
インターン 川添 敦史

デザイン
青松 基(sukku)

取材協力
株式会社システムフォレスト CSO 今村 和広氏
株式会社AIR VISA 代表取締役社 CEO・Founder ジャファー アフメット氏
株式会社SoftRoid CEO 野﨑 大幹氏

データ参照元
INITAIL:https://initial.inc/
Next SaaS Media Primary:https://note.com/_funeo

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