ファーストライトが運営する起業家のためのソーシャルクラブ「Thinka」
ゲストにノバセル株式会社取締役CTOの戸辺淳一郎氏を迎え、「開発クオリティ・スピードを向上させるエンジニア組織の在り方」というテーマにてトークセッションを実施した。
売り手市場が続くエンジニア採用において、求めるエンジニアを採用し、適切な組織体制を築くことは、その後のプロダクト開発において必要不可欠な要素となる。理想的なエンジニア組織の体制の作り方やエンジニア採用・オンボーディングのベストプラクティスについて、ノバセルでの実体験を踏まえた見解を伺った。本稿ではそのサマリーをお届けします。
初期~成長期における、フェーズごとの組織の「あるべき姿」
ーースーパーエンジニアに完全に権限を委譲して少数で開発を進めることの是非を伺いたい。その後に与える影響や留意点にはどのようなものがあるか?
初期の開発を少数に完全に委譲することのデメリットは存在するが、初期段階が成功しなければ次はないし、初期フェーズでスーパーエンジニアが採れることは稀有なオポチュニティ。
積極的にスーパーエンジニアを採用・権限委譲をし、自社の競争力につなげるべき。
初期に数人に権限委譲する組織体制において、その人たちが早期に組織を抜けることが一番のリスクになる。その人たちが居続けたいと思うような組織作りを行い、エンゲージメントを高めるべき。
また、ポジションによる分業体制を敷かず、フルスタックの少数のメンバーで、全員で進捗に関する認識を合わせながら進められると良い。
ーー業務委託や副業人材を登用することの是非を伺いたい。
シード期は正社員にこだわるべき。
初期は、知識を社内に蓄積する仕組み作りに時間をかけることは難しく、個に蓄積したノウハウを会社のノウハウとするしかないので、彼らになるべく長く、組織にとどまってもらうことが重要。
そう考えたときに、エンゲージメントを高めやすく、長期で会社にコミットしてもらえる可能性が高い正社員の方が、より戦力になりやすい。
一方、事業への強い魅力付けができるなど、業務委託・副業人材にも長くコミットしてもらえる環境を用意できるのなら、正社員にこだわらなくていい。
また、ある程度ステージが進み予実コントロールが厳格に求められるようになった際には、コストコントロールの観点から、変動費(業務委託・副業人材)にしておくことはリスクヘッジになる。
意思をもってどういう雇用形態が良いかを考えてメンバーを採用する。
理想的な組織体制を実現するための採用・オンボーディングについて
ーー「優秀なエンジニアとともに働ける」という訴求ができない場合の、トップエンジニアへのアプローチ方法にはどのようなものがあるか?
自社で働くことの魅力を言語化し、作っておく。
サラリーに頼らない魅力付けが必要。ある程度の年収までは金銭的な魅力付けができるが、それ以降はサラリーでは勝負できない。
思い・魅力・楽しさを言語化し、多くの人に刺さらなくても一部の人に深く刺さる魅力をチームとして認識し、言語化しておく。
優秀なエンジニアであればあるほど、働く環境や作り出すプロダクトのインパクトに興味関心が高く、ミッション・ビジョン・バリューなどを大切にするはず。その訴求を自分たちの会社として用意し、提言することが重要。
ーーどうしたら優秀なエンジニアをコンスタントに採用し続けられるか?
エンジニア採用はエンジニアがHRとともにやらないと上手くいかない。
エンジニアがやった方がいいことは、自分のネットワークを介してリードを取ってくることや、面接の際の技術課題の作成・評価、及び候補者とのコミュニケーション。
しかし、エンジニアは基本、採用はやりたくないので、ノバセルではスーパーエンジニアにもジュニアに対してもフェアにこのタスクを課している。
全体のリソースの何パーセントかは採用に使うという前提で、開発プロダクトロードマップも敷いている。
過剰なくらいエンジニアを採用し、その余剰リソースを採用にあてることで、正のスパイラルを作り出すことが望ましい。
リソースが不足した時点で採用に注力すると、プロダクト開発も採用も出来ないという負のスパイラルに陥る。採用に時間を割けないくらいロードマップがきつければ、ロードマップを見直し、採用に時間をさけるようにするべき。
採用は行動量が全て。やることはある程度決まっているのでそれらをどれだけ愚直にやれるかがポイント。中途半端にやると最もペイしない。行動量を減らさない。
何人かまとめて採用した方が良い。一人ずつ個別に採用するのはかけられる費用の制限から採用方法が限られてしまう。多い方がボリュームディスカウントが使え、様々なチャネルから採用することができ、上手くいきやすい。
理想的な組織体制を実現するためのチームづくり
ーーCTOの果たすべき役割として、開発に注力すべきか、採用に回るべきか?
CTOの果たすべき役割は、「事業を技術で加速させる」こと。フェーズごとに、そのHowは異なる。
エンジニアが一人しかおらず、開発が事業加速に直結するなら開発をすべき。
リソースがボトルネックなのであれば、採用をやるべき。
プロダクトが成長した際には、より上流の設計、開発選定・技術選定等を担う。
ポイントは、事業へのよいインパクトを大きく出す役割を担うこと。CTOは常に、「自分がやっている行動のROIは最大か?自分にしか出来ない仕事か?」と問いかける。
ーーCEOはどう開発チームに関わるべきか?
CEOがエンジニア出身か、CPOタイプか、ビジネスサイドか、などで関わり方は変わる。
ビジネスサイドに寄っている場合は、開発はCTOに委譲したほうが良い。
一方で、CTOは現場に深く入り、現場メンバーとコミュニケーションをとっているから、チアアップ、モチベーションアップにおいてはCEOと役割分担が重要となる。何かのイベントがあった際にCEOからコミュニケーションをとり、モチベーションアップの起爆剤になるのは良い。
ーーエンジニアチームのカルチャー醸成についてその必要性や方法を戸辺さんはどのように考えているか?
エンジニアチームのカルチャー醸成は非常に重要。ここがエンゲージメント、採用の魅力づけ、育成環境の整備、全てに関わってくる。
そしてカルチャーを明確に描くことは、最初のCTOの大切な役割。
しかし、エンジニアチームのカルチャーは、全社のカルチャーの一要素としてとらえることを忘れない。エンジニアだけを別枠で扱うのではなく、常に視座は全社から見る。全社のカルチャーに対して、エンジニアの要素を足していく。
とにかく、CTOの最大の役割は事業の成長を最大化すること。そこにコミットするために、個別の施策を考えていく。
編集:鈴木 梨里 | ファーストライト・キャピタル インターン
2022.11.09
ファーストライト・キャピタルでは、所属するベンチャーキャピタリスト、スペシャリストによる国内外のスタートアップトレンド、実体験にもとづく実践的なコンテンツを定期的に配信しています。コンテンツに関するご質問やベンチャーキャピタリストへのご相談、取材等のご依頼はCONTACTページからご連絡ください。
ファーストライト・キャピタルのSNSアカウントのフォローはこちらから!