ファーストライトが運営する起業家のためのソーシャルクラブ「Thinka」
ゲストに株式会社カミナシの代表取締役CEOの諸岡 裕人氏を迎え、「プロダクトのValue Proposition」をテーマにてトークセッションを実施した。
顧客が多様な課題を抱える中で、いち早くバーニングニーズを見つけ、顧客にとってMust haveとなりえるプロダクトを企画・設計できるか否かは、その後プロダクトがスケールアップを目指す上で必要不可欠な要素である。
過去にプロダクトのピボットも経験した諸岡氏に、課題設定の考え方、本源的価値の企画・設計について見解を伺った。本稿ではそのサマリーをお届けします。
Value Propositionの作り方
ーーどうすれば適切なバリュープロポジションを設定できるか?
創業経営者がそのドメインに詳しくなり、手綱を握り続けること。
強いPMFを実現している多くのSaaS企業の創業経営者は、そのドメインの専門家であり、創業後においても権限移譲をしていない。
権限移譲が可能なケースは、以下の条件が揃う場合に限る:
①誰にでも理解可能な課題を解こうとしている
②権限移譲した相手が、自分よりもその課題を解決することに情熱を持っている
基本的に、創業経営者は自分の企業について、最も情熱をもち、最も詳しくあるべき。
*「詳しくなる」:その領域のプロであるコンサルタントと、対等以上に話せる状態になること。
ーーどのような課題設定をすれば良いか?
最初は数人、数千万円でスタートするため、その規模でも「きちんと解決できる深いペイン」を見つけるのがよい。経営課題のなかでNo.1のものでなくても良い。
解決すべき課題の質は上げすぎない。簡単に解ける課題をたくさん解く、ということがシード期は大事。簡単で再現性のある課題を選ぶことがポイント。
ーーPMFはどのように捉えるべきか?
PMFは一生追いかけることになるので、段階的に考えれば良い。
スケーラビリティは規模ではなく再現性で捉える。最初は単価が低くても問題ない。数で売っていきスケールさせる。SaaSにおいては、強い顧客基盤を形成することが強みにつながる。
ピボットする際に留意すべき主要なポイント
ーーピボットする際の判断基準は何か?
「自分の欲との対話」。
カミナシの場合、ピボット以前の事業では、ARR100億円が見えなかった。「食品工場業界を変えたいのか、ARR100億を達成して社会を変えたいのか」と考えた際に、後者であったため、ピボットを決意。「どこまでやったら自分は満足するのか」と、自分に問いかけることが重要。
ーーピボットするのに、最も適切なタイミングは?
1.自分の事業の難しさや、うまくいかない理由が口からどんどん出てくるようになったら。
2.ピボット後に、事業の成功確率が上がると確信できたら。
カミナシの場合、ピボット以前の事業について、共同創業者が「うまくいかないのでは」と伝えてくれたためピボットを切り出せたが、それでも言いづらさが勝りなかなか切り出せなかった。
ピボットを、事業の成功確率を上げるための1つの手段、として捉えられていたら、半年早く舵を切ることができた。
ーーピボットをする際に留意することは?
サービスだけではなく、ビジョン・ミッションもピボットすること。
カミナシの場合、サービスとビジョン・ミッションの変更に、それぞれ同じだけ時間を使った。
スタートアップの成長に不可欠な「自分より優秀な人」を入れるべく、ピボットのタイミングでワクワクするビジョンに作り替える。
<参考記事:Coralキャピタル「「ピボット・ピラミッド」という考え方―、何を変えて、何を変えないのか」>
ホリゾンタルSaaSにおけるセグメントごとの優先順位づけやプロダクト価値の設計・訴求方法
ーーホリゾンタルな事業展開をするにあたり、各セグメントの優先順位づけや価値訴求をどのように実施すべきか?
経営陣自らが、それぞれのセグメントの「誰が何に困っていて、何を提供したら皆が喜ぶか」を理解しにいく。
答えが出ないのは、意思決定者である自分が知らないことが多いから。A、B、C…というセグメントの、「誰に何を売ればいいのかが分かっている」状態まで課題を探求し理解しきる。
私(諸岡氏)の場合、忙しいスケジュールの中で課題の探求に費やせる時間が非常に少なくなり、課題の深さではなく、市場規模等のマクロな数字でしか捉えられなくなる状況に陥った。
シード期の比較的時間を確保しやすい期間に、どれほど課題の探索に時間を使えるかは非常に重要。
ーープロダクトの方向性の舵を切っていく中で、特定のターゲットに寄せた汎用性のない機能の開発をどこまで検討すべきか?
基本的には「絶対ダメ」。
ホリゾンタルで広げた後に、ひとつの業界に対して深めていくT字型の展開はうまくいかない。ビジョンとの整合性だけでなく、開発やマーケティングの観点からも整合性が取れなくなり、歪な形になる。
ーーヒアリングをして出てきた課題がばらけているとき、どのように課題を捉えるべきか、また優先順位をつけるべきか?
海外SaaSの事例をチェックする。
海外事例をモデルケースとして、どのような機能があるのか、それらの機能をどの順番で開発したのかを理解し、それらを自社プロダクトに取り入れてみる。
成功事例の場合、数ある課題の中でも、まず初めに最も深い課題を優先的に解決し、その企業が最も注目している領域を、機能群の一番上に持ってくる。「この順序で課題が深いのか」、と理解する材料として参考にする。
ーーTAMをどう捉えるべきか(今は使われていなくても、今後使われるようになる、という可能性をどこまで追うか)?
現実的に捉えるべき。
TAMが小さいからその市場を諦めるのではなく、例えTAMが1,000社しかなくても、その内100社を獲得した際には何かが起こるはず。
カミナシの場合は、TAMの小ささからピボットしたが、突き詰めても成功したのではないかと今は感じる。
やはり事業は、ホリゾンタルに展開するとぼやけるし、シャープに尖っていけるのはバーティカル。規模感の安心感と、PMF後の戦略の立てやすさと、どちらを追っていくのか経営陣で明確に判断すべき。
ーー特にどのセグメントが優先度高くカミナシを利用し得るのか、その判断のためのセグメントの定義づけ・選定を、当初どのように実施したのか?
カミナシの場合は、食品工場での課題に汎用性があると感じ、ホリゾンタルにピボットした。
ピボット前のプロダクトが食品工場向けのSaaSであったことから、ピボット後の最初の顧客も食品工場であり、目の前のお客さんを喜ばせるために開発したプロダクトを横展開していった。
さらなるスケールのために、業界ごとに異なる課題を解く必要があり、現在は食品工場とは別のユースケース獲得を模索中。
編集:鈴木梨里 | ファーストライト・キャピタル インターン
2022.10.19
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